同級生二次創作SS「螺鈿細工の月−第三章−」

◇ 第八話-終焉- ◇


 その瞬間、誰もが呆気に取られていて、まるで全員が傍観者のように目の前の状況を見詰めていた。
 健二の行く手を阻む者はおらず、手の中の刃物の切っ先が向けらていたのは、舞の傍らに立つ黒川だった。
「危ないっ……!」
 辛うじてそう叫んだのは舞だった。
 その言葉が全員の体から鎖を解き、悲鳴にも似た叫びと共に、大の大人たちが逃げ惑う。
 しかし健二はそんな連中には目もくれず、ただひたすら黒川だけを見詰めていた。
「舞ぃぃぃぃぃぃっ!!」
 黒川もその場を離れず、舞を庇うように立ちはだかる。
「黒川さん!?」
 健二は更にその足を速め、体ごとぶつかるように、黒川へと突進した。
 血走った眼はもう黒川しか見ておらず、その表情は狂気にそまっている。
 そしてドンっと鈍い音と共に体がぶつかると、肉の塊に刃物を突き挿す嫌な音が鳴った。
「!!!」
 健二の手にしていた刃物は、あと数センチの所で黒川には届かなかった。
「ったく、余計な邪魔されちゃ困りますよ、相原の坊ちゃん」
「あ……あ、あ……ああ……」
 その切っ先が黒川の腹部に届く寸前、その間に割り込むように、早田が体を滑り込ませていた。
 早田は健二の手から刃物を奪うと、その肩をトンっと軽く押す。
 カランっという乾いた音と共に、フローリングの床にサバイバルナイフが落ちていた。
 そして腰が抜けてしまっていたのか、健二はそれだけで足をフラつかせ、崩れ落ちるように尻餅を着いてしまう。
「あーあ……血が出ちまった」
 ギリギリの所で刃物を手で遮ったのか、早田の手からは真っ赤な血が滴り落ちている。
 それを冷静な表情で見つめながら、ポケットからハンカチを取り出し、出血を押さえようとしていた。
「いい値が付くところだったんだが……興が削がれたな」
 そう言って早田が凄味のある笑みを浮かべる。
 この状況でも笑っていられることに、舞は改めて早田の恐ろしさのようなものを感じていた。
「……貸して下さい」
 しかしそんな思いを振り払い、早田の手からハンカチを奪うと、傷負った手に巻き付けていく。
「……」
 早田は薄笑いを浮かべて、手当てしようとする舞を見詰めていた。
「こいつが黒川だって、いつから気付いてたんだ?」
 包帯替わりにハンカチを巻かれた手を眺めながら、何気ない口調でそう問い掛ける。
 ラバーマスクだけで本気で隠し通せると思っていたのか、それとも舞を試したのかは分からない。
「目を見れば分かります」
 しかし舞は早田の問い掛けに、きっぱりとそう答えていた。
 借金を盾に体を要求された相手だったが、一時は心を通わせる所まで深く結ばれたことのある相手だ。
 自分を見詰める時の黒川の瞳は、舞の脳裏に深く刻み付けられていた。
「フン……そんなもんか」
 自嘲気味にそう呟くと、早田は腰が抜けた健二を一瞥し、舞と黒川に向き直す。
「で、どうするつもりなんだ? 相原の坊ちゃんのせいで、折角の仕事がパーだ」
 早田が集めた客達は全て逃げ去り、オークション会場となっていた部屋は、この4人しか残っていない。
 もちろん別室には山辺や、まだ捕らわれている美沙達が居るが、客が逃げ去ってしまった以上、これ以上はもう続けられない。
「それなら大丈夫です」
 舞はしっかりと2本の足で立ち、早田に対して臆することなくそう告げた。
「ほう……?」
「相原の小父様に中心になって頂いて、貴方の集めたお客様達にお話させて頂きました。私達が今よりは健全な組織にして、運営を続けていくと」
 裏社会とも繋がりのある組織だ、そう簡単に全てを無かったことには出来ない。
 それに食い物にされている女性の中には、そうすることでしか日々の糧を得られない者も居た。
 ならばと、舞は組織はそのまま維持し続け、早田と山辺だけを排除する為に、その顧客の全てを取り込むことを考えた。
 全く同じ別の器を用意して、そこに中身を丸っと移し替える。
 もちろん今の状況を望まない女性は解放し、舞の考えを理解してくれる女性達だけで、客となった男達を相手にするつもりだった。
 客達も早田の危険性は気付いていたし、剛三や舞が中心になることで、今までよりもリスクが減らされることを歓迎した。
 地元の財界、政界などの人間が多かったこともあり、横の繋がりで話は順調に進んでいった。
「だからもう、貴方たちは必要ないんです……早田さん」
「なるほど……で、俺がはいそうですかって、納得するとでも?」
 早田が一部の客の弱みを握っていることは舞も知っていた。
 それらは主に警察関係者であり、彼等を脅すことで早田は様々な情報を得、他の客達に睨みを利かせていたのだ。
「……来週にも、逮捕状が出ることになっています」
「ほう……」
 舞が密かに進めていた計画の、それが最後の詰めだった。
 剛三の知人である地元の政治家を頼りに、脅されている警察関係者を説得する。
 そして早田の逮捕状が出てしまえば、取り調べの間に全ての事を進めてしまう算段だったのだ。
「貴方が捕まってしまえば、後は私達で何とでもなりますから」
「考えたもんだな……」
 舞が代表になって裏の社会を侮らせてもいいし、或いは剛三が代表となって堂々と渡り合っても良かった。
 とにかく女性たちの側に選択権を手に入れることを、舞は企んでいた。
 それぞれの事情や理由はあるが、男達に強いられていることだけは受け入れられない。
 女として利用できる部分は利用し、或いはそれを武器にして富を得るにしても、それは彼女達の意志でなければならなかった。
 早田も舞が何らかの動きをしていることは察知していたが、それはあくまでも組織の解体、或いは女性達の解放を目的としていると判断していた。
 その場合の対策も彼なりに考えてはいたが、作り上げてきた組織を、そのまま奪われてしまうのは想定外だったのかもしれない。
「確かに、裏の連中は金さえ手に入ればそれでいいからな」
 下手に関わり合ってリスクを抱えるより、利益となる上前だけを撥ねたいのが、彼等のように社会から外れた人間達の考えでもある。
 舞はそういった性質も見抜いた上で、今回の件を企んでいた。
「しかし、どんな罪状で逮捕させるのか知らんが、そう長くはないぞ?」
 こう見えて早田に前科は無い。
 組織を維持する以上は女性達から訴える訳にはいかず、他の理由で彼らを拘束するしかない。
 舞が考えていたのは、一部の金の流れを利用して、彼等を脱税の容疑で告訴するつもりだった。
 叩けば埃の出る身だる早田達であれば、脱税による実刑も可能だろう。だが、刑期はそれほど長くはならない。
「大丈夫です。その間に、私はもっと強くなりますから」
 値踏みするように眺める早田に対して、舞は何の恐れも抱かず、凛とした態度でそう言い切った。
 女性達に自由を取り戻す為、早田と対決すると決めた時から、その覚悟は決まっていた。
 背後に立つ黒川が、そんな舞の肩に手を置く。
「はぁ……ま、そんなもんだな」
 覚悟を決めた舞の様子に、早田は溜息を漏らして肩を竦める。そして怪我していない方の手で懐を探り始めた。
「ほらよ、下の鍵だ」
 早田が懐から取り出したのはマンションの鍵。美沙や他の女性達が捉えられている、階下の部屋の物だった。
 それは早田が負けを認めた証。
 舞はその鍵を大切そうに受け取ると、ようやく安堵の笑みを浮かべた。
「んじゃ、ちょっと一服させて貰う……」
 もう足掻くつもりはないのだろう。そう言って早田が踵を返し、部屋の扉へと向き直った所で動きを止める。
「舞は俺のものだ……舞は俺のものだ……舞は俺のものだ……」
「相原君!?」
「俺のものなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
 刃物を拾い上げた健二が、絶叫と共に突進する。
 向かった先は早田でも黒川でもなく、舞だった。
「チッ……!」
 伸ばした早田の手が一瞬遅く空振りし、健二の足が更に加速する。
 しかしその切っ先が舞へと届く寸前、その足が止まった。
 舞を見詰める健二の瞳に涙が浮かび、それが一気に溢れ出して頬を伝う。
「えぐっ……えぐっ……ま、まいは……おれのなんだ……おまえが……おまえがぁ……」
 その切っ先は黒川へと向けられ、最後の一歩を踏み出す。
「駄目っ……!」
 止めようとする舞の肩を黒川の手が押し退け、そのまま舞は床に倒れ込む。
 黒川の表情は覚悟を決めたかのように、優しげな微笑みさえ浮かんでいた。
「黒川さんっ……!! いやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 絹を引き裂くような舞の絶叫が部屋に響き渡る。
 だが、健二の手にした刃物が黒川に届く寸前、取り押さえそこなった早田が再びその間へと体を割り込ませていた。
「もう終わりにしときましょうや、相原の坊ちゃん」
「あ……あ……ああ……」
 怪我をしていた手を伸ばすことが出来ず、二度目はその体で受け止めることになった。
 突き刺さった刃物の根元から、黒ずんだ血がポタポタと滴り落ちていく。
「そ、早田さん……!?」
「早田っ……!」
 慌てて駆け寄る舞と黒川の横で、刃物を取り落した健二が、頭を抱えて蹲っていた。
「あ……ああ……ちがう……ちがうっ……ちがうんだぁっ!!」
「救急車を呼びますっ!」
「しっかりしろ!」
 刺し傷は思った以上に深く、必死に押さえていても溢れ出す血の勢いが衰えない。
 徐々に血の気を失っていく早田が、黒川に向かって笑みを浮かべて、傷を負った手を伸ばす。
「先に逝ってるぜ……哲哉ぁ……」
 その手が黒川の頬に微かに触れ、そして力を失って床に落ちる。黒川の頬には指先の感触と共に、どす黒い血の跡が残っていた。
「早田……」


 いつの間にか外は雨が降り始めていた。
「本当に行くんですか……?」
「ああ。誰かが出頭しなければ、警察も収まりがつかなりだろう。それに、健二君だったか? 彼を追い詰めた原因は私にもある」
 早田の死から1時間あまりが経ち、二人は舞が与えられていた一室に居る。
 錯乱状態だった健二は剛三に引き取らせ、凶器の刃物からは指紋を拭い、今は黒川の手元にあった。
 健二を庇って出頭することは黒川から言い出したことで、最初は舞や剛三も戸惑ったが、それが最善であるのは疑いようが無い。
「そうですか……」
 だから舞も黒川を強く引き留めようとはせず、その意思を尊重することを選んでいた。
「もう私のことなんて忘れて、これからは家に戻るといい」
「っ……勝手な事言わないで下さい! 桜木家を救って頂いたことは感謝してます……でも、私を滅茶苦茶にしておいて……それで終わらせるつもりですか!」
「舞……」
 溜め込んでいた感情を吐き出すような舞の言葉に、黒川は俯いたまま黙り込む。
「言いたい事も沢山あります……ちゃんと責任だって取って欲しい…………」
 そこで言葉を区切ると、舞はぎゅっと手を握りしめた。
 長い沈黙がそれに続き、そして搾りだす様な声で呟く。
「だから、待ってます……」
 膝の上に置かれていた黒川の手に、舞の手がそっと重ねられた。
「しかし……」
「ずっと桜木家の長女として生きることを強いられてきて……まるでお人形のような人生でした。いつも優等生の仮面を被って生きてたんです……」
 握り締められていた手が、小刻みに震えている。
 桜木家の長女として育ってきた過去を振り返り、そこに強い思いを呼び起こされていた。
「そんな私を、一人の女にしてくれました……桜木家の長女としてではなく、一人の桜木舞として見て貰えて……凄く嬉しかった……」
 その声が微かに震え、涙が声に滲んでいく。
 零れ落ちそうになった涙を黒川の指先が拭い、そのまま頤へと向けられ、そっと唇が重なっていった。
「ん……んん……んちゅ……ちゅ、ちゅぐ……ちゅぶ……」
 座っていたベッドの上に、舞の体がゆっくりと仰向けに沈み込む。
「私は金で君を手に入れるような男だ……それでも……」
 そこから先に続く言葉を黒川は飲み込む。
 言ってはいけないことだと、そう自戒しているようだった。
「貴方が見違えるくらい素敵な女性になって、きっと驚かせてあげます……」
 複雑な思いを今はお互いに飲み込み、それ以上の言葉は口にせず、熱を帯びた視線を絡ませ合う。
 そして再び唇を重ね、黒川は万感の思いを込めて舞の体へと触れていった。
「んっ……んちゅ、ちゅぅ……んん……んふぅ……ちゅ……ちゅ……ちゅぷ……」
 唇を啄み、擦り合わせ、そして舌を絡め合う。
 今までにないほど鼓動が高鳴り、体が熱く火照っていくのを舞は感じていた。
 数々の男達に抱かれ、黒川以上の逞しさも知り、セックスの味も、より深くまで知っていった。
 それでも尚、初めての相手は特別なのかもしれない。
「ふぁ……ん……んん……黒川さん……」
 まだ余韻の残っている乳房は、優しく触れられただけでも、乳首が痛いくらい硬く尖っていく。
 その甘い疼きを胸の先に感じながら、舞は初めて黒川の名前を呼んでいた。
「舞……」
 黒川はその乳首へと唇を押し付けながら、太ももの間へと手を滑り込ませる。
 膝から力が抜けて、その手を迎え入れるように脚が開いていく。
「ぁ……」
 シャワーを浴びる暇すら無かった舞の膣内には、まだ先ほどの黒川が放った精液が残っていた。
 溢れ出そうとする精液に蓋をするように、黒川の指先がその膣内へと深く潜り込んでいく。
 巧みさよりも力強さの方が上回るその指使いに、火を点されたかのように、舞の腰が熱く疼き始めていた。
「くふっ……ぅ……うぅ……ぅんっ……!」
 掻き混ぜられた精液が、徐々に愛液と混ざり合って粘り気を増していく。
 指の腹が膣壁を強く擦り上げ、徐々にその動きが加速していくと、その腰が跳ね上がるように震え、抑えきれずに嬌声が溢れ出す。
「あっ……んんっ、ふあぁっ……! あっ……あっ……あぅっ……んんっ!」
 その感触の全てを記憶しようとするかのように、黒川は丹念に舞の体に触れていく。
 指先は隅々まで這い回り、舞が感じる場所を一つずつ確かめ、そして官能の炎を灯していった。
 膣内の潤いは舞の高まりと共に増していき、それが膣内に溜まっていた精液を押し出していく。
「はぁっ……はぁっ……んっ、くっ……はぁっ……!」
「熱いな……こんなにも敏感だったか?」
 以前のような調子を取り戻しつつあるのか、少し意地の悪い言い方で、黒川が舞のことを煽る。
 以前の舞であれば、その言葉に頬を赤らめて無言になるか、ただ唇を噛むだけだっただろう。
 しかし黒川の手元を離れ、様々な出来事を経た今、その程度のことで狼狽えることはない。
「いっぱい経験しましたから……黒川さんの知っている、大人しい桜木舞じゃないんですよ?」
 そう返されてしまった黒川の方が、逆に言葉を無くした。
 どう返していいものか分からず、困惑した様子で目を逸らすが、それでも何か言い返そうと、黒川は言葉を絞り出した。
「……哲哉」
「え……?」
「そろそろ名前で呼んでくれてもいいだろう?」
 不意にそう告げられて、舞は戸惑うように視線を彷徨わせる。
 しかしその頬は恥じらうように上気し、微かに震える唇がそっと開く。
「て……哲哉、さん……」
 そう呟いてから、語感を確かめるかのように、口の中で何度も繰り返す。
 ただ名前を呼ぶだけのことに、初々しく照れる舞の様子を、黒川も愛おしげに見つめていた。
「哲哉さん……」
 改めて黒川を見つめ直し、様々な感情のこもった声音で、そう名前を呼ぶ。
「舞……」
 麻依の名前を呼ぶ黒川の声にも、一言では言い表せないような、万感の思いが込められていた。
 そしてお互いの顔が近付いていくと、舞の瞳がそっと閉じられる。
「ん……んん、ちゅ……ちゅぅ……んんっ……!」
 再び深く唇を重ねながら、その十分に潤っている膣内へと、その猛ったものを挿入していく。
 つい数時間前にも繋がったばかりだが、衝撃的な出来事を乗り越えた後では、また感じ方も異なる。
「んん……ちゅぱぁ……はぁ、はぁ……すごく、熱いです……哲哉さん……」
「せめて体だけでも、俺のことを覚えておいてくれ」
「……忘れません、全部……私に初めてを教えてくれた人なんですから」
 桜木家の長女としての人格しか持っていなかった自分に、一人の少女、そして女としての人生を与えてくれた。舞にとって黒川とは、今の自分自身を生み出した、全ての根源とも言える。
 始まりは意に反して強要されたものではあったし、素直に愛しているとは言えない存在だ。それでも舞にとって黒川は特別な相手であり、唯一の存在でもある。
「舞……!」
 黒川は込み上げてくる思いと共に、力強く腰を突き入れていく。
「んんっ……んあっ……! あ、ああっ……哲哉さんっ……!」
 待っているとは言ったものの、黒川が再び自分の元に現れると、舞も本気では思っていなかった。
 黒川によって全てが始まり、その連鎖の中で堕とされていった女性も多い。早田はその命をもって償うことになったが、黒川はそうではないのだ。
 出所後に舞の元へ現れれば、被害女性達からの非難が舞にまで及ぶ可能性があることを、黒川が気付かないはずがない。
「はぁっ、はぁっ……んんっ、くぅっ……あっ、あっ……!」
 力強い抽送に甘い声を上げながら、これが最後になるのだろうと、舞は胸を締め付ける思いだった。
「くっ……舞……! 舞……!」
 舞の名前を何度も繰り返しながら、黒川は力強く突き入れ続ける。
 濡れた膣壁を擦り上げる男性器の形や、膣奥を力強く突く時の勢い、そして呼吸に合わせた抽送のリズム。
「忘れませんっ……私、絶対……ああっ……! わ、忘れ……んんぅっ……!」
 何人もの男に抱かれてきたし、黒川よりも上手かった男、或いは相性の良かった男もいた。
 それでも黒川は特別な存在であり、舞はそれを記憶としてだけではなく、体でもしっかりと覚えておきたかった。
「舞……俺は……! っ……!」
 一方で黒川は喉まで出かかった言葉を飲み込む。
 関係者達が手を尽くすとしても、出所まで何年かかるか分からない。若い舞の貴重な時間を、自分の為に無為に過ごさせたくはなかった。
 それでも自分を待っていてくれると言うのなら、それを拠り所にしたいという思いも、黒川の中にあった。
「んくぅっ! はぁっ、はぁっ……ああっ……お、奥に……あぁんっ!」
 黒川の力強い突き入れをしっかりと受け止め、舞は官能の炎を燃え上がらせていく。
 このまま二人で絶頂へと向かう、そう思われた瞬間だった。
「はぁ、はぁ……舞……」
 黒川は抽送を止めて肉棒を引き抜くと、舞の腰を撫でるようにして促す。それだけで舞は全てを理解し、恥じらいながら頷き返した。
 そして自分からベッドの上で四つん這いになり、背後の黒川へと欲情した視線を向ける。
「はぁ……はぁ……思いきりして下さい、哲哉さん……」
「……ああ」
 舞の細い腰に手をかけ、引き寄せながら改めて挿入する。
「くぅんっ……! んんっ……ふあぁぁぁ……!」
 肉棒が一気に膣奥まで到達すると、舞はその背中を弓なりに反らして、歓喜の声を上げていた。
 黒川はすぐさま抽送を開始し、そんな舞を激しく責め立てる。
「あぁんっ! あっ、あっ! い、いいっ……ああぁぁ……! もっと……もっと突いてっ……あああ!」
「ああ、分かっている……!」
 自分の全てをぶつけるように、黒川は全身を使って肉棒を出し入れさせる。腰を打ち付け、膣内を掻き混ぜるようなその抽送に、舞も激しく乱れていった。
「あっあっあっ! いいっ、いいのぉっ! 哲哉さん! 哲哉あぁんっ!」
「くぅぅ……! 舞……!」
 広がったカリ首によって愛液が掻き出され、繋がった部分から滴り落ちていく。
 抜き差しに合わせて淫らな水音も漏れ、そこに舞の官能的な嬌声が重なり合い、まるで一つの曲のようになっていた。
「あんっ、ああっ! すごいっ……! ああっ、ずんずん響いて……ひぃん!」
 体の芯から高まってくる快感に、舞が頭を振って髪を乱す。
 貫かれる膣内から快感が背筋を駆け抜け、そのまま頭の先へと突き抜けていく。
「お、おおっ……うおっ……!」
 黒川は額に浮かんだ汗を滴らせながら、休むことなく全力で腰を動かし続ける。
 その激しさが舞を限界まで導いていった。
「あぅっ、んんぅっ! あっあっ! ダメぇっ! イッちゃう、イッちゃうっ!」
 十分に昂ぶっていた体は、呆気なく昇り詰めようとしていた。
 膣内の締め付けを通して、それが黒川にもしっかりと伝わる。
「俺もだ、舞……! くぅっ……!」
 ペースなど考えず、熱く深い思いのままに、出し入れを続けてきた結果だろう。黒川も既に限界が見えていた。
「だ、出して、出して下さいっ……! 私の中に、思いきり……! あああっ……哲哉さぁん!」
 自分からも腰を前後に揺らし始めながら、舞はそう射精を求める。
 黒川の突き入れと、舞の動きがしっかりと重なりあって、互いの快感が最高潮へと達していく。
「はぁっ、はぁっ……くっ、うぅぅぅ……!」
 歯を食い縛り、汗を滴らせながら、腰を振り続ける黒川。
 それを全身で受け止め、舞も絶頂に向かって高まっていく。
「あっ! ああっ、あぁんっ! あああぁっ! もうイクっ、イクっ……!」
 何度も絶頂を口走り、その表情を淫らに蕩けさせた。
 そして黒川は限界まで腰を動かし続け、弾けるように射精を迎える。
「うぅっ! 舞っ……!」
 舞の膣内で肉棒が激しく脈打つ。
 しっかりと腰を密着させ、黒川は舞の胎内に射精していた。
「ああぁっ! 熱いっ……! ふあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 子宮へと殺到するように流れ込む熱い精液。それを受け止めながら、舞も絶頂へと昇り詰める。
 ぐっと強張った体が小刻みに震え、膣内は黒川を強く締め付け続けていた。
「くぅぅ……! はぁっ……はぁっ……!」
「んはぁぁぁ! はっ、はっ、はっ……はぁぁぁぁ……!」
 二人は長い絶頂の余韻を味わい、そしてゆっくりと脱力していく。
 揃ってベッドに倒れ込みながら、二人はしっかりと指を絡めて手を握り合う。
「はぁ……はぁ……哲哉さん……」
「はー……はー……舞……」
 乱れた呼吸に二人の胸元がゆっくりと隆起を繰り返す。
 噛み締めるように名前を呟く二人に、それ以上の言葉は無かった。



「舞……」
 黒川を乗せた警察車両が走り去っていくのを、窓越しに見つめていた舞へと、解放された美沙が声をかける。
 その声に振り向いた舞の表情には、どこか吹っ切れたような微笑みが浮かんでいた。
「行きましょうか、美沙ちゃん」
「……うん」
 頷く美沙の表情にも、ようやく心からの笑みが浮かぶ。
 歩き始めた二人の少女の瞳は、この先にある新たな未来を見つめていた。

<本編-完->


 

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