同級生二次創作SS「螺鈿細工の月−第三章−」

◇ 第七話-錯綜- ◇


 隠しカメラによる監視下にあるとはいっても、気心の知れた剛三の元での生活は、舞にとって心休まる時間でもあった。
 しかしその安寧に浸っている時間的な余裕は無い。
 美沙を早田の手から奪い返すのと同時に、進めなければならない事が山積していた。
 そんな中、剛三の食事の相手をするという名目で連れ出され、ある人物達と引き合わされる。
「正式に決まった訳じゃないんだが、今度のお披露目にも参加されるそうだ」
 そう言って紹介された二人は、剛三と同年代の男達だった。一人は地元の政治家で、もう一人は複数の病院を経営している。どちらも地元の政財界に強い影響力を持った男だった。
 そしてその二人は、以前に客として舞と美沙を買った事がある。
 美沙はともかく舞が相手をさせられたのは、かなりの重要人物だけだということを考えると、それだけで二人がどういった存在なのかが分かる。
「よろしくお願いします」
 そんな二人を前にして、舞は丁寧に頭を下げた。
 二人には既に剛三から内々に話が伝えられ、舞の思惑に対して快諾を得ている。
「話は聞かせてもらったよ、私でよければ協力させてもらおう」
「まあ、あの胡散臭い連中とは早く縁を切りたかったからな」
 それぞれ言い回しは異なるが、笑みを浮かべて右手を差し出す。相原建設の社長と桜木家の長女、その二人の関係性を信じたからこそ、男達は協力する気になったのだろう。
「ありがとうございます!」
 緊張感の中にも笑顔を滲ませ、舞は二人の手をしっかりと握った。
 そして食事をしながら、具体的な内容について舞の口から語られていくと、二人の男は改めて目の前の少女が桜木家の跡継ぎであることを実感するのだった。
「本当にやるんだね?」
「はい」
 決意の秘められた真っ直ぐな瞳に、男達は顔を見合わせて頷き合った。
 舞の頭の中にある内容は、社会的にはけして認められる事ではない。普通に考えば上手くいくとも思えなかったが、目の前の少女が口にすると、それが既に全て定まった未来であるかのように思えてしまう。
 そして仲間内で最も欲の深かった剛三が、ここまで入れ込んでいる事に納得するのだった。


「二人とも、時間はあるんだろう?」
 会食を終えて食後のコーヒーを口にしながら、剛三が二人の男に何気なく口を開く。
 もちろん、その言葉の意味に気付かない二人では無かったが、今日の会話を思えば戸惑わずにはいられない。
 女を道具として扱う組織から手を切ろうというのに、それでは本末転倒というものだ。舞を気遣うような視線を向けながら、二人か顔を見合わせて口ごもる。
「いやいや、これは彼女の気持ちなんだ。これからの事もあるし、受け取ってやってくれないか」
 そう言って肩を抱く剛三に頷き返し、机を挟んで向かい合った舞は、恥かしそうに頬を染めながら頭を下げた。
「はい……よろしくお願いします」
 もちろん舞にしてみれば今夜の礼という意味もあるし、二人を確実な味方としておきたいという計算もある。
 早田達と手を切るというリスクを負う以上、それ以上の見返りを与えておきたかったし、何よりもその後の事を考えると、より密接な結び付きが欲しかった。
「まあ、君がそう言うなら……」
「お、おい……」
 先に受け入れようとしたのは政治家の方だった。病院経営者は最後まで躊躇っていたが、舞から積極的に誘われると最後には相好を崩してしまう。
 そして仕事があると言う剛三を残し、舞は二人の男と連れ立って店から出て行った。
「まったく、健二の奴は……」
 携帯電話を取り出し、繋がらない相手に溜息を漏らす。
 マンションでの一件以来、剛三の息子である健二は家を出てしまっていた。
 幼馴染であり、一時は婚約者とまで見られていた舞との関係を思えば、深く傷付いたのも仕方の無いことだろう。
 珍しく父親の顔になりながら、剛三は再び溜息を漏らすのだった。


 ───そして数日後。

 早田の決めたお披露目の当日がやってきた。
 場所はいつもと同じ、早田と山辺が使っているマンションの広いリビングで、窓には視界を遮るように分厚い遮光カーテンが引かれている。
 そのリビングの一方の壁際にソファが並べられ、観客と思わしき男達が何人も腰を降ろしていた。
 そして反対側の壁際に簡素なベッドが置かれているが、それがお披露目の舞台代わりという事なのだろう。
 控え室代わり隣室でお披露目の開始を待っていた舞は、改めて早田と条件を確認し合う。
「こいつを相手にして満足させられたら、お前のお友達も一緒に連れて帰っていいぜ」
 そう言って早田が手招きしたのは、覆面で顔を隠した男だった。目と口の周囲だけを切り取られた、ラバーマスクのようなものを頭から被っている。その異様な姿に思わず舞は息を飲んだ。
 しかし、ここで怯んでいては未来は無い。密かな企みを成就させる為にも、前を向いて這ってでも進むしかないのだ。
「……分かりました」
「後の事は好きにしろ。ただし───」
 それまで口元に薄笑いを浮かべていた早田の顔が、陰惨な肉食獣の如く凄みを増す。
「客を飽きさせるなよ」
 普通の少女であれば、それだけで怯えて震えが止まらなくなりそうな迫力。しかし舞はその圧迫感を全身で受け止めると、怯えることなく頷き返した。
「はい」
「フン……相変わらず、可愛げの無い小娘だな」
 お披露目の舞台へと向かう舞を見送り、早田は苦々しく呟いた。


「楽しみですな、桜木家のお嬢さんがどう変わったのか」
「我々の番が回ってくるには、まだ暫くかかりそうですし」
 観客の男達が雑談を交わす中、リビングへと繋がる扉が開きバスローブ姿の舞が姿を現す。
 ただのお披露目だと信じている観客は思わず声を漏らす、剛三に引き合わされた二人の男は無言で舞を見詰めていた。
「初めまして、桜木舞と申します……」
 そう言って深々と頭を下げる姿勢は、やはり育ちの良さを物語るだけの気品に満ちていた。
 舞の素性については全員が知っているが、実際に相手をしてもらった男は少ない。仲間となった男二人を除けば、一人か二人といったところだろう。
 それだけ舞は早田達にとっても特別な存在で、既に相手をさせたのは地元の政財界に大きな力をもっている人物だけだ。
 初めての相手が多いという意識のもと舞は口を開く。
「殿方をお慰めする為に、ここで躾けられております。今宵はどうぞ、私の体をご堪能下さいませ」
 流れるように挨拶をすると、舞はにっこりと微笑んでみせた。その柔らかな微笑みに、男達の方が胸を高鳴らせる。清楚な美しさと可愛らしさの中に、艶やかさが程よく滲んだ微笑だった。
「まずは、どうか隅々までご覧下さい……」
 そう言ってバスローブを脱いで全裸になると、ベッドに上がり腰を降ろした。そして体操座りのような姿勢から、爪先を左右に開くようにして脚を広げる。更には男達が局部を観察できるようにと、両手で秘部を開いて見せた。
「おぉ……」
 薄っすらと湿り気を帯びた桜色の秘肉は、全く形が崩れておらず、美しいとさえ言えるほどだった。見ていた男達の口からも感嘆の声が漏れ、自然に身を乗り出してくる。
 ここまでの舞は完璧と言っていい振る舞いで、男達の意識を引き寄せる事に成功していた。
 客達の心と視線を完全に掴んだところで、おもむろに指先を動かし始める。
「見られているだけで……興奮してしまいます……あぁ……」
 自分を満たす為ではなく、見ている観客達を刺激する為の自慰。少し離れた位置からでも分かるように、大きめな動きで大胆に秘唇をなぞっていく。
 観ている男達の視線も自然に吸い寄せられていき、その指の動きや秘唇へと釘付けになってしまう。
 それをしっかりと確かめながら、指先はそっとクリトリスを擦り始めた。
「ン……あふ……ぅ……んく……はぁ……はぁ……」
 激しく快感を貪るのではなく、少しずつ高まろうとする動きに、男達は舞のプライベートを見ているような気にさせられる。
 目の前の美少女が夜毎耽っている淫らな指戯を覗き見ているような、そんな気分に興奮を昂ぶらせていく。
「皆様に見られているのに……あぁ、こんな……いけないことを……」
 それは男達を煽る言葉であるのと同時に、舞の心から零れた本物の言葉でもある。
 早田の命令で何人もの男を相手にしてきたが、ここまで露骨な露出は初めての経験だ。剛三によって手ほどきを受けていなければ、恥かしさに耐え切れなかっただろう。
 体の疼きと興奮を辛うじて理性の支配下に置き、本気と演技の狭間で羞恥に染まりながらオナニーを披露し続ける。
「んくっ……はぁ、はぁ……んんっ……あ……ああっ……!」
 クリトリスへの愛撫によって昂ぶり、膣口には玉のような愛液の雫が浮かび上がると、今にも零れ落ちる寸前になっていた。
 そこへ細くしなやかな指先が触れると、まるで弾けたように蜜が零れ落ちていった。
 舞の指先はそんな雫のような愛液に包まれながら、ゆっくりと膣口へと沈み込んでいく。
「くふっ……ん、んん……あふぅ……奥まで……熱くて蕩けてます……」
 自分の指先で感じた膣内の感触を、艶のある声でうっとりと説明する。
 微かに潤んだ視線は観客の男達を順番に舐めるように見詰め、再び正面へと戻ると淫らに微笑を浮かべながら囁いた。
「んふ……どなたか……確かめて下さいますか……?」
 その言葉を受けて観客達は一斉に身を乗り出し、その役目を争うように求める。
 舞は客達の間に視線を泳がせると、最も遠い席に座っていた中年男性を指名した。
「おお……!」
 観客の中から選ばれた男は嬉々として前へと進み、舞の足元へと慌しくしゃがみ込む。
 舞はその男の耳元に唇を近付けると、とびきり甘く淫らな声で媚びるように囁いた。
「もう濡れてますから、そのままどうぞ……お客様の素敵な指で、たっぷりと可愛がって下さい……」
 耳から蕩けていってしまいそうな甘い声に、男の興奮も最高潮へと達していた。
「よ、よし……!」
 舞がそっと爪先を開いていくと、男は躊躇うことなく指先で秘唇を左右に開き、微かに蠢いている膣口へと指を挿入した。
 膣内は十分な量の愛液に満たされていて、指の挿入に合わせて溢れるように零れ落ちる。
 表向きは淫らに調教された女を装っていても、心だけは冷静さを保とうとする舞。しかし逞しい男の指が入ってくると、一瞬にして体の快感に心が引っ張られてしまう。
「ああっ……!」
 体が男を求める。そんな感覚を知ったのは、ここ最近になってからのことだ。
 膣奥に感じる熱い疼きと共に、それを鎮める為に太く逞しい男性器が欲しくなってしまう。
(駄目……今はまだ……!)
 欲望に流されてしまうようでは、今後の目的を果たす事は出来ない。
 例え淫らな娼婦となったとしても、肉欲に溺れた淫婦になるつもりは無かった。
「く……ぅ……んっ……はぁっ……はぁっ……んくっ……!」
 溺れそうになる体を必死に繋ぎ止め、それでも快感には身を委ねなければならない。
 相反する要素に混乱していく体を、舞は辛うじて理性の支配下に置き続けた。
「い、いかがですか……くふっ……舞の膣は……」
「素晴らしいな……奥まで蕩けているのに、しっかりと締め付けてくる……!」
 興奮を抑え切れない男は、やや乱暴に指を出し入れさせる。
 それを自分の男性器に見立てて、舞を犯している気分に浸っているのだろう。
「ここが感じるのか? それともここか?」
 荒い息を吐きながら、興奮しきった様子で舞を責め立てる。
 淫らなオナニーによって十分に高まっていた膣内は、その乱暴な刺激によって一気に絶頂へと導かれていく。
「そ、そこっ……くぅんっ! いいっ、いいですぅっ……ふぁぁぁぁっ!」
 膣襞が蠢いて男の指に絡み付き、刺激を受けてまた愛液を溢れさせる。
 まるで泉のように豊富な愛液を滴らせ、男の乱暴な愛撫に高まっていく。
 切羽詰まった喘ぎを漏らしながら、舞は観客達の様子を窺い、どうすれば彼らを満足させられるのかを考えた。
(こ、このまま……!)
 ここに集まるような客は、ただ技巧の優れた娼婦を求めている訳ではない。
 淫らでありながら、恥じらいを失わない特別な存在。
 自分に求められるものを鋭く感じ取り、舞は男の愛撫に身を委ねた。
「あ、ああんっ! もう……イキそうですっ……! イカせてっ、イカせてぇ!」
 男の愛撫に屈したように、絶頂を求めて甘え強請る。
「よ、よし!」
 自分の愛撫によって舞が感じているのだと、男は更に興奮を高ぶらせた。
 執拗に膣内を指で刺激し、珠のようなクリトリスも捏ね回す。
 その荒々しさがまた、舞の被虐的な性癖を刺激した。
 観客達に見守られながら、見ず知らずの男の指によって絶頂へと導かれる。
(あぁ……イク……!)
 ゾクゾクと背筋を駆け上がる快感を感じながら、舞は激しく昇りつめていった。
「あああああっ! イク! ああっ、イッちゃうっ、イッちゃうぅぅぅぅっ!!」
 下半身がビクビクっと震え、大量の愛液が溢れ出す。
 演技ではなく本気で昇り詰める舞の姿に、観客達からは感嘆の溜息が洩れていた。
 彼らが普段相手している女達は、行為の最中にかなりの頻度で演技を織り交ぜる。
 男達の気持ちを盛り上げる為には必要なことだったが、彼らほどの経験があれば普通の演技では見え透いてしまう。
 だからこそ、本気で感じ、本気で達してしまう舞の姿に、彼らは興奮を覚えるのだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……はぁぁ……!」
 絶頂の余韻に大きく胸を隆起させ、頬をうっとりと赤く染める。
 男はすぐにでも挿入したげな表情を浮かべていたが、この場でそれを許すわけにはいかない。
 絶頂の余韻で脱力した体を奮い立たせ、頬笑みながら男に礼を述べる。
「んはぁ……はぁ……はぁ……ありがとうございました……」
「あ、あぁ……」
「今日は最後まですることが叶いませんが……ご指名頂いた時は、お客様だけのものですから……」
 そして感謝の印として男にキスをする。
 固唾をのんで見守っていた観客達は、緊張感から解放されたように、口々に感想を漏らしていた。
「小さな頃から知ってますが、いや……ここまで育っているとは」
「そのへんの小娘とは違いますな、気品がある」
 もっともらしい事を、余裕のある口ぶりで話してはいるが、誰もが今すぐにでも舞を抱きたいと思っていた。
 今ここでオークションを行えば、たった一夜限りのことだとしても、どこかで金額が上がるか分からない。
 舞台の袖から様子を眺めていた早田は、改めて舞という少女の存在感に驚かされていた。
 だが、それを舞に気取られるようなまねはしない。
 舞台裏で控えていたラバーマスクの男に合図を送り、お披露目のメインイベントを解説する。
「では、実際にどこまでお相手出来るのか、ここでご覧下さい」
 ラバーマスクの男が入ってきた瞬間、観客達が一斉に息をのむ。
 だがその男が舞の相手をするのだと分かると、全員が身を乗り出して舞台となるベッドを見つめた。
(後はこれで終わり……)
 乱れた呼吸を整えながら、舞もそのラバーマスクの男を見つめる。
 早田からの指示は、その男の相手をして満足させる事。それさえ果たしてしまえば、美沙を取り戻す事が出来る。
 観客達の前で披露させられる、見世物としてのセックス。それに抵抗を感じない訳ではなかったが、それを飲み込むだけの覚悟を持っていた。
 目的を達する為であるならば、どれだけ辱められようとも構わない。
 自分を始めとして、美沙や他にも犠牲になっている女性達は多い。彼女達を救わなければという思いが、舞を衝き動かしていた。
 得体のしれない相手に込み上げる恐怖を抑え込み、その男の前に膝を着いて顔を見上げる。
 そこには自分へと向けられる真っ直ぐな視線があり、舞はその瞳が放つ光に既視感を覚えた。
(この人どこかで……っ!?)
 目の前の瞳が、記憶の中にある瞳と繋がる。
(く……黒川さん……!)
 その瞳が放つ光を、舞が見間違うはずがなかった。
 桜木家の娘として生きることしか頭になかった舞に、ひとりの女としての生活を与えた男。
 彼の取った手段は絶対に許されるものではなかったが、黒川という存在がいなければ、舞は今でも人形のように『桜木家の長女』という仮面を着けて生きていただろう。
 良くも悪くも、彼女を解き放った男だ。
 ラバーマスクの男の正体に気付いた舞は、慌てて早田の様子を覗う。
 すると早田は口元に軽い笑みを浮かべ、嘲笑うかのような視線を舞に向けていた。
(……そういう事なのね)
 どういう事情があって黒川がそれを受け入れているのか分からなかったが、少なくとも状況を理解していると思って間違いない。
 黒川の不意の出張に美沙の出来事が重なって、いつの間にか離れ離れになっていた。
 一時は心を許しかけた相手に、今の自分の姿を見られるのは耐え難いものがある。
(でも、私は……)
 黒川の元で一人の少女としての生活を得て、更には少女から女へと脱皮させられた。
 美沙を巻き込んでの早田や山辺からの恥辱の連続や、健二との不幸な再会、そして剛三との出会い。
 様々な思いが胸に込み上げてくる中、舞は目の前の男のズボンのファスナーを下ろす。
 そこから現れた男性器を見て、舞はラバーマスクの男が黒川であることを確信した。
 自分を女にして、セックスと快感を教え込んだ男性器を、舞が忘れるはずがない。
(まさかこんな形で、また黒川さんと会えるなんて……)
 早田達の企みによって、もう二度と会えないのではないかと思っていた。
 どんな経緯でこの状況になっているのかは分からないが、少なくとも黒川から望んでそうなっているとは思えない。
 自分と同じように、早田達に逆らえない状況に陥っているのではないか。
 そうでなければ、わざわざラバーマスクで顔を隠し、誰とも分からない状態で現れる必要が無い。
(黒川さん……せめて今だけでも……)
 舞の密から企みが結実すれば、黒川とて今のままではいられない。
 だとしたら、男と女として向かい合うのも、これが最後になる可能性がある。
 反り返るように勃起した男性器へと指を這わせ、細く長い指先を優しく絡めていく。
「ご奉仕……させて下さいね……」
 それはお披露目をする女としてではなく、桜木舞として黒川に向けた言葉。
 この空間でそれに気付いていたのは、黒川と舞、そして早田の三人だけだった。
「ん……ちゅ、ちゅぷ……れろ、れろ……れるぅ……んふ……」
 亀頭を指先で揉むように刺激しながら、裏側の筋を舐め上げるように舌先を這わせる。
 男性器をすぐに咥えるようなことはせず、舞は黒川を焦らすかのように、丁寧に刺激を与えていった。
「ぅ……ん……」
 どこかもどかしさを感じるような刺激に、黒川の口から微かな声が漏れる。舞はそれを聞き逃すことなく、その反応を確かめながら的確に刺激する。
 まだ何も知らなかった舞にフェラチオを教えたのは黒川だったが、暫く離れている間にその技巧は想像以上に上達していた。
 自分ひとりの物だった少女を、誰がここまで淫らに染め上げたのか。嫉妬に染まった興奮が、黒川の胸を内側から焦がしていく。
「ちゅぷ……ちゅ、ちゅ……んふ……ちゅる……れろ、れろ、れろぉ……」
 陰嚢との境目から亀頭のすぐ下まで、丹念に舐め上げられた陰茎は、唾液に濡れて淫らな光を放つ。
 舞は亀頭を刺激していた手を根元の方へと移すと、ゆっくりと手で扱き上げながら、今度は硬く膨らんだ亀頭へと唇を押し当てた。
「んちゅ……ちゅぅ……ちゅ……ちゅ……」
 離れていた時間を埋めるように、うっとりとキスを繰り返す舞。充血して膨れ上がった亀頭までもが、その唾液に濡れていく。
 唇を押し付けて甘いキスを与えながら、艶めかしく濡れた舌で亀頭を舐め回す。
 黒川に初めて教えられ、他の男達へも繰り返し奉仕するうちに、その技巧は素人の域を超えたレベルまで高まっていた。
 清純な印象を抱かせる容姿とは裏腹に、まるで娼婦の如く男に奉仕する。
 その見た目とのギャップの大きさが、男達の邪な欲望を刺激していた。
「ちゅ、ちゅ、ちゅぐ……ん、んちゅ……ちゅる……れろ、れる……んふ……」
 じっくりと黒川を楽しませようと、舞は丹念に奉仕していったが、それが逆にもどかしさを感じさせたようだった。
 黒川の反応から敏感にそれを感じ取り、舞は頬を赤らめながら上目使いに尋ねる。
「ん……あの……おしゃぶりした方がいいですか……?」
 その言葉に少し迷いながらも、黒川は小さく頷いて同意を示した。
 言葉は無くても、黒川と意思の疎通が取れている事が嬉しく、自然に舞の頬が緩んでしまう。
 舞自身、頬が熱く火照るような感覚を覚えながら、舌で支えるようにしつつ、ゆっくりと男性器を口の中に迎え入れていった。
「ん……んん……んぷ……ぅ……ん……」
 片手で男性器の根元を支え、もう一方の手で髪をかき上げる。
 舞の長く美しい髪の毛先が下半身を刺激し、黒川は思わず声を漏らしそうになっていた。


「なあ、このままでは蛇の生殺しだとは思わんか?」
 客の一人が興奮した様子で早田に声を掛ける。
 今日はお披露目ということもあり、客が舞の相手をすることは出来ない。そのせいで、目の前で舞の痴態を眺めさせられた客達は、悶々とした状態に置かれていた。
「もちろん、ちゃんと考えてますよ」
 そう言って早田が合図すると扉が開き、全裸の女達が部屋へと入ってくる。
「お披露目に参加して頂いた皆様への、ささやかなお礼です」
 女達は最初からそう決まっていたかのように、それぞれ客の足元へ跪く。そして躊躇うことなくズボンのファスナーを下ろし、客の男性器を取りだした。
 舞の痴態を眺め続けていた客達は、誰もが既に男性器を硬く勃起させている。
 女達は全員、早田と山辺が新たに籠絡し、既に商品として仕込まれている。もちろんその中には、舞や美沙の担任であるよし子や、同じ先負学園の女子生徒も何人か混じっていた。
 だが、今の舞にはそれを気にする余裕もない。
 女達が部屋に入って来たのは分かっていたが、それらを一瞥することさえせず、熱心に黒川の男性器を舐めしゃぶっていた。
「んふ……んっ……んっ……んっ……」
 陰嚢を手で優しく揉みほぐしながら、小気味よく頭を前後に動かし、濡れた唇で陰茎を扱くように刺激する。
 口内では硬く膨らんだ亀頭を支えるように、柔らかく弾力のある舌がねっとりと絡み付く。
 最初から硬く勃起していた男性器だったが、その情熱的で淫猥な奉仕に、更に硬く張りつめていった。
「くっ……」
 短く声を漏らしながら、心地よさを伝えるように、舞の髪へと指先が触れる。
 教師が教え子を褒めるような、優しく髪を撫でられる感触に目を細め、嬉しそうに奉仕を続ける舞には、もう観客達へ見せているという感覚は薄らいでいた。
 それまで必死にコントロールしていた心が抑え切れず、黒川を求める思いが溢れ出してしまう。
「ちゅぶっ……ん、んんっ……ふはぁ……あ、あの……」
 熱い溜息と共に唾液の糸を引きながら男性器から唇を離し、潤んだ瞳でラバーマスク姿の黒川を見上げる。
 羞恥を刺激するオナニー披露や、観客の一人から受けた愛撫による絶頂が舞の官能を昂ぶらせ、もう堪え切れない所まで来ていた。
 そこへ黒川への思いが重なり、溢れ出す程に濡れた膣奥が官能的に疼いていた。
「はしたない女で申しわけありません……どうかこの逞しいもので……抱いて下さいませんか……」
 唾液に濡れた男性器を手で扱きながら、言葉を選んで求めていく。
 それまでは大胆かつ繊細に痴態を披露していた舞の変化を、観客の一部も敏感に感じ取る。
 山辺や剛三などとは比べるべくもないが、ここに集められた客のほとんどは、それなりに女の扱いには長けている。舞の微妙な変化に気付く者が居ても、不思議ではなかった。
 女達の奉仕が始まり、舞に微妙な変化が表れた事で、場の雰囲気も少しずつ変化を見せ始めていた。
 黒川もそれを感じ取っていたが、それで彼の役割が変わるわけではない。予め早田から伝えられていた指示に従って、無言で舞をベッドへと促した。
 早田から伝えられていたことは二つ。
 一つはけして言葉を交わさないこと。二つ目は男優に徹して観客を楽しませること。
 その二つさえ守っていれば、後の裁量は黒川自身に任せられていた。
「ぁ……」
 ベッドで仰向けにさせられた舞は、男性器の先端が押し当てられる感触に小さく声を漏らす。
 黒川は結合部分が観客達に見えるように気にしながら、舞に大きく脚を開かせて覆い被さると、ゆっくり挿入していった。
「んっ……んん……ぁ……くっ……ふあっ……!」
 黒川を受け入れるのは久し振りだったが、膣内を進む男性器の感覚に、記憶の中の感触が甦ってくる。
(やっぱり……黒川さんだ……)
 離れていた時間はそれほど長くは無いのに、懐かしさに舞の心が熱くなる。
 心の奥に秘めた企みを忘れて、全てを委ねてしまたくなる程に。
(でも……私は皆を……!)
 早田達の毒牙にかかってしまった美沙達を救い出し、剛三を始めとした協力者の元で彼女達を守るために、今はまだ早田に弱みを見せる訳にはいかない。
 黒川をお披露目の相手に選んだのも、舞を動揺させようという意図が明確で、それだけに感情に流されてしまう訳にはいかなかった。
 そんな舞を感情の無い瞳で見つめながら、黒川はゆっくりと腰を動かし抽送を開始する。
 だがその動きは以前のように舞を求めるものではなく、観客達へ向けて舞を見せる為の動きだった。
「んっ……く……ぅ……んんっ……!」
 以前は感じられた一体感のようなものが感じられず、まるで別の相手に抱かれているような錯覚さえ覚えてしまう。
 だが、今はそれを口に出すことはできない。
 黒川が早田に屈してしまったのではないかという不安を感じながらも、舞は身を委ねるしかなかった。
「んっ……んっ……はぁっ……! くっ……んんっ、んはぁっ……!」
 最初はゆっくりとした動きで馴染ませ、やがて大きな動きで力強く男性器を出し入れさせていく。
 絡み付く膣襞を引っ張りながら、抜ける寸前まで引かれた男性器が、今度は膣内に溜まった愛液を押し出しながら、深く深く入ってくる。
 以前の黒川とは異なる動きだったが、戸惑いを忘れさせるだけの快感がそこには存在していた。
 特に動きにも変化は無く、愚直なまでに単純な抽送。
 しかしその動きが大きいだけに、観客達の目には十分に刺激的な光景だった。
 充血した陰唇が咲綻び、黒川の男性器が激しく出し入れされる様がはっきりと見て取れる。
 可憐な秘部が男を受け入れ、次第に高まっていく舞の姿に観客達は興奮を煽られる。
「はぁっ……はぁっ……うぅんっ! んっ、んんっ……んはぁっ……!」
 それまでのように意図的に演じていた部分が減り、その代わりに素の舞が全面に押し出されている。
 それが観客達に舞のプライベートなセックスを覗き見しているような、そんな錯覚を抱かせていた。
 もちろん相手がどこにでもいるような少女なら別だが、桜木家の長女であり、いずれは跡を継ぐと思われている舞であれば、観客達の目も違ってくる。
 観客の多くが以前から舞を知っているだけに、その興奮の高まりも尚更だ。
 誰もがラバーマスクの黒川を自分に置き換え、舞を抱いているような気になりながら、女達の奉仕によって高まっていく。
「んんっ……んっ、んあっ……あっ、あっ……くぅんっ……!」
 自然にその脚が黒川の腰へと絡み付き、力強い出し入れに合わせて腰が揺れる。
 激しい抽送を全身で受け止め、ほんの僅かでも逃したくないという、舞の気持ちがそこに溢れていた。
「あんっ、あんっ、あっ、ああっ! もっと、もっと突いてっ……奥まで思い切り突いてくださいっ……ああっ!」
 少しでも以前のように感じたい。
 黒川が何を考えているのか、それを伝えて欲しいと強く願った。
 激しい抽送に全てを委ねてしまえば、僅かでもそれが感じられるような気がする。
「あああっ……! も、もっと欲しいのっ……奥まできてっ……貴方を感じさせて……!」
「くっ……!」
 舞の感情の昂ぶりと共に、膣内も激しく収縮を繰り返す。
 その締め付けの強さに呻くような声を漏らし、黒川は一気にスパートをかけた。
「ふああぁっ! い、いいっ……いいのぉっ! すごいっ……んはあぁぁっ!!」
 腰を打ち付けるような激しい出し入れに、舞も我を忘れたように淫らに喘ぐ。
 そして二人は共に激しく昂ぶり、一気に絶頂へ向かって駆け抜けていく。
「あああっ! も、もう……イク、イッちゃうっ! んくぅっ……! お、お願い……一緒に……!」
 舞は黒川へと、共に達することを求めた。
 そでまで抑えていた感情が一気に溢れ出し、もう自分でも抑えられない。
「中で、中で出して! 貴方の精液で……私を満たして!」
 舞の感情に引き摺られたのか、黒川は膣奥へと深く男性器を押し込むと、そこで射精を始めた。
 ビュクビュク! ビュルル! ドピュッ! ドピュッ! ドピュゥッ!
 強く、そして激しく脈打った男性器の先から、熱い精液が勢いよく溢れ出す。
 それは舞の子宮をしっかりと満たして、女にしか得られない充実感を与える。
(あぁ……熱い……!)
 子宮を満たしていく生々しい暖かさに、舞は恍惚とした表情を浮かべながら熱っぽい溜息を漏らしていた。
「はぁ、はぁ……ぅん……ふあぁぁ……」
 久し振りに味わう黒川とのセックスは、剛三との行為とはまた異なる快感を生み、少しだけ舞を複雑な気持ちにさせる。
 だが、今日までの過酷な日々の中で、ある種の覚悟だけは既に出来ていた。
(もう黒川さんとは……)
 桜木家の為に身を委ねていた頃とは異なり、短い間に舞も数々の経験によって、一人の女として成長していた。
 知らなくても良かったことを教えられ、そして知るべきことを知った。
 もう以前のように心と体を委ね、人形のように生きることは出来なかった。
「はぁぁ……」
 軽い疲労感と共に、大きく息を吐き出して黒川が腰を引く。
 注ぎ込んだ精液と愛液を纏わり付かせながら男性器を抜くと、ヒクヒクと蠢く膣口から精液が溢れ出す。
 これで早田から与えられた指示は果たした事になり、お披露目は終わるはずだった。
 だが、観客達へ終わりの挨拶をしようとする舞を、部屋の隅で眺めていた早田が制する。
「それではここから、オークションを開催したいと思います。商品は桜木舞の明日からの一週間……」
「っ……!!」
 それは舞はもちろん、黒川も含めて誰も聞かされていない話だった。
「一週間、彼女を自由にして頂いて結構です」
 早田のその言葉に、観客達の間からどよめきが生まれる。
 舞の一日を手に入れるだけでも既に困難な状態なのに、一週間ともなれば値段がどこまで釣り上がるのか想像できない。
(そんな……)
 舞にとって客に買われてしまう事よりも、一週間という時間の方が致命的だった。
 剛三や彼の仲間達の力を借りて、周到に根回しを続けてきた。
 後は舞が密かに練り上げた企みを実行に移すだけで、捕らわれの女性達を解放できる算段になっていたのだ。
「くくく……」
 だが、早田はそんな舞の企みを完全にではないが見抜いていた。
 どこからか情報が漏れてしまったのか、或いは早田の洞察力の賜物か。
 いずれにせよ、舞だけでなく手を貸している剛三達も追い詰められることになる。
(おじ様達にはご迷惑を掛けられない……私が何とかしないと……)
 絶頂の余韻で思考力が低下する中、それでも舞は必死になって考える。
 早田に勝利する為の一手を。
「くぅ……」
 しかし、最早打つ手は無いように思えた。
 いくら考えを巡らせても、この状況からではどうする事も出来ない。
(駄目……もう……)
 絶望感に打ちひしがれ、大きく肩を落とす舞。
 しかしその肩を、ラバーマスクを外しながら黒川の手が支えた。
「く、黒川さん……」
 黒川は背後から舞を支えるように立ち、どこか悲しげな瞳を真っ直ぐに早田へと向ける。
 そんな二人を、早田は余裕に満ちた表情で眺めていた。
(さて、どうする哲哉……)
 早田と山辺が瞬く間に作り上げた組織と、それに繋がる闇社会。
 莫大な利益を生むこの仕組みを壊されれば、報復の矛先になるのは舞や黒川、それに裏切り者である剛三達だ。
 だからこを舞は密かに事を進め、文句を言う隙さえ与えずに、早田や山辺だけを排除できるように企んでいた。
(あと少し……あと少しだったのに……!)
 唇を噛み締めながら、舞も早田を睨み返す。
 失われていた気力は戻っていたが、追い詰められている状況に変わりは無い。
「それでは始めましょうか……まずは100万円から」
 その言葉を合図に、客達が一斉に値を上げていく。
 瞬く間に1000万を超え、とほうもない金額になりつつあった。
 オークションの仕切りを山辺に任せ、早田はゆっくりと舞達へと近付く。
「……何を考えているの」
「なに、女をひとり解放するんだ、その損失の穴埋めをしないとな?」
 その言葉は暗に、約束通り美沙を解放すると言っているようなものだ。
 それには安堵するものの、自分が拘束されている一週間の間に、早田達がまた何か企まないとも限らない。
「何だったら、他の女も全て解放してやってもいいんだぞ」
「え……」
 早田の意外な言葉に、舞は戸惑いの表情を浮かべた。
「お前ひとりでも十分に稼げるからな。これから先、永遠に俺達の所有物になると誓うなら、そうしてやってもいいんだ」
「っ……!!」
 自分ひとりの身で、他の全員を助けられる。
 舞の目的を考えれば、それは実にありがたい申し出のように思えた。
(私が言う通りにすれば、美沙ちゃん達は助けられる……)
 その代償として失うものは大きかったが、桜木家の跡取りとして、人形のように生きてきた事を思えば、それほど大差ないようにも感じられる。
「どうする? お前次第なんだ」
 躊躇う舞を早田が促す。
 オークションでの値段が億を超えようとした時、舞は早田に向かって頷こうとしていた。
 だが、舞を競い合って加熱していく雰囲気の中、それを壊してしまうように部屋の扉が勢いよく開かれる。
 何者かが扉を蹴破ったのだ。
 いったい何者が入ってきたのかと、その場にいた全員が怪訝そうな表情を浮かべる。
 だがその中でただ一人、舞だけがその男の正体に気付いていた。
「相原君……?」
 扉を開いて立っていたのは健二だった。
「俺の……俺のものだ……舞は……俺の……」
 ブツブツと口の中で呟きながら、項垂れて幽鬼のようにふらつきながら、ゆっくりと舞へと近付いていく。
 その異様な雰囲気に、全員が凍り付いてしまったように動けない。
 健二は不意に顔を上げると、血走って真っ赤になった目を見開き、真っ直ぐに舞を見つめる。
「俺のなんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 舞へと向かって走り出した健二の手には、鈍く光る刃物が握られていた。
<つづく>

 

[ 戻る ]