故郷哀歌

故郷哀歌

登場人物 相田 祐樹(あいだ ゆうき)/藤森 真美(ふじもり まなみ)



 3年ぶりの故郷は、旅立った時と変わらない風景で俺を迎えた。
 電車もろくに来ない田舎町は、まるで時が止まっているかのように思える。
 俺はそんなこの町が嫌で、進学を理由に東京へと旅立ったのだ。

「…やっぱり涼しいな…」

 東京と比べて5度以上は気温が低く、陽射しもどこか柔らかく感じられる。
 俺は寂れた無人駅から一歩踏み出すと、手をかざして青い空を見上げた。

 3年前から、俺は東京で一人暮らしを続けている。
 寂しいと思う事もあったが、それでも田舎が恋しいと思った事は無い。
 俺にとってこの町は、何の変化も無い閉塞された空間でしかなかった。

「………ゆー…くん…?」

 久しぶりに故郷へと戻って来た俺に声をかけたのだ、彼女だったのは何かを暗示していたのだろうか。
 それとも、これが『運命』と呼ばれるものなのだろうか。

「……真美」
「…久しぶりだねぇ。元気にしてた?」

 微妙に語尾の上がる地元特有のイントネーションで話し掛ける真美。
 俺が東京へと旅立つ時、唯一の心残りだったのが彼女の存在だ。
 俺と真美は幼馴染で、人口の少ないこの町では当然のように、高校まで同じ学校に通った仲でもある。
 そして高校時代、俺は真美と付き合っていた。

「…あぁ」
「そっかぁ……良かった」

 何が嬉しいのか、真美は目を細めて笑みを浮かべる。
 高校時代から整っていた顔立ちは、この3年の間に更に磨きがかかったようで、垢抜けてはいないが充分に美しかった。
 真美は暫く俺の姿を眺めた後、自然な動きで流れるように俺の手を取る。

「お家に帰るんでしょ?、一緒に行こう」
「…そうだな」

 ノースリーブのワンピースから伸びた腕の肌の白さに、俺は胸が高鳴るのを感じていた。
 並んで歩き出してからも、懐かしげに話し掛ける真美の言葉は耳に入らず、流れるような黒髪と横顔に見入ってしまう。
 真美の手は俺の手を握ったままで、久しぶりに感じるその温もりが、3年の空白を埋めていくような気がした。

「…でね、幸子ちゃんってばさ…………聞いてる?」
「あ、ああ…聞いてるよ」

 まるで久しぶりのに帰省した恋人を迎えたかのように、真美は屈託の無い笑顔で話し続けている。
 俺はそんな真美の態度が不思議で仕方が無かった。
 3年前のあの日、俺は確かに真美に別れを告げ、そして東京へと旅立ったはずだ。
 帰省を決めた時も、真美と顔を合わせる事を思って気が重かったくらいだ。
 なのに真美は、まるで何も無かったかのように、自然に俺に接してくる。
 それは3年前の、恋人同士だった頃のままだ。

「暫くこっちに居るの?」
「そうだな…一週間ぐらは居ると思う」
「そう…じゃ、後で電話するね」

 俺の家の前までやって来た真美は、3年前の学校帰りと同じ言葉を告げると、何度も何度も振り返りながら自分の家へと歩いて行った。
 その姿を見送ると、俺は久しぶりに家の扉を開けた。



『でね……久しぶりに一緒に行かない?』

 久しぶりの自室で落ち着いていると、早速、真美からの電話が俺を呼んだ。
 そして電話口で俺の今日の予定を確認すると、幼い頃から一緒に行っていた夏祭りが今夜である事を告げる。
 少し躊躇いがちに俺を誘う真美に、俺は断る理由も無く二つ返事でOKする。

『じゃあ、後で迎えに行くからね』

 受話器越しでも解るくらい、真美の声は弾んでいた。
 以前と変わらないように思えた真美の態度だったが、やはり3年の空白と3年前の別れを意識しているのかもしれない。
 どこか躊躇いがちだった俺を誘う言葉にも、微かに緊張の色が含まれていたようにも思う。
 俺は最後に見た真美の浴衣姿を思い出しながら、シーツが取り替えられたばかりのベッドに横たわった。

(……やっぱり真美…今でも俺の事を……)

 決して望んだ別れでは無かった。
 俺はこの閉塞感のある町が嫌で嫌で仕方なかったし、真美は家庭の事情で家を離れる訳にはいかなかった。
 最初に俺が東京行きを告げた時、真美は自然に自分がこの町に残る事を告げた。
 そして俺も、それが当然の事のように受け止めたのだ。
 真美はいつか俺がこの町に戻ると信じていたのだろう。それは涙の無い別れだった。

(…真美はずっと…俺を待ってたのかな…)

 東京へ行ってからの3年間、俺は一度も連絡を取っていない。
 今回の帰省にしたって、祖父の法要だからと言う両親の説得が無ければ帰らなかったように思う。
 そんな俺を3年間も待ち続けていたのだとしたら、真美はやはり今でも俺の事を思っているのだろか。
 真美が迎えに来ると言った時間まで、俺はそんな事を考えながら天井を見つめ続けた。

「祐樹───真美さんよ」
「…わかった」

 階下から呼ぶ母の声に、俺はベッドから飛び起きた。
 玄関先では、髪を結えた真美がアサガオ柄の浴衣姿で俺を待っている。

「ちょっと早かったかな?」
「んー…ゆっくり歩きながら行けば丁度いいだろ」
「…そうだね」

 帰省した時と同じ格好の俺の横で、下駄を鳴らしながら浴衣姿の真美が半歩遅れて着いて来る。
 夕日が傾き茜に染まった空の下を歩きながら、俺の胸を懐かしい思い出が締め付ける。
 3年前のあの頃、俺はこうして何度も夕暮れの町を真美と歩いていた。

「あ……お囃子が聴こえてきたよ」
「懐かしいな…」

 子供の頃から耳に馴染んだ祭囃子。
 近づいてきた参道では、両側に賑やかな夜店が並んでいる。
 真美は子供のような笑顔で、夜店の一つ一つを楽しそうに眺めていた。

「あ、綿飴……買ってくるね」
「あぁ」

 下駄を鳴らして綿飴を売っている夜店へと駆け寄ると、真美は自分の分と俺の分の綿飴を手に戻って着た。
 漫画のキャラクターの描かれた袋に入った綿飴を取り出すと、真美は早速口へと運んでいる。

「…浴衣につけるなよ」
「うん…大丈夫。これ、美味しいよ」

 こんな時、真美は本当に嬉しそうに、子供のような輝いた笑顔を浮かべる。
 昔の俺はその笑顔が好きで、そんな笑顔を見せられる真美の事が好きだった。
 だが今はどうだろう。
 その笑顔が懐かしくもある反面、いつまでも変わらない真美の姿が疎ましくもある。
 全てを捨てて東京へと旅立った俺に、昔と変わらない純粋な笑顔。
 俺はその笑顔に、どこか後ろめたいような思いを抱いているのかもしれなかった。

「そういえば昔…買ってやったな」
「ん?…あ…指輪……」

 俺の言葉に視線を動かした真美は、言葉の意味を理解して目を細める。
 二人の視線の先には、安っぽいガラス細工のアクセサリーを並べた夜店があった。
 俺が旅立つ前、最後に二人で行った夏祭り。
 そこで俺は、真美にせがまれて安い指輪を一つ買ってやった。
 ガラス玉をはめ込んだ安っぽい指輪を、真美はまるで宝物を手にしたかのように輝いた瞳で見つめていた。
 そんな懐かしい光景が、フラッシュバックのように俺の脳裏に甦ってくる。

「……ちゃんと…大切に持ってるよ…今でも」

 そう呟いた真美の横顔が、どこか寂しげに思えたのは俺の錯覚だろうか。
 だが、先程まであどけない笑顔を見せていた真美に、歳相応の女の表情を見たような気がした。

 夕日は完全に山の稜線へと沈み、普段は暗闇となる参道が夜店の明かりで賑わう。
 暫く先程の夜店を見つめていた真美は、俺の手を握り直して歩き出した。
 俺は無言でその真美に従って歩き出す。真美がどこへ向かって歩き出したのか、俺だけには解っていた。

「ほら…まだちゃんとあるんだよ…ここ」
「…みたいだな」

 そこは二人だけの秘密の場所。
 夏祭りの目玉である打ち上げ花火が最もよく見える場所。
 幼い頃から一緒に遊んだ、神社の境内の裏にある小さな丘の中腹だった。
 周りを取り囲むように立つ林の一角が開いて、打ち上げられる花火がそこからはよく見える。

「…ほら!」
「あ…」

 懐かしく昔を思い出していた俺の服の袖を、不意に真美の手が引く。
 次の瞬間、炸裂音と共に夜空に大輪の花が広がった。

「…綺麗だね………」
「………あぁ」

 夜空を焦がす花火に見とれたのは一瞬で、俺はその光に照らし出される真美の横顔に見入っていた。
 浴衣の襟から覗く、後れ毛のある首筋。
 薄く紅を引いた、柔らかそうな唇。
 愁いを帯びたような、微かに潤んだ瞳。
 3年前から容姿は整っていたが、それでも以前はまだ幼さの残る印象があった。
 だが今は、その空白の時間を感じさせるかのように、隣に立つ俺へと成熟した女性の香りが漂ってくる。
 俺は無意識のうちに真美の肩へと手を伸ばし、振り向いた真美の唇を自然に奪い去っていた。

「…………ずるいよ……ゆーくん……」
「……悪い」

 心のどこかで俺は、真美が俺に応えてくれるものだと思い込んでいた。
 だが、唇を解放された真美は、微かに切なげな表情で目を伏せ、小さな声で呟いた。

「…3年間も……私の事…放っておいたくせに……」
「…………」
「……ずるいよ……ずるいよ…ゆーくん…」

 俺を責めるような真美の言葉に、次第に涙の色が混ざっていく。
 咄嗟に俺は真美を抱き寄せようと手を伸ばしたが、真美はその手から逃れるように半歩下がり、涙を溜めた瞳で俺を見つめ返す。
 その表情を目の前にして、俺は言うべき言葉を見失った。

「……私……ゆーくんが知ってる、3年前の私とは違うよ…」
「真美………」
「…3年て短いようで長いよね……私はずっと待ってようと思ってた……でも、でもね……駄目だったの……寂しさに負けちゃったの…私……誰かに支えて欲しかった………だからっ…」

 真美がそこで一度言葉を切ると、溜まっていた涙が一気に溢れ出す。
 俺はただ、黙って真美の言葉を待つ事しか出来ず、無意識のうちに拳を握り締めていた。

「…3年前の私は…ゆーくんの事しか見えなかった……でも今の私は………………ゆーくん以外の男の人……知ってるんだよ…」

 その言葉が、真美が誰か他の男に抱かれたのだという意味なのだと、俺はすぐに理解した。
 3年前、真美の恋人であった俺は一度も抱いてはいない。
 それが何を意味するのかという事を、考える事を俺の頭が拒絶する。
 握り締められた拳が震えているのが、自分でもよく解った。

「……私……もう…ゆーくんの彼女じゃないんだよ…」

 嗚咽の混じった声で、真美はそう呟き終えると踵を返して泣き出した。
 俺は意を決して真美へと近づき、背後からその肩を抱きしめる。
 そして後はただ、誤る事しか俺には出来なかった。

「……ごめん………ごめんな………」



 次々と夜空に広がっていく花火の下で、俺は泣き続ける真美を抱きしめた。
 花火が終わり、祭囃子が消え、周囲を暗闇と静寂が包み込むまで、俺は真美を抱きしめ続けた。
 俺の腕の中で泣き続けていた真美も、時と共に次第に落ち着きを取り戻していく。
 嗚咽が小さくなり、鼻をすする音が消えていく。

「……ごめんね……私………言わないつもりだったのに…」
「いいんだ……俺が悪かったんだ…」
「ずっと……ずっと待ってたんだよ……それは本当…」
「あぁ……解ってる」

 俺の腕の中で振り返った真美は、まだ目に涙を溜めたまま無理に笑顔を作ってみせる。
 3年前に俺が真美を置いて旅立った事も、こうして再び戻って来た事も、全てが真美を傷つけていたのだと思うと、その笑顔が堪らなく愛しく思える。

「じゃあ…戻るか。だいぶ遅くなったし……」

 真美を腕の中から解放して歩き出そうとした俺を、真美が袖を引っ張って押し留める。

「…もう少しだけ……一緒に居たい……」
「……解った」

 しかし、流石にこのまま神社の境内の裏の丘に居る訳にもいかず、思案した結果、俺は神社の近くの公園へと真美を誘った。
 そこなら多少の明かりはあるし、ベンチもあるから座って話す事もできる。
 真美は素直に俺の言葉に頷き、袖を握ったまま俺の後へと続いた。

「ほら…」
「…ありがとう」

 自販機で買った缶コーヒーを手渡すと、俺はベンチに座った真美の横へと腰を降ろす。
 公園の傍には街路灯があり、微かに公園内をも照らしていた。
 東京に比べて明かりが少なく、空気の澄んだこの町では星空が綺麗に眺められる。
 俺はベンチに座ったまま、満天の星空を静かに見上げた。

「……今も…付き合ってる男とか居るのか?」

 黙っていても始まらないし、現実から目を背ける事も出来ない。
 俺は星空を見上げたまま、傍らで缶コーヒーを握り締めている真美に尋ねた。
 真美は俺の横で小さく首を左右に振る。

「…そうか……」
「……ゆーくんが東京に行って…最初の1年は一人だったよ…」

 完全に落ち着きを取り戻した真美は、まるで独り言のように話し始める。
 俺は真美が語るのに任せ、黙って横で聞くことにした。

「…2年目にね、初めてゆーくん以外の男の人と…お付き合いしたの…………その人が……私の初めての人」

 その言葉の音色は後悔や悲しみなどは一切感じられず、まるで他人の事のように淡々としている。
 それがかえって逆に、俺の胸に微かな嫉妬の炎を灯らせた。
 頭の中では、知らない男に組み敷かれる真美の姿が鮮明に映し出される。

「でもね、その人とは結局…1年も続かなかったな……」
「……そいつ一人なのか?」

 意識しないように装っていても、言葉の裏に嫉妬や真美を責める気持ちが込められてしまう。
 それを真美も感じ取ったのか、寂しげな表情で手の中の缶コーヒーへと視線を落とした。

「………後…2人居るよ」
「…そうか」
「……ゆーくんだって……東京で他の女の人と寝たんでしょ?」

 真美の口から「寝た」などという言葉が出てくると想像していなかった俺は、思わず緊張して息を飲んでしまった。
 事実、真美の言う通り、俺は東京で何人かの女の子と親密な交際をしていた。
 そして、その時は真美の事など全く頭に無かったのだ。

「…3年って長いんだよ……人が変われちゃうのには充分なんだよ…」
「…悪かったよ……もう言わないでくれ」
「全部聞いて。……私がお付き合いしたのはその3人だけど……私が知ってる男の人は、それだけじゃないんだよ…」

 真美の言葉の一つ一つが、刃となって俺の心を切り裂いていく。
 自らが招いた結果とはいえ、それは俺にとって辛すぎる現実であった。
 別の男に抱かれる、俺の知らない真美の姿が脳裏に映し出される。
 もう俺は真美の言葉を押し留める事など出来ず、黙って真美の過去を聞く事しか出来ない。

「好きでもない男の人に…抱かれた事だってある………心は満たされないって解っててもね、それでも………身体は満たされるの」
「…………」
「…ゆーくんも抱いてみる?、胸だって前より大きくなってるよ」
「もう止めてくれ!」

 流石に俺もこれ以上は聞き続ける事ができず、思わず耳を塞いで身体を折り曲げて叫んでいた。
 真美はそれ以上は何も言わずに口を閉ざし、黙って俺の横に座っている。
 そして俺の背中に、そっと真美の手が優しく載せられた。

「……ゆーくん……でもね……私……今でも…ゆーくんの事が…一番好き……」
「……真美…………」

 俺は恐る恐る顔を上げると、傍らの真美へと振り返った。
 そこには、瞳いっぱいに涙を浮かべ、それでも微笑む真美の姿があった。
 全てを打ち明け、それでもまだ俺の事を好きだと言ってくれる真美。
 この3年の空白を生み出したのは俺自身なのだ。
 今更、真美の過去についてとやかく言う資格など、初めから俺には在りはしない。

「…俺も……好きだよ」

 後はもう、言葉にはならかなった。


 再び涙を零しながら俺へと身を投げ出した真美を受け止め、3年間の空白を埋めるかのように、俺は夢中になって真美の唇を奪った。
 この3年間でのお互の成長を知るような、深く長いキス。
 唇の間から差し出された真美の唇を受け止め、俺は夢中でそれに吸い付いた。
 真美の舌を何度も何度も吸い、唇を強く押し付けて自分からも舌を絡める。

「…はぁ………ゆーくん……」

 微かな明りの下でも、真美の頬が上気しているのが解る。
 その瞳にはもう切なさも悲しみも無く、真っ直ぐに俺を見つめていた。

「………真美…抱いていいか…」
「……バカ」

 言葉とは裏腹に、真美の表情は俺を受け入れている。
 俺は腕の中の真美の存在を確認するかのように、力いっぱい強く抱きしめた。
 そして真美を抱き寄せたまま横向きに膝の上に乗せ、浴衣の胸元から手を差し入れる。

「あ……ん……」

 小さな声を漏らした真美は、俺の首に両手を廻し、微かに恥ずかしそうな表情で顔を伏せた。
 その顔を覗き込むようにして再び唇を奪うと、俺は浴衣の中に伸ばした手で、真美の乳房を掌の中に納めた。
 浴衣の下には何も身に着けておらず、柔らかな素肌の感触が掌に伝わってくる。

「…ゆー…くぅん………」

 甘えるような声で俺の名を呟いく真美。
 俺は初めて触れる真美の胸の感触に感動しながら、掌に少しずつ力を加えていった。
 手の動きが大きくなるにつれ、手を差し込んだ浴衣の胸元が乱れていく。

「……はぁ……あん………ん……」

 掌の中で柔らかく形を変えていく真美の乳房。
 その先端で自己主張を始めた小さな突起を指先で摘んでやると、俺の膝の上で真美の身体は小さく震える。
 予想以上に敏感な真美に、俺の心の奥で再び嫉妬の炎がチリチリと焦げ始めた。

「感じやすいんだな…」
「…ん……はぁ………だって………あんっ……」

 俺が相手だから。飲み込まれた真美の言葉が、そう続くのだと俺は信じる事にする。
 女々しく過去に拘るのも、見えない男達に嫉妬するのも、何の意味も無い事なのだ。
 今はただ、真美に対する自分の気持ちに正直に、真美を愛そうと俺は決めた。

「真美……脚…開いて」
「あ……うん………」

 耳元で囁いた俺の言葉に頷いて、真美は微かに膝を開く。
 俺の手は浴衣の裾を開くように潜り込んで、膝頭を割って太股の間を滑っていった。
 しっとりとした柔らかな肌の感触が、掌と指先に伝わってくる。
 更に手を奥へと進めると、やはり真美は下着を身に着けておらず、指先に翳りの感触を感じる。

「はぁ…ん……ゆーくぅん……んっ……」

 指先に感じた恥毛を掻き分けて進む俺の指の動きを、真美は脅えも緊張も見せずに素直に受け入れている。
 掻き分けた恥毛の奥にあった秘唇は、既に微かな湿り気を帯びて俺の指を迎えた。

「……あふぅ……ん……指が……ゆーくんの…指が……」
「入ってるの…解るか」
「……うん……入ってる…」

 指先を滑り込ませた秘唇の奥、真美の膣内は更に熱く潤み始めていた。
 易々と俺の指先を飲み込んだその部分の感触は、成熟した女を俺に感じさせる。
 そして俺は膝の上に真美を抱いたまま、ゆっくりと指を出し入れさせていった。

「あ、あんっ…あんっ……ゆぅ…くぅん……んんっ……」
「もっと声…聞かせてくれ」
「…でも……恥ずかしいよ……んぁっ……はぅんっ……!」

 突然、真美の反応が鋭くなる。
 俺の指先が捉えた部分が最も感じるのか、見た目にもはっきりと真美の反応が変わった。

「あっ、あっ、あっ……そこっ……駄目っ……んんっ…!」

 溢れ出す愛液の量も一気に増し、瞬く間に俺の手を濡らしていく。
 俺の首に廻した手に力を込め、顔を俺の胸元に押し付けるようにして喘ぐ真美。
 その肩が時折小さく震え、それに続くように可愛らしい喘ぎが漏れる。

「ゆーくんっ……ゆーくんっ……あっ、あっ……私……もうっ……ふぁぁっ…!」
「…イってもいいぞ」
「やだ…やだよぉ……んっ…くふぅ……指じゃ…やだぁ……」

 背筋を駆け抜けていく小さな絶頂の前兆に震えながらも、真美は切なげに俺を求める。
 このまま俺の指だけで達する真美を見たい気もしたが、顔を上げた真美の表情がそれを止めさせた。
 熱く潤んだ瞳と朱色に上気した頬で俺を見つめる真美。
 その薄い唇が開かれた発せられた言葉に、俺は黙って頷きかえした。

「…ゆーくんが……欲しいよ…」


 人通りの無い夜の公園とは言え、真美を全裸にするのは抵抗がある。
 仕方なく俺は真美にベンチへと手を置かせると、浴衣の裾を捲り上げて帯へと巻き込ませて留めた。
 ベンチの背もたれに手を置き、尻を突き出した格好で俺を待つ真美。
 微かな明りの下でも、秘所から溢れ出して太股を伝わる愛液が光って見えた。

「…いくよ」
「………うん…きて……ゆーくん…」

 既に限界までそそり立った物を下着から取り出すと、俺は真美の背後から腰を片手で支える。
 そして空いた手で反り返った物を上から押さえつけながら、濡れた真美の秘唇の奥へと狙いを定め、ゆっくりと腰を進めていった。
 先端に触れた濡れた感触に続き、秘唇が左右に押し開かれて俺の物を飲み込んでいく。
 左右に割れた秘唇は俺の物を包み込み、その奥にある膣口へと俺の物を導いた。

「………んっ………んんっ………」

 充分に濡れた膣口は易々と俺の物を飲み込み、膣内の襞の一枚一枚が柔らかく締め付け始める。
 初めて感じる真美の膣内の感触に、俺は言いようの無い感動を覚えていた。
 俺は根元まで全て真美の体内へと埋没させ終えると、暫くの間その感触を味わった。

「……ねぇ……ゆーくん……」
「…あぁ…」

 真美の声に我に返った俺は、真美の腰を抱えて緩やかに抽送を開始した。
 広がった先端が抜ける寸前までゆっくりと腰を引き、そして一気に全てを打ち込むように腰を進める。
 その度に真美の背中が反り返り、無人の公園に甘い嬌声を響かせる。

「あぁっ!………ん………はぁんっ……!」

 暫くの間、緩やかな抽送を繰り返した後、俺は少しずつ腰の動く速度を速めていった。
 真美の尻の肉が波打つ程に力強く貫き、俺の物の先端が子宮口を叩く。
 次第に加速していく俺の貫きに合わせて、真美の喘ぎも次第に激しい物へと変わっていった。
 3年前の幼さの残る姿からは想像できない程、真美は俺の抽送に淫らに応える。

「あっ、あんっ、あんっ…イイっ…ゆーくんっ…もっと…もっとぉっ…!」
「…こうかっ……真美っ…」
「突いてっ!、もっと激しく突いてぇっ…!」

 普段の清楚なイメージは完全に消えさり、真美は完全に快感に乱れ始めている。
 俺は不思議と冷めたりはせず、自分でも意外な程に興奮していた。
 真美が他の男に抱かれた事など、もうどうでも良い事だった。
 今はただ、俺の貫きによって淫らに喘ぐ真美を、欲求のままに抱き続けたかった。

「真美っ……」
「はぁっ、あんっ、あぁっ、んんーっ…!、ゆーくんっ…私っ……私っ……!」

 感情が昂ぶっていた為か、真美は呆気なく絶頂へと昇りつめていく。
 俺の物を包み込む膣内が小刻みに痙攣し、真美の膝が震えだす。
 昇りつめていく真美を追いかけるようにして、俺も更に腰の動きを加速させた。

「真美……一緒に…一緒にな…」
「はぁ……うん……んんっ!、来て……ゆーくんっ…」

 俺は小さく早い動きを繰り返し、真美を高めながら自分も一気に高めていった。
 瞬く間に腰の辺りがむず痒いような、射精感が俺の中に沸きあがってくる。
 既に真美は小さな絶頂へと繰り返し達しながら、俺の小刻みな抽送に全身を震えさせていた。

「いくぞ……真美っ!」
「はぁんっ…!!、イ…ク……イクっ、イクっ、イクっ……ゆーくんっ……イッちゃうよっ……はぁぁぁぁっ!!」
「クッ…」

 限界まで堪えていた物を、俺は一気に解き放った。
 絶頂に震える真美の膣内へと、俺の物が脈打ちながら精を放っていく。
 俺は腰が震えてしまいそうな程の射精感を感じながら、最後の一滴まで真美の膣内へと流し込んだ。

「…はぁ……はぁ……ゆーくんのが……いっぱい……」

 支えていた腰を離すと、真美はそのまま膝を崩してその場に崩れ落ちる。
 膝を着いた真美の下では、俺の流し込んだ体液が公園の地面へと流れ落ちていた。




 実家に戻っていた一週間の間、俺は祖父の法要を除いてはずっと真美と一緒に居た。
 失った3年間の空白を埋めるかのように、俺達は互いを求め続けた。
 そして俺は真美に約束した。必ず戻って来ると。

「…卒業したら…戻って来るよ」
「………うん…待ってる……今度は…ちゃんと待ってる…」

 3年前の別れとは違い、それは再会を約束した一時の別れだった。
 もちろん俺は、卒業までの間にもこの町へ戻って来るつもりだ。
 愛する真美に会う為に。

END