薮内円

 

藪内円

「はぁ……まさか告白されるなんて」
 そんなつもりで尋ねたわけでもないのに、思いもよらず恋心を告げられてしまった。空の勘違いだと分かり、その場では特に答えも出さず有耶無耶に終わった。けれど家に帰ってみると、ついつい頬が緩んでしまう。
(そっかぁ……私のこと好きだったんだ……車谷君……)
 円も空のことは嫌いではないが、今まで男として意識したことは皆無だった。もちろん、百春の存在が大きかったこともある。
 しかし面と向かって告白されてしまうと、どうしても意識せずにはいられなかった。
(百春もあれくらい言ってくれたらな……)
 百春の性格を考えれば、それは有り得ない事だと思う。ただそれでも願ってしまうのは、円が女だからだろうか。
 しかし百春からは、決定的な言葉を告げられてしまった。もう以前のような関係にすら、戻る事は出来ないのだ。
「……」
 円は虚しさにひとつ溜息を漏らすと、パジャマに着替えて部屋の灯りを消した。
 しかし布団の中に潜り込んでからも、頭の中は空の告白の事でいっぱいだった。告白された経験やナンパされた事もあるが、あそこまでストレートで純情な恋の告白は初めてだ。
(付き合ってもいいって言ったら、どんな顔するかな?)
 そう告げたときの慌てる顔を想像して、円は布団の中で笑った。
 しかし同時に、もし空が男らしく交際することを求めてきたら、自分はどう反応するのか考えてしまう。告白されるまで全く意識していなかったが、改めて考えてみると悪くない相手のようにも思える。
 素直で優しくて、何より目標に向かって一途に努力している。その姿には円も時に励まされ、そして叱咤されてきた。そんな空となら、恋人としても付き合っていけるのではないか。
(やだやだ、なに考えてたんだろ……)
 急に恥ずかしくなって頭の中から考えを振り払う。
 しかし乙女心に火がついてしまったのか、妄想のように空との関係が頭の中に浮かんでくる。それはもう円の意思を離れて、瞬く間に展開されていった。
 最初はやはり周りには秘密にして、二人だけでこっそりと付き合うのがいいだろう。
 デートも練習が休みの時を狙って、知り合いにバレないように離れた街へ出かけたほうがいいかもしれない。或いは、互いの部屋で過ごすのも無難だろうか。
(私の部屋に車谷君が……幻滅されたらどうしよう……)
 それは妄想でしかないのに、円は本気で思い悩む。その度に布団の中で表情を変えるようなところに、空も惹かれたのかもしれない。
 しかし同時に、もう空の思っているような女ではないと、自分でもよく分かっていた。
(初めてじゃないって知ったら……どう思うのかな……)
 色々なことが重なって思い悩んでいた時、優しく慰めてくれた司。司とは似たような境遇にあったせいか、自然に打ち解けていった。
 そしてあの日、まるで冗談のように誘われるまま行ったホテルでの初体験。終わってみれば呆気ないもので、それで何かが変わるという事も無かった。
 そして現実から目を背けるように、バスケからは心が離れ、司とのセックスに溺れる日々が続いた。司の部屋に入り浸り、女友達の家に泊まると嘘をついて、朝から晩まで貫かれ続けたことさえある。
 そんな退廃的な日々のせいで、円は瞬く間に女の部分を目覚めさせられた。だが、それはけして円の本意ではない。
 勘違いから受けた空からの告白が、円の中で何かを変えようとしていた。
(車谷君はどうなんだろ? 初めてだよね、きっと)
 あれだけ純情な空が、既に誰かと交際していた経験があるとは思えない。かと言って風俗店で初体験を済ませるような、そんな男の子だとも思えない。
(そうすると、私が初めてになるんだよね……車谷君のど、童貞……奪っちゃうの?)
 そう思った瞬間、背筋がゾクゾクと震えるのを円は感じた。年下で身長も低く、男というより可愛い男の子という感じのする空。そんな空に自分が性の手解きをしていく。
(私がリードしてあげないと……きっと凄く緊張しちゃうんだろうな……車谷君)
 顔を真っ赤にさせる空を思い描きながら、円は布団の中でパジャマの上着のボタンを外し始めた。
 寝るときはブラをしていないせいで、それだけで乳房があらわになる。司の愛撫を受けていたせいか、最近は少し大きさを増したような気がする。そんな乳房にそっと手を伸ばしながら、円は淫らな妄想を展開させた。
(車谷君……見ていいんだよ……?)
 二人きりになれるなら、場所はどこでも構わない。緊張して固まっている空の目の前で、スカートの中に手を入れてショーツを脱ぐ。そしてスカートの裾を持ち上げて誘うのだ。
 どんな仕草をすれば男が興奮するのかは、司を相手に学んでいる。ゆっくりと割れ目を開いて見せれば、空が生唾を飲む音まで聞こえてくるような気がした。
「ぅ……ん……はぁ……はぁ……」
 ゆっくりと乳房を揉みしだきながら、妄想の中で空を相手に淫らな自分を披露する。自分自身を貶める事で、被虐的な性癖が燃え上がる事も円は知っていた。
(ここが……おまんこだよ、見るの初めて? ここに車谷君の……おちんちん……入っちゃうんだよ)
 想像するだけで興奮が高まり、円は我慢できずにパジャマのズボンの中へと手を入れた。その手はそのままショーツの中にも潜り込み、濡れ始めた秘唇の上から撫でていく。
「くふ……ぅ……んっ……」
 濡れやすくなっているせいか、軽く撫でただけでも指先に愛液が絡み付く。円はその愛液に導かれるまま、濡れた陰唇の間へと指を滑り込ませた。そして迷うことなく膣口を探り、その中へと指を沈めていく。
「はぁっ……あ……あぁ……はぁ……」
 そこはもう熱く滾っていて、膣襞が円の指へと絡みついてくる。
(ほら、入っちゃった……いま私と……エッチしてるんだよ……)
 空に挿入されている姿を妄想し、自分の指をペニスに見立てて出し入れさせ始めた。その動きは最初から激しく、貪欲に快感を追い求めていく。
 溢れ出した愛液はショーツを濡らし、その淫らな染みはパジャマのズボンにまで達しそうな勢いだった。
「あっ、あっ……すご……いいっ……車谷くんの……空くんの……いいよっ……!」
 思い切り脚を広げて、小柄な空の体へと絡みつかせる。妄想の中で空は円の胸に顔を埋め、無我夢中に腰を動かし続ける。それを現実の快感として伝えているのは、膣内へ潜り込んだ円の指先。
 円は指の動きを阻害されるのをもどかしく感じ、パジャマのズボンとショーツを膝の辺りまで一気に下ろし、体にかかっていた布団をベッドの下に蹴落とした。
(おまんこ……蕩けそうっ……! あぁ……空くん……空くんっ……!)
 自分の妄想の中でしかないのに、夢中になって腰を動かす空が愛しくなる。男として意識した事など無かったのが嘘のようだ。
 膣内へ潜り込ませた指を二本に増やし、円のオナニーは更に淫らさを増していく。
 どこをどう刺激すれば快感が高まるのか、完全に知り尽くした指の運び。男を知ってから淫らに成熟していく体を、円は貪欲に慰め続けた。
「はぁっ、はぁっ……くぅんっ……んんっ……んはっ!」
 空に貫かれている妄想の中の自分と同じように、仰向けになって膝を折り曲げなが両脚を開く。脱ぎかけのパジャマとショーツが脚に絡まって、ちょうど腰に脚を絡みつかせているのと同じような体勢になった。
 開いた脚の間から手を伸ばし、淫らに花開いた膣を掻き乱す。大量の愛液が溢れ出し、ベッドのシーツにまで染みを広げていた。
(いいよ、すごく感じちゃうっ……いつでも出していいから……我慢しないで動いて!)
 不馴れな空をリードするように声をかけながら、初々しい抽送を全身で受け止める。淫らな妄想に溺れながら、円は一気に絶頂まで駆け抜けていった。
「んくぅっ……い……いくっ……!」
 二本の指を膣奥深く突き立てながら、下半身を激しく痙攣させる。爪先まで震えるその様子が、絶頂の大きさを物語っているかのようだった。


 愛液にぐっしょりと濡れた指先を、微かに射し込む月明かりの中で眺める。
「はぁー……はぁー……はぁー……」
 こんな女じゃなかったと、円は心の中で呟く。
 いつかは百春にも思いが通じて、恋人同士になれると心のどこかで思っていた。
 でも今は後輩の告白で頭の中がいっぱいになって、衝動的にオナニーに耽ってしまう、そんな淫らな女になってしまった。
 自分にとって辛い現実から目を逸らそうと、優しくしてくれる相手にすがってしまう。それが前向きな事じゃないと分かっていても、その時はそれでいいと思った。
(だって優しくしてくれたし……)
 けれど、このままでいいとも思ってはいない。そろそろ前を向いて、再び歩き出す時なのかもしれない。
 偶発事故のような空の告白が、円の視線を再び前へと向かせようとしていた。
 絶頂の余韻の中で眠気を感じながら、漠然と髪を切ろうと思う円だった。
 

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