神谷道場の庭先。
 不意に現れた縁に抱きすくめられ、薫は戸惑いと混乱の中で温もりを思い出す。
 縁の温もりを………




薫-再会-

第三話





「は、離してっ……」
「………」
 薫の言葉を聞き流し、縁は久しぶりの温もりと感触を思い出すかのように、薫を抱きしめ続ける。
 あの離島での一時の幻のような想い出を共有する二人。
 縁の腕の中でもがきながらも、薫も縁と同じようにあの瞬間を思い出していた。
 終わりが来る事を知りつつ、激しく求め合ったあの瞬間を。
「え、縁っ……私は…私はっ……!」
 このままでは縁を受け入れてしまいそうな自分自身に、薫は戸惑いと自己嫌悪で涙を浮かべている。
 剣心を裏切りたくないという思いと、縁の清冽な想いを受け止めたいと思う気持ち。
 相反する二つの思いに薫の心は激しく乱される。

「薫……」
 縁は腕の力を緩めると、薫の両肩に手を置いてその顔を見つめた。
 その真摯な瞳は薫の混乱と戸惑いを貫き、その心を捕らえる。
「え……に…し………」
 薫の薄く紅を引いた唇がゆっくりと小さく開いていく。
 まるで何かの力に引き寄せられるかのように、近づいていく二人の唇。
「んっ………」
 薫の後頭部を抑えるようにして、縁は薫の薄紅色の唇を奪った。
 そして微かに開いた唇を強引に押し開き、荒々しく舌先を潜り込ませていく。
 情熱的で官能的なその口づけに薫は抵抗するのも忘れ、次第に自分からも舌先を絡め始めていた。
「ん……んく……」
 その間に縁の手は背中から腰へと撫でるように下りていき、腰紐を通り過ぎて臀部をゆるやかに揉みほぐす。
 縁の差し出した舌を啄むように舌先を絡めながら、薫は両手を縁の背中へと回す。
(私…何してるんだろう……)
 剣心を裏切る事に対する罪悪感と、縁の凄烈な愛情表現に満たされてしまう心。
 相反する二つの心の狭間で、薫はただ流されるがままに身を委ねてしまった。



「縁……」
「もう一度…お前を愛せルとは思わなかった…」
 昼間だというのに薄暗い部屋の中で、互いに着物を脱ぎ捨てた二人が絡み合う。
 再び唇を重ねながら、縁の手は薫の乳房へと伸びる。
 以前の時よりも微かに豊かさの増したその乳房の感触を確かめながら、先端の突起へと舌を絡ませる。
「んっ……はぁっ……」
 気を許せば漏れだしてしまう甘い吐息を、手の甲で口元を押さえて必死に押さえようとする薫。
 しかし縁の手と舌の前には、それも徒労に終わる。
 柔らかな乳房を揉み上げつつ、尖らせた舌先で先端の突起を弄ばれると、思わず薫は甘い嬌声を漏らしてしまう。
「ふぁんっ……アッ……はぁっ…!」
 久し振りに肌を重ねる薫の体温を掌に感じながら、縁は貪るように薫を求める。
 突起を弄んでいた舌先は胸元から腹部、そして下肢へと降りていき淡い翳りへと達する。
 薫の両足を軽く開かせると、縁は微かに湿り気を帯びてきたそこへと舌を伸ばした。
「はぅっ…んんっ……あぅっ…!」
 鮮やかな色合いの花弁を指先で割り開き、溢れ出した密をすくい取るようにして舌先に絡め、秘所の上部で息づき始めた突起へと舌先を絡める。
 その快感に桜色に染まっていく薫の肌。
 そして絶え間なく口をついて出る甘い嬌声。
 鼻先をくすぐる甘い香りを吸い込みながら、縁は溢れる想いをぶつけるかのように薫の秘所を愛した。
「やぁっ……はぅんっ……凄っ……だめっ……!」
 頬を主に染めて激しく頭を振りながら、薫は縁の頭を抱えるようにして押さえ込む。
 縁は構わず小さな水音を立てつつ、激しく薫の秘所を舐め上げる。
 ザラついたその舌の感触に激しく喘ぐ薫。
 縁は更に指先も加えて、浅く秘唇へと埋めて掻くように動かしつつ探る。
 そして指先に窪みの感触を探り当てると、躊躇うことなくそこへ指先を潜り込ませた。
「はぁぁぁっ!、あっ、あっ、あっ、ああっ……だめ…そんなにされたら私っ…!」
 自分の行為によって薫が激しく乱れる様が、縁を高ぶらせて行為を更に激しくさせる。
 激しく指を出し入れさせ、舌先を突起に絡ませて軽く甘噛みする。
 薫は白い胸元を揺らしながら大きく仰け反り、短い喘ぎと共に小さく達した。
「はぁぁぁっ…!!」
 手は薫の秘所へと伸ばしたまま、縁はゆっくりと上半身を持ち上げる。
 そして口元を拭って薫の耳元へと顔を近づけた。
「俺のも…愛してくれルか」
 耳元で囁かれたその言葉に、薫は小さく頷き返して身を起こした。



 胡座を組んで座った縁の前に薫は横から顔を近づける。
 そして隆々とした物へと手を添え、小さな舌を差し出して先端を飲み込んでいった。
「………」
 縁は薫の長い髪を撫でながら身を任せる。
「んっ……んんっ………」
 長い黒髪を揺らしながら、薫は愛らしい唇で縁の物を愛する。
 情の込められたその行為に、髪を撫でる縁の手にも思わず力が入る。
 そして腰の辺りが熱くなるような感覚が縁を包んでいた。
「……んっ………んっ……」
 次第に激しくなる唇での奉仕。
 縁だけでなく、薫もその行為に一度は下がりかけた体温を再び上昇させていく。
 それを感じ取ったのか髪を撫でていた縁の手が、頭から首筋、そして背中から腰へと滑っていく。
「んんっ……!」
 下肢へと伸びたその手は、まだ余韻の残った秘所へと到達し、花弁を押し広げて内部へと指先を潜り込ませる。
 思わず薫は縁の物から口を離し、縁の下半身にしがみ付くようにして喘いだ。
「はぁんっ!、……んんっ…んぁぁっ!!」
 自分から言い出した事であるのに、縁には受身である事が絶えられなかったのだろう。
 そのまま態勢を変えて薫に覆い被さる。
「あっ、ああんっ!、え…縁っ……!!」
 切羽詰ったよな声を上げ、薫はその裸体を縁の身体の下で震えさせた。
 薫の秘所で指先を激しく動かしながら、縁は薫の耳朶へと息を吹きかけるように囁く。
 その低い声音は薫を身体の芯から燃え上がらせ、激しく縁を求めさせた。
「愛していル…お前の全てを…」
「縁………!!」
 目の前の縁の首に両手を回して薫から唇を求める。
 頭の後ろを抱えるようにして顔を近づけ、縁はそれに応えて唇を重ねた。
 激しく絡み合う二人の舌と唾液。
「んんっ………縁ぃ……」
 甘い声音で名を呼び、温もりを感じようと身体を擦り合わせる。
「欲しい……縁が欲しい……」
 初めて薫から明確な言葉で自分を求められ、縁の中で何かが弾ける。
 微かに口元に歓喜の色を浮かべて、縁は薫の膝下に手を入れて両足を持ち上げる。
 そして激しく濡れた薫の秘所へと自分の物をあてがい、一気に腰を進めて薫を貫いた。
「んはぁぁぁっ…!!」
 その身体を貫く感触に、薫は白い胸元を仰け反らせて喘いだ。



 その全てを薫の体内へと収めると、縁は薫に覆い被さったまま動きを止めて呼吸を合わせる。
「はぁ……はぁ……」
 見詰め合い絡み合う二人の視線。
 そして小さく薫が頷くと、縁がゆっくりと動き出した。

 あまり勢いを付けず、腰の動きだけで薫の中を出入りさせる縁。
 擦れ合う粘膜と体液の織り成す響きの中で、薫は久々に感じる縁の体温を確かめていた。
「あっ……んくぅっ……はぁっ……!」
 薄暗い部屋の中で絡み合う日に焼けた縁と薫の柔肌。
 甘い響きの声音を響かせながら、薫は全身で縁の全てを受け止める。
 そして少しずつ、確実に縁の動きが加速していく。
「あっ、あっ、あああっ!、縁っ……縁ぃっ……!!」
 裏切りに対する背徳感、だがそれ以上に自分を包み込んでいる確かな快楽。
 抱かれる行為に悦びを感じているのか、想いを受け止める事に歓びを感じているのか。
 不確かな心が残ったまま、薫は縁の激情に流されていく。
「はぁんっ!!、…だめっ……深いっ……あぁっ!!」
 薫の手が無意識のうちに縁の背中を掻きむしり、赤い筋を走らせる。
「もっと…もっとオレを感じろ…思い出せ…!!」
 縁の言葉に、薫の脳裏に激しく愛し合った日が蘇る。
 それは更なる官能の炎を薫に宿らせ、全てを忘れて没頭させる引鉄となった。
 白く艶やかな両の乳房が縁の動きに合わせて揺れ、肌は紅潮して桜色に染まっていく。
「んっ!、くぅ……はぁんっ……あんっ…!」
 剣心とは違う激情に任せた激しい行為。
 今、この瞬間しか許されない…いや、この瞬間とて許される事の無い二人の関係。
「俺を感じてるかっ…俺の全てを感じてるかっ…」
 額から汗を滴らせながら、己の全てを刻み込もうと一心不乱に動き続ける縁。
 飛び散る汗の飛沫を全身で受け止めながら、波のように込み上げてくる快感に身を振るわせる薫。
「はぁんっ…駄目…私もうっ……縁っ……!」
 断続的に襲い掛かる小さな絶頂の波。
 薫は身を縮めるようにしてそれに耐えつつ、縁の腕に指先を食い込ませる。
 縁も自分の分身を締め付ける感触に眉を寄せて堪えながら、最後の瞬間を共に迎える為に動きを加速させる。
 ぶつかり合う二人の身体と想い。
「あっ、あっ、あっ、あっ、んぁっ!、縁っ!、縁っ………ふぁぁぁぁんっ!!」
「薫っ……!!」
 最も深い部分に自分の分身を打ち込み、縁は薫へと全ての想いと一緒に精を放った。



 脱力感に包まれて荒い呼吸に胸を揺らす薫。
 その傍らで薫の髪を指の間に絡ませながら、縁は小さく呟く。
「…大陸へ戻ル」
「………え?」
 傍らの縁の目を見つめるようにして聞き返す薫に、縁は再び同じ言葉を繰り返す。
「大陸へ戻ル」
「どうして…?」
 薫の問いかけを聞き流して縁は立ち上がって着物を身に着け始める。
 その姿を視線で追いかけながら薫も上半身を起こす。
「一緒に…」
 視線を背中に受けながら、縁はそう言いかけて止めた。

<続く>