3st

「思い出と共に」


 中里真希、17歳。
 高校に入学してから知り合った柚葉と唯菜の知らない過去がある。
 それは甘く切ない思い出と、辛く悲しい過去…。

 帰宅と同時に髪を解いて制服を脱ぎ散らかし、窓を開けて部屋の空気を入れ換える。
 下着姿のままで窓際に立つのが平気なのは、真希の生れ持った性格だろうか。
 茜色に染まる空を流れる雲を眺めた後、本来の目的にはあまり使われる事のない勉強机へと向かう。
 そして机の上の写真立てで微笑む人物に向かって、真希は小さな溜息を一つ漏らした。

「はぁ………」

 昼間の光景は、柚葉とは違って行為その物は真希にはそれほど衝撃的な物ではなかった。
 それよりも、改めて自分が一人身である事を実感させられ、何よりも寂しさが胸に込み上げてくる。

「……お兄ちゃん……」

 写真立ての人物にそう呼びかける。真希に兄は居ない。その人物は真希が兄と慕う従兄弟の武だった。
 武は高校の3年間を真希の家に居候して過ごし、現在はカナダの大学へと留学している。
 真希は身近な異性であった武に恋心を寄せ、二人は自然な流れで関係を持った。真希が14歳の時である。
 それ以降、二人は真希の両親の目を盗んで関係を続け、互いを激しく求め合った。

「あんまり放っておくと…別の誰かのモノになっちゃうゾ…」

 写真立てを指先で突つきながら、真希は拗ねたような口調で語りかける。
 しかし写真に写った武は微笑むばかりで、何も語りかけては来ない。
 寂しさと虚しさに、また一つ溜息が漏れる。

(スッパリ諦めて…新しい彼氏でも作ろうかなぁ……)

 何人かの候補が居ない訳ではない。頭の中でそれを順に並べてみる。


候補1―宮ノ上重太
 男子空手部の主将であり、男女合わせた空手部員の中で、唯一真希以上の実力者でもある。
 空手の実力は折り紙つきな上、その容姿も比較的整っており、女子生徒の一部には人気があった。
 しかしながら言ってしまえば「空手バカ」でしかなく、硬派な性格と合わせて女性と付き合った経験さえ無いように思える。

(んー……主将はねぇ……顔は悪くないんだけど…空手しか無いからなぁ…)


候補2―坂下章
 柚葉の弟で、現在は中学3年生。姉と同じ櫻花学園へと進学する予定である。
 姉と同じく頭が良く、愛らしい容姿もあって彼もまた人気は高い。
 しかしながら真希から見れば「まだ子供」であり、男と女の関係には発展しそうにないように思えた。

(章くんもねぇ……後1年すれば……ギリギリなんだけどねぇ…)


候補3―安藤拓也
 真希の幼馴染であり、家も隣同士という関係。よくあるパターンであれば恋人同士になってもおかしくはなかった。
 それほど容姿が整っているとは言えなかったが、誠実で真面目な性格から周囲の人間からは好意を寄せられていた。
 しかしながら気弱な性格で、小さい頃から苛められては真希の背中に隠れてばかりいた。

(拓也は論外だねぇ……もうちょっと男らしくなってくれなきゃ…話にならないよ)


 改めて考えてみると、ろくな男が周りには居なかった。

(私って……ひょっとしたら不幸な女かも…)

 従兄弟の武さえ傍に居てくれたら、こんな事で落ち込む必要な無いのに。そう思う真希だった。

「お兄ちゃん………もう真希の事……忘れちゃったりしてないよね……?」

 滅多に手紙すら出してこない武に、真希が不安になるのも無理は無かった。
 カナダへと旅だって、初めてエアメールが届いたのですら半年後であった。
 コンピューターに疎い武はEメールなど出せようはずもなく、筆不精である為に自然に手紙の数は少なくなる。
 この1年半で来た数はたったの3通。どれも簡潔で真希に対する想いが語られる事も無かった。

『ひょっとしたらカナダで別の女性と…』

 そんな想像すら思い浮かんでしまい、寂しさと悲しさから見知らぬ男に身体を預けた事さえあった。
 しかしそれは何も満たしてはくれない、ただ虚しいだけの行為でしかなかった。

「早く帰って来て…真希を抱き締めて…」

 写真に頬を寄せた真希の瞳に、いつの間にか大粒の涙が浮かんでいた。

「抱き締めて…いっぱいキスして…真希を愛して…お兄ちゃん……」

 不意に真希の肩が小さく震えた。

「ん………んん……お兄ちゃん……愛してるの……」

 机の下に潜り込んだ手が、ショーツの上から秘唇の上を擦り上げていた。
 愛しい男の姿を思い描きながら、真希は寂しさに包まれた心と身体を慰めていく。

「お兄ちゃんが……お兄ちゃんが真希を……こんなにえっちな子にしたんだよ…」

 そう言って机の引出しを開けると、そこには小さな卵型のバイブレーターが隠されていた。
 武との別れの後、密かに通信販売で購入した代物だ。
 スイッチを入れると、それは微かな音と共に振動し始める。
 その振動が送り込むであろう快感を想像し、上気した頬で真希は期待に胸を膨らませた。
 そしてそっとショーツの上から突起の辺りにそれを押し当てる。

「んぁっ……!」

 痺れるような快感が全身に広がり、真希の背中が小さく跳ねる。
 そしてバイブレーターを押し当てたまま手を伸ばし、ブラを押し上げて大きめの乳房を露にさせる。
 若く張りのある乳房は重力に引かれて、下着から勢い良く零れ落ちた。
 武の手の動きの軌跡を思い出しながら、掌に余る乳房を力強く揉みほぐす。
 生地越しにクリトリスへと押し当てたバイブレーターの位置を巧みに変える度に、秘唇の奥から粘り気のある液体が零れ出すのが自分でも解る。

「あっ…んぁっ……はぁ……くぅんっ……!」

 単調だが激しいバイブレーターの振動は、触れた位置の血行を良くして敏感にさせていく。
 既にクリトリスは充血して固くなり、包皮から顔を覗かせていた。
 真希は股間に押し当てていたバイブレーターを持ち替えて胸へと運ぶと、そのまま乳首の周囲を刺激するように動かし、ショーツの中へは直に手を入れた。
 柔らかく生え揃った恥毛を越えて、微かに綻び始めた秘唇へと指を伸ばす。
 そしてそのまま躊躇う事無く指を秘唇の間へと滑り込ませ、その奥にある小さな秘孔を探る。
 泉のように蜜を湧き出す膣口を探り当てると、そのまま指を折り曲げて中へと沈めていった。

「もう…グショグショだよ…お兄ちゃん……真希のオ○ンコ…えっちな汁でいっぱいだよぉ……」

 真希は自らの興奮を高める為に、わざと直接的で卑猥な言葉を口にする。
 そうする事によって、より快感を得られる事を身体が覚えてしまっているのだ。
 それは、これが武と別れてから幾度と無く繰り返してきた行為である事を表してもいた。

「あぅんっ!、はぁっ!、そこっ……感じるのっ…お兄ちゃんっ…!」

 真希の中では、自分の手が武の物へと代わっているのだろう。まるで愛する男の愛撫を受け入れているかのように、甘く切ない喘ぎを漏らす。
 折り曲げた指を激しく出し入れさせながら、真希は何度も写真へと唇を寄せた。
 小刻みに振動するバイブレーターを乳首へと押し当て、膣内へ潜り込ませた指は大きな水音を立てて泉を掻き乱す。
 苦悶するかのように眉を寄せた表情で、真希は窓を開いたままであるのも忘れて泣き叫んだ。

「いいのっ…!、オ○ンコが気持ちいいのぉっ!!、んぁっ!、んくぅっ!、ひっ…ひゃぅっ!!」

 溢れ出した愛液は椅子まで濡らし、飛び散った飛沫に床までが濡れていた。
 次第に高まってくる絶頂の予感に、真希は膣内へと潜り込ませていた指を二本に増やす。
 柔軟に広がって膣内は二本の指を受け入れ、広がった膣口から一層激しく愛液が零れ落ちる。
 真希は子犬のように鼻を鳴らすように喘ぎながら、増やした指で一気に絶頂へと昇りつめようとしていた。

「くぅんっ……!、はぁっ…んんっ!、お兄ちゃんっ…真希…真希っ…もうイっちゃうっ…!!」

『真希…』

 懐かしい声が聞こえた気がした。
 その瞬間、真希は膣内へと深く指を突き立て、激しく絶頂へと達していた。

「あっ……ああぁっ!、…イクっ…イっちゃうっ!、イっちゃうぅっ…!!!」

 ビクビクっと大きく全身を震えさせながら、真希の全身から力が抜けていった。
 手から離れたバイブレーターが、床に落ちて寂しげに震えている。

「あふぅ……ん……はぁ……ん……」

 温もりを得る事の出来ない行為は、何度繰り返しても行為の後には虚しさと寂しさだけが残る。
 真希の瞳から大粒の涙が零れ落ち、写真の中で微笑む武の上へと零れ落ちた。



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