行為の結果

 

行為の結果

「んはぁっ!!」
「おおぅっ」

 恵の絶頂にタイミングを合わせたかのように、稲垣はその膣内へと射精した。
 勢いよく流れ込む精液の熱さを子宮で感じながら、恵はもう自分が後戻りのできないところまで踏み込んでしまっていることを薄々と感じ取っていた。
 稲垣は避妊具など使おうとはせず、そのうえ必ずと言っていいほど膣内射精している。もう何度となく膣奥へと注がれ、恵の子宮はたっぷりと稲垣の精液を吸い込んでしまっているのだ。

(そう言えば少し遅れてるかも…)

 ふと、自分の生理周期を考えてそれが遅れていることに気が付く。
 だが気付いたところでどうなるというのだ。稲垣は最初からそのつもりでいたようだし、いまさら相談する相手など居はしない。
 恵が妊娠したことを知れば、厚顔な稲垣は堂々と甲本家へと現れて、恵の両親に挨拶でもしかねない男だ。
 そうなればもう、既成事実を前に稲垣との関係は公認となり、今以上に恵のことを弄んでいくだろう。

「……」

 そう考えたところで、恵はそれが今の状況と大差ないことに気が付いてしまった。
 稲垣に呼び出されれば何があっても駆け付け、求められるままに体を差し出して抱かれる。時間も場所も選ばずに抱かれ、そして喜びに震えて泣き叫ぶ。
 それと妊娠後の自分となにが違うというのだろう。
 恵はもう、自分がどうやっても稲垣からは逃れられないことを理解している。
 雅人への思いを完全に断ち切ったわけではなかったが、心も体も稲垣へ依存してしまっているのだ。
 だから今もこうして、放課後の教室という考えられないような場所で抱かれてしまっている。

「このまま続けていくぞ」

 たったいま出したばかりだと言うのに、稲垣はそのまま続けようとする。だがそれは今に限ったことではなく、精力逞しい彼は常に二度以上は恵のことを求めてくるのだ。しかも、時間をおかずに連続して。
 それを知っている舞は黙って頷くと、いままでしていたのと同じように教壇に手をついてお尻を突き出した。
 制服のスカートは腰まで捲り上げられ、ショーツは左足の足首に小さくなって絡まっている。
 そして咲き綻ぶように乱れた秘唇の間からは、稲垣の射精した精液があふれ出し、太股を伝って流れ落ちていた。
 稲垣は射精を終えても萎える気配のない男性器を擦りながら、その膣口へと狙いを定めて背後から貫いていく。

「うぅんっ!」

 充分に濡れているうえに稲垣の精液がたっぷりと溜まっていたせいで、それは滑り込むようにして一気に恵の膣内へと潜り込んでしまう。
 いきなり勢いよく挿入されて、恵は背中を反らすようにして上体を起こした。

「はぁ、はぁ、はぁ…」
「いくぞ」

 恵のお尻を軽く撫でながら、稲垣はゆっくりと腰を動かし始める。すると広がった笠の部分で掻き出され、膣内に溜まっていた精液があふれ出してきた。

「お、こんなに出てたのか」
「んっ…あっ、あっ、あっ…」

 自分で出したものの量に感嘆の声を漏らしながら、稲垣は恵の腰を抱えるように手を伸ばし、少しずつ抽送の勢いを増していく。
 熱い肉の塊に膣内を抉るように擦られて、その甘美な刺激に恵は溺れていってしまう。
 膣内の感じる部分を擦られ、先端部分が子宮口を叩く。その度に鮮烈な快感が恵の体を駆け抜け、背筋から脳へと達して意識を蕩けさせていく。

「あっ、あぁんっ!」
「あんまり声を出すと、誰かに見られるかもしれないぞ」

 授業も終わり、一般の生徒はほとんどが下校した。校舎に残っているのは、部室を与えられていない一部の文科系の部員だけだろう。
 恵が大きな声で喘いでいれば、誰かに気付かれてしまう可能性は否定できない。
 だが、恵はもうそんなことはどうでもよくなっていた。
 知られたら知られたで、稲垣も道連れにして破滅するだけのことだ。いや、被害者だと言い通せば恵は無事にやり過ごせるかもしれない。
 しかしそうなったところで自分が幸せを取り戻せる訳ではない。もう学校には居られなくなるだろうし、家の中も大変なことになるだろう。
 ただでさえ雅人に稲垣との関係を知られてしまい、微妙に距離を置くようになってしまっているのだ。

「んんっ、んっ、んぁっ!んっ、んっ、んっ…はぁんっ!」

 それならいっそ、このままの状態が続いていった方がまだマシだ。
 自分と雅人が卒業してしまえば、稲垣との関係も清算するチャンスがあるかもしれない。
 それまで辛抱していれば、また以前のような雅人との関係を取り戻せるかもしれないのだ。
 そんな淡い期待を密かに思い抱きながら、恵は稲垣に身を委ねていた。
 色々な理由をつけて自分の置かれた状況、そして自分の取っている行動を正当化しようとしてはいても、快感が高まれば行為に没頭してしまう。
 処女を失ってから僅か数ヶ月の間に、すっかり女として目覚めさせられてしまった。
 それが恵の持っていた資質ではないのだとしたら、稲垣は相当の手練手管の持ち主ということになる。
 だが現実にはそうではなく、恵自身も少なからず淫らな性癖を持っており、それを稲垣によって目覚めさせられてしまったのだ。
 こうして放課後の教室という特異な場所で抱かれると、普通以上に感じてしまうのも稲垣によって目覚めさせられた性癖のひとつだ。
 普段、自分が勉強している教室で、部活の顧問であった教師に背後から犯される。そんな風に自分を客観的に捉えて、性的な興奮を高めていってしまうのだ。

「あっ、あっ、あっ、んんっ…せ、せんせぇっ…!」
「どうした、もうイキたくなったのか?」

 まだ全力からは程遠い緩やかな抽送ではあったが、一度目が終った直後ということもあり、恵が高まっていくが早いのは仕方の無いことだった。
 体の奥、子宮の辺りがざわめくように震えて、何かが全身を包み込もうと広がっていく
。それが恵の感じる絶頂の前兆だ。

「イキそう…だめっ、イッちゃいそうなのっ…んんっ!」
「駄目だ、勝手にイクのは許さん」
「そんなっ…!イ、イカせてっ…イキたいっ、イキたいのっ…!」

 膝の裏辺りがガクガクと震え、立っていることさえ辛くなってくる。
 稲垣がほんの少しだけ強く貫いてくれたら、恵はすぐにでも達することができそうな状態だった。
 しかし稲垣は自分で言ったとおり、恵が達してしまうことを許さない。抽送の速度を少しだけ緩めて、さらに恵のことを焦らしていく。

「やっ、やだっ…せんせぇっ、お、お願い…もうイキたいのっ…」
「なら他に言いようがあるだろう?」

 稲垣としても、別に本気で恵が達することを許さないつもりはない。ただそうした方が恵の快感が強くなることを、これまでの関係で知っているだけなのだ。
 そして恵は稲垣の言葉を受け、いつものように教え込まれた言葉を繋いでいく。

「つ、司さんっ…恵の…恵の淫乱なお、おまんこ…イカせてくださいっ…!」

 趣味が悪いと切り捨ててしまえばそれまでだが、恵は淫らな言葉を口にするだけで高まってしまう女になっているのだ。それが分かっているからこそ、稲垣は恵にそんな言葉を繰り返し教え込んだ。
 自分自身を蔑み、淫らな呼称を口にすると、それだけで恵は達してしまいそうなほどに感じてしまう。

「うぅんっ!んっ、んっ、んっ、んはぁっ!」
「ま、いいだろう…ほらよ!」

 稲垣は膣奥まで深く挿入した状態から、小刻みに鋭く突き入れるように擦り始める。すると、いきなり激しくなった抽送に恵の体は歓喜に震え、自分からも動き出してしまう。
 淫らに腰をくねらせるようにして、稲垣の小刻みな抽送に合わせて体を前後に揺らす。

「んあっ、あっ、あっ、あっ、い、いいっ、いいのっ、んあぁっ!だめっ、イクっ、イッちゃうんっ!」

 待ちかねていた快感が体を突き抜け、頭の中が真っ白な光に包まれていく。
 そしてその光の中へと飛び込むような感覚の中で、恵は絶頂へと昇りつめていった。

「あああああーっ!イクっ!イクイクイクっ!んあぁーっ!」

 少しだけ仰け反るようにして絶頂の叫びを漏らし、派手に達してしまう恵。そしてそのまま教壇へと突っ伏し、だらしなく開いた口から涎が零れ落ちる。
 それでも稲垣は抽送を止めようとはせず、力なく教壇に倒れこんでいる恵の腰を抱え、執拗なまでに貫き続ける。

「あっ、あぁっ!だめぇっ!せ、せんせぇっ…すごいっ、すごいよぉっ!」
「ああ?なにがどう凄いんだっ!」
「先生のっ…先生のお、おちんぽっ、おちんぽがすごいのぉっ!あああーっ!こわれちゃうっ、恵の…恵のおまんこ…こわれちゃうよぉっ!」

 一度昇りつめた肉体は、休むことなく達し続ける。繰り返される稲垣の抽送に、恵は気が遠くなるほどの絶頂の波に飲み込まれていた。
 もう余計なことは何も考えられず、ただ夢中になって快感を貪りつくす。ここが教室であることなど、恵の頭の中からは消え去ってしまっているのだ。
 絶頂で震える体の力を振り絞り、お尻を高く上げるようにして稲垣の抽送を受け止める。自然に腰が浮き上がり、爪先立ちになって両脚はいまにも攣ってしまいそうなほどだ。

「あぁんっ!先生っ、せんせぇっ!あっ、あっ、あっ、イクっ、またイクのっ!んんっ!んっ、んっ、んっ、はあぁぁぁんっ!」
「くぅっ!」

 絶頂によって恵の膣内は激しく稲垣の男性器を締め付け、まるで二度目の射精をせがむかのように収縮する。
 そして恵が繰り返し達している中、稲垣もまた最後の瞬間を迎えようとしていた。
 高まってくる射精感を腰の辺りに感じながら、しっかりと恵の膣内を貫いていく。その先端部分にはずっと、恵の子宮口の感触が伝わってきていた。

「そろそろ…出すぞ!」
「んんーっ!あっ、あぁっ、出してっ…中に出してっ…んあぁっ!」
「んくっ…!」

 そして先端部分をぴったりと子宮口に押し当て、稲垣は射精の引き金を引いた。

「あぁんっ!あっ、あっ、あっ、あぁーっ!」

 勢いよく子宮を叩く稲垣の精液。
 二度目だというのに、その量は信じられないくらいに多い。

(また…また膣内に出されてる…子宮に精液…飲まされちゃってる…)

 背筋がゾクゾクするような快感に体をブルルっと震わせながら、恵はその熱い射精感を子宮で感じていた。

「どうだ、気持ちよかっただろ?」
「…はい」
「そうだろう、そうだろう、ははは」

 自分のセックスに対する恵の反応に、稲垣は当然だとばかりに満足げに頷く。
 普段なら呆れてしまうところだが、今日の恵にはそんな稲垣の姿は全く意識の外にあった。今の恵が気になっているのは、今日もまた膣内に射精されてしまったということ。
 そして気が付いてしまった生理の遅れが、恐怖心となって恵の心を締め付けている。

(できちゃってたら…どうしよう…)

 目の前のこの男の赤ちゃんを身篭ってしまっているのだとしたら、私はいったいどうすればいいのだろう。
 まだそうと決まったわけではないのだが、恵はそのことばかりを考えて落ち込んでしまう。

「さて、俺は部活の様子を見てくるから、お前は帰ってろ」
「…分かりました」

 丁度いい。帰りにドラッグストアにでも寄って、妊娠検査薬でも買って帰ることにしよう。
 教室の扉から顔を出して外の様子を覗っている稲垣の後姿を見ながら、恵はそうしようと決めていた。



「う、うそ…本当なの…?」

 トイレの中で、買って帰った妊娠検査薬を握り締める恵。そこに現れていたのは、明らかに妊娠しているという印だ。
 妊娠検査薬の精度が絶対ではないとはいえ、あれだけ膣内射精された上に、こうもハッキリと出てしまえば疑う余地はない。産婦人科に行って検査を受ければ、きっと妊娠の事実を突き付けられるだろう。

(どうしよう…)

 両親、ましてや雅人になど相談できる内容ではない。親友の菜摘にだって、相談するにしては少し重すぎる内容だ。
 やはりもう一人の当事者である稲垣にしか、恵が相談できる相手はいない。事が手遅れになる前に、覚悟を決めて打ち明けるしかない。
 だが、本当にそれでいいのだろうか。
 今日も思ったように、稲垣が恵の妊娠の事実を知れば、きっともう歯止めが効かなくなるだろう。
 そしてもう二度と、過去を取り戻すことはできなくなってしまう。

「……」

 密かに堕胎させてしまおうかという考えも浮かびはしたが、望まぬ相手とはいえ授かった命だ、それを無下に失うことは女である恵にはできなかった。
 それに、恵が本当に望んでいた相手との赤ちゃんは、絶対に授かってはいけない。社会的にも医学的にも、それは許されないことなのだ。
 無意識のうちにお腹の辺りを手で押さえながら、恵は密かに決意を固めていった。



 それから約八ヵ月後、高校を卒業していた恵は無事に女の赤ちゃんを出産した。
 あの後、稲垣に妊娠を打ち明けるとほぼ予想通りの反応をした。恵の妊娠を喜び、自分から積極的に恵の両親へと挨拶に来ようとしたほどだ。
 もちろん両親は驚くのと同時に激しく怒りをあらわにしたが、意外なほど真摯な態度を見せる稲垣を目の当たりにして、最後には二人の関係を認めてしまった。
 そして卒業を待たずして稲垣は甲本家に転がり込むようにして同居を始め、恵は大学に入学したももの出産と育児のためにいきなり休学することとなった。
 孫の顔を見てしまうと両親は完全に溺愛してしまい、自然と雅人だけが家の中で浮いた存在となってしまっていた。

「…恵姉ぇ」
「……」

 妊娠を知ったとき、最も傷ついたのは雅人だった。
 自分と愛との関係にショックを受け、自暴自棄になって稲垣に抱かれてしまった姉の恵。稲垣との関係を打ち明けられていたとはいえ、それは一時的なものだと密かに信じていたのだ。
 いつか必ず稲垣との関係を清算させて、今まで通りの関係に戻れると、何の根拠もないのに信じていたのだ。
 だが現実には恵は稲垣によって孕まされ、恵の部屋に居着いてしまった稲垣との関係を、隣の部屋で常に感じさせられてしまう。
 恵との関係が公認になってしまった稲垣はさらに調子に乗って、隣の部屋に雅人が居ても構わずに恵を抱いた。その間、雅人はずっとひとり部屋の中で膝を抱えていたのだ。
 その声を聞きたくないのであれば、部屋に留まらずに家の外にでも逃げれば済むことだ。
 しかし雅人は姉の乱れた声からその痴態を想像し、その場から離れられなかったのだ。
 日に日に大きくなっていく恵のお腹を見せつけられながら、嫉妬と後悔に苛まれ続ける日々。そんな地獄のような日々を過ごし、そして恵は出産した。

「どうだ、俺と恵の子は。俺に似てて可愛いだろう?」
「くっ…」

 稲垣との間に出来た子だと思うと素直に喜びたくはなかったが、稲垣の言葉とは違い生まれてきた赤ん坊は恵によく似ていた。
 そんな姿を見てしまえば、何の罪もない赤子を憎んだり拒絶したりできるはずがない。
 いつしか雅人は現実を受け入れ、姉への気持ちを思い出の中に封じ込めようとしていた。

 姉の自分に対する思いも、自分の姉に対する恋心も、全ては若気の至りだったのだと……。

<おわり>