同級生二次創作SS「螺鈿細工の月−第二章−」

◇ 第一話-プロローグ- ◇


「さぁ、君はもう帰りなさい。下校時刻はとうに過ぎていますよ」
「……はい」
 校長に促され、美沙は不本意ながらも黒川と舞の消えた先から視線を外す。
 しかし、心の中では校長の指示に従う意思は無かった。
 校外へと歩き出した美沙を見送り、校長が自室へと戻っていくと、再び美沙がその場に姿を現す。
 用心深く足音を忍ばせて周囲を伺うと、美沙はそっと黒川と舞が上がっていった階段へと向かった。
 その先には舞の教室がある。美沙は本能的に二人がそこに居るのだろうと察していた。
 
 微かに開いた校長室の扉。そこから覗く冷ややかで鋭い視線。
「やれやれ……忠告してあげたというのに…」
 生徒の一人に降り掛かるであろう不幸を思い表情を歪める校長だったが、とった行動はそれとは相反するもの。
 備え付けの電話の受話器を手に取ると、慣れた手つきで番号を押していく。
「先負学園校長の度会ですが……」
 校長の電話の事など知るはずもなく、美沙は確実に闇の中へと足を踏み入れていた。

 人の気配の全く無くなった放課後の校内。自分の小さな足音が予想以上に大きく響き、美沙の手の平に汗が滲んでいく。
(…………舞)
 一歩、また一歩と、視界の中の舞の教室が近づいて来る。
 教室まで残り数歩といった所まで来た時、美沙の耳に聞き慣れた声が届いた。
(舞……?)
 美沙は更に慎重に足音を忍ばせ、ゆっくりと声の聞こえた場所。舞の教室へと近づいていった。

 身を屈めて教室の扉の前まで近づくと、中からはっきりと舞だと確認できる声が聞こえてくる。
 その声音は苦しそうで、どこか切なげな音色で喘ぐ声。
 舞の声の音色が意味する事を頭のどこかでは的確に理解しつつも、心の中ではそれを必死に否定しようとする。
『そんなはずはない』
 だが、声音は明らかな現実を美沙に伝えてくる。
 不安と緊張に包まれて高鳴る鼓動を押さえ込み、美沙はそっと扉を少しだけ開き、できた隙間から中を覗き込む。
(!!!)
 その瞬間、美沙の体が硬直した。

 扉の向こう、地平に近くまで傾いた夕日が差し込む教室の中。机に両手をついた舞の背後に黒川が立っている。
 二人の動き。乱れた制服。切なげな舞の声。
 二人の行為、それが何であるかは美沙にもよく解っていた。自分にも経験がある。
 愛する者同士が結ばれる行為。自分の中で、そう定義付けられた行為。
(舞が……あの男と……セックス……してるの……)
 頭の中に言葉にする事で、美沙はようやくその現実を受け入れる事ができた。
 しかし、その現実のあまりの衝撃の大きさに、そのまま膝が崩れて冷たい廊下に腰を下ろしてしまう。
 半ば呆然した表情で、美沙は扉の隙間から教室の中を見つめる。
 切なげな舞の喘ぎは間違いなく甘い響きを含み、明らかな『悦び』の声であった。
 まるで獣のように背後から貫かれ、喜びの声を上げている舞の姿は、普段の清楚な印象からはとても想像できるものでは無かった。

「あぁっ!、イクっ!、イっちゃうっ……!!」
 一際大きな舞の叫び、他人事ながら、美沙は慌てて周囲を伺ってしまった。
 改めて回りに人影が無い事を確認すると、再び教室の中へと視線を戻す。
 教室の中では舞が激しく頭を振り、激しい黒川の抽送に絶頂の甘い叫びを上げている。
 決して舞が望んで抱かれているとは思えない。出来ることなら今直ぐにでも助け出したい。しかし、今の自分の状況を見られる事を舞は喜ばないだろう。
 それが美沙を押し留める唯一の要因でもあった。
 そして舞の事を思えば、直ぐにこの場を立ち去るべきであったかもしれない。
 しかし美沙は舞の痴態に目を奪われ、その場を立ち去るどころか立ち上がる事すらできないでいた。

 扉に置いた手の平に汗が滲んでいく。
 自分でも驚いてしまうぐらい、大きく喉が鳴って唾を飲み込む。
 始めて見る他人の性行為。それもよく見知った舞の、あられもない痴態。
 ゾクリと、何かが美沙の背筋を駆け抜けていった。
(…私…舞の………覗いて…興奮してる……?)
 自覚したくはない現実が、だが確かにそこにはあった。
 肌はじっとりと汗ばみ、呼吸は微かに荒くなっている。そして何より、触れたいという衝動。
 廊下に広がった制服のスカートの奥、飾り気の無いショーツの更に奥。
 間違いなく反応を見せ始めているその部分に、指を伸ばして触れたいという衝動が美沙の全身を包み込む。
 禁忌に触れるかのような罪悪感と、そんな衝動を覚える自分に対する自己嫌悪。
 しかし、着実に大きくなるその衝動が、まだ若い美沙の精神を凌駕するまでにそれほどの時間は必要無かった。

「……ん………」
 目を閉じ、スカートの中へと潜り込ませた右手の指先で、ショーツの上から秘唇をなぞっていく。
 教室の中の二人に聞こえないように声を抑え、微かに湿り気を帯びたショーツの上を、美沙の細い指先が前後に動く。
 その間、目を閉じていても舞の喘ぎが美沙を耳から刺激する。
 一瞬の躊躇いの後、美沙は薄く目を開いて教室の中を伺いながら、ショーツの中へと手を滑り込ませた。
 そして黒川に抱かれている舞の姿を自分に置き換え、愛してもいない男に、教室の中で抱かれている自分を想像する。
 それは想像以上に美沙を激しく昂ぶらせた。
 舞と同じく、美沙の中にも被虐的な性癖が眠っていたのだろうか。
 教室という日常的な空間で「自分が犯される」とう想像は、間違いなく美沙の官能の炎を大きく燃え上がらせていた。
「はっ……はぁっ………んっ……」
 舞と比べれば僅かに小さな胸元が、荒い呼吸に激しく隆起を繰り返す。
 潤んだ瞳で教室の中の黒川と舞に熱い視線を送りながら、激しくスカートの中に潜り込んだ手を動かす。
 秘唇の奥から染み出した蜜に塗れた指先で、包皮から微かに顔を覗かせたクリトリスを弄ぶ。
 人差し指と親指で摘むように転がし、美沙は慣れた手つきで快感を紡ぎ出していく。
(ごめん……ごめんね舞……でも、指が…止まらないの……)
 覗き見ているという事実に、舞に対する申し訳無さに胸が締め付けられる思いがするが、それでも指を止める事はできない。
 そんな美沙とは無関係に、教室の中では舞が背後から貫かれ、淫らに喘ぎながら繰り返し絶頂に達していた。

 その声は美沙の指の動きを更に加速させ、快感を貪るように指先は秘唇へと沈み込んでいく。
 他の指の腹でクリトリスを刺激しながら、何度か男性器を受け入れた経験のある器官に指を沈め、潜り込ませた指を出し入れさせる。
(熱い……こんなに熱くなってる……)
 指先の動きに促されるかのように、膣内に溜まっていた愛液が掻き出される。
 左手を扉に置いて体を支え、身を乗り出すようにして教室の中の痴態を覗き、一心不乱に秘唇の奥を弄ぶ美沙。
 溢れ出した蜜に下着が汚れるのも気にせず、水音を無人の廊下に響かせながら激しく指先を動かす。
「んんッ……はぁ……はっ……はっ………んふぅ………っ」
 荒くなる息遣いも教室の中から響く喘ぎにかき消され、誰に見られるか解らない状況だという事を、美沙は完全に失念していた。
 透明感のある愛液を指先にまとわり付かせ、その指で膣壁を激しく擦り上げる。
「ひっ、あっ、あっ、あぅんっ!!、イクよぉっ!、またイっちゃうよぉっ…!!」
 更に激しさを増す舞の喘ぎに同調するかのように、美沙もまた絶頂へと昇りつめようとしていた。
(もう……イっちゃうっ……駄目……イクッ………!!)
 何かに耐えるかのような表情で瞼をぎゅっと閉じ、膣内に潜り込ませた指先を突き立てる。
 制服の背中が小刻みに震え、美沙が達している事を知らしめていた。

「はぁ………はぁ…………」
 絶頂の余韻に打ち震えながら教室へと視線を戻すと、舞も同じように激しく達した瞬間だった。
 黒川の腰が震えているのを見て、舞の体内へと射精しているのだと、美沙は呆けたような表情で考えていた。
 次の瞬間、何者かの大きな手が美沙の口元を塞ぐ。
「んんっ……!!」
(な、何っ……!?)
 慌てて立ち上がろうとするが、足に力が入らず、そのまま背後へと倒れ込みそうになる。
 しかし、美沙の体は廊下へと倒れこむ事なく、背後に居た男に抱きかかえられた。
「静かに……中の二人に気づかれるぞ」
 聞き覚えのある声。
 首だけで後ろを振り返ると、それは黒川の運転手を勤めていた男だった。傍らにはもう一人の男も立っている。
 背後の男は美沙の体をしっかりと抱きかかえ、口元を塞いだまま美沙の耳元で囁きかける。
「桜木舞に…今、お前がしていた事を知られたくなければ…大人しくしていろ」
 男の言う通りにするのは間違いだと、心のどこかで警鐘が鳴り響く。
 だがしかし、舞に自分が何をしていたのか知られる事は、何よりも耐えがたい事でもある。
 美沙の一瞬の迷いを受諾と受け止めた男は、美沙の体を軽々と抱き上げ、足音を忍ばせる事なく廊下を歩き始める。
「んっ、んんーーーっ!!」
「静かにしていろ…」
 暴れようとする美沙を、鋭い視線で一睨みし、男は歩みを加速させた。

「お前は急いで別の車を用意しろ」
「解りました」
 もう一人の男にそう指示を出すと、男は美沙を車の後部に押し込み、自分は運転席へと乗り込んだ。
「ちょ、ちょっと……!」
 後部座席から身を乗り出して男に詰め寄ろうとする美沙だったが、男が取り出した小さなカメラを見た瞬間、その表情が一瞬にして青ざめた。
「ま………まさか…………」
「お前が何をしていたのか……ここに全てが写っている。お前が選べるのは…俺の言う通りにするか、全てを桜木舞にしられるか…だ」
「そ…そんな………酷い……」
 力無く後部座席に倒れこむ美沙。
 男は口元を歪めて笑うと、荒々しく車を発車させた。

(どうしよう……私………どうしたらいいの………)
 これから自分に起こるであろう事を想像し、その恐ろしさに美沙は制服のスカートを無意識のうちに握り締めていた。

<続く>

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