同級生二次創作SS「螺鈿細工の月−第三章−」

◇ 第二話-終わりと始まり- ◇


「くそっ……」

 苛立ちのままに地面の小石を蹴り上げ、出てきたばかりの校舎を見上げる。健二にとって、忌まわしい出来事ばかりが続いている。
 モノにしたと思っていた女は自分から離れ、運良く転がり込んできた女は、ただの一度で失ってしまった。そして本命の女とは、完全に関係が途絶してしまった。
 黒川さとみや田中美沙を惜しいとは思わなかったが、桜木舞のことは本気で狙っていただけに、関係が途切れてしまったことが口惜しい。

「……舞」

 桜木家が破綻したとき、健二は舞との婚約も時間の問題だと思った。しかし、現実は健二の思惑通りにはいかなかった。桜木家の経済状況はあまりに酷く、相原建設程度の規模ではどうにもならなかったのだ。結局、桜木家の没落をただ傍観していることしかできず、舞を手に入れるチャンスを失ってしまった。
 父親から聞かされた話では、舞は債権者の男に愛人同然のように扱われているらしい。健二もその事実を本人に確かめようとしたが、声をかけようにもガラの悪い黒服に送り迎えされていては、なかなかそのチャンスもない。ここ数ヶ月、桜木舞とは挨拶すらできてない状況だ。

 なんとかして舞を取り戻せないかと、父親にも何度も詰め寄った。しかし、桜木家の債務を肩代わりした男はかなりの実力者らしく、父親である相原建設の社長はただ「諦めろ」と繰り返すばかりだった。
 そんなとき、健二は美沙のことを知ったのだ。そして美沙を呼び出し、舞を奪われた苛立ちをぶつけるように犯した。
 しかしその美沙も、いきなり現れた山部と名乗る男によって失ってしまった。
 最初は男の言うことに耳を貸さなかった健二だったが、山部と名乗った男がいずこかへ電話をかけるといきなり健二の携帯電話が鳴った。かけてきたのは父親である相原建設の社長。そして電話口でいきなり、男の言うことを聞かなければ親子の縁を切ると切り出されたのだ。
 そのときの父親の口調で、健二は全てを悟った。自分が手出しできる相手ではないのだということを。
 相原建設の御曹司として、地元では誰にも頭を下げることなく生きてきただけに、それはあまりに屈辱的だったし、なにより父親の怯えたような声を聞いてしまったことがショックだった。
 密かに関係を続けていた黒川さとみは自分から離れ、田中美沙は手を出せない存在なのだと見せ付けられた。そして桜木舞とは口を利くことすらできない。
 健二の苛立ちはピークに達していた。

「やあ、相原さんとこの……健二君だったかな?」
「……なんだ貴様は」

 学校を出ようとした健二に声をかけてきたのは、見覚えのある黒服の男だ。確か舞の送り迎えで見たような気がする。
 そんな男にいきなり声をかけられ、健二は男の持つ迫力に少しだけたじろんだ。
 男はそんな健二の態度を気にした様子もなく、真っ黒なサングラスで視線を隠しながら気さくな態度で健二へと話しかけてきた。

「先日はうちの人間が失礼したね。相原社長のご子息なら別に構わなかったんだがね、気が付かなくて申し訳ない」
「何が言いたい?」
「いえね、そのお詫びという訳ではないんだが……どうかな?」

 はっきりと口にはしないが、男が何を言おうとしているのかは健二にも理解できる。ただ、その誘いに乗っていいものか判断に迷う。
 お詫びなどと言ってはいるが、そんな気遣いをしてくるような相手とは思えない。その言葉の裏に何か思惑があるのは間違いないだろう。しかし、相原建設の跡継ぎとはいえ、ただの高校生である健二に対して、何を企んでいるというのだろうか。
 健二は迷った末に、男の言葉に乗ってみることにした。
 相手にどんな思惑があったとしても、これ以上苛立ちが増大することもないだろう。そう思ってのことだ。

「……いいだろう」
「健二君が話しの分かる方でよかった」

 男はそう言って口元だけを歪めたが、目元を隠していては笑っているのかどうか怪しいものだと健二は思った。

「じゃあ、車に乗って」

 それは舞が送り迎えされている黒塗りの車とは違う、国産のスポーツカーだった。その助手席へと健二が乗り込むと、男は勢いよく車を発進させる。
 健二も外国製のスポーツカーを持ってはいるが、それと遜色の無い加速に体がシートへと押し付けられる。

「待たせてる相手もいるんでね、少し飛ばしますよ」
「好きにしてくれ」

 健二が答えるのも待たずに、男はギアを落とすとアクセルを深く踏み込んだ。
 その動きに追従するようにしてエンジンが唸りを上げ、さほど遮音性の無い室内へと騒音が響いてくる。健二が持つ外国製のスポーツカーと違い、下品になりかねない排気音も高々と鳴り響いていた。
 車は法定速度を無視して街を走りぬけ、川を渡って隣町へと向かう。そして健二が連れてこられたのは、この界隈では最も高い建築物である高層マンションだった。
 上層階は一軒でワンフロアーを占有している、いわゆる超がつく高級マンションで、相原建設も建築には関わっている。

「ここか」
「ええ、ここの最上階ですよ」

 地下駐車場へと車を停めて車を降りると、すぐ隣には舞を送り迎えしている黒塗りの車が停まっていた。
 そしてそのまま男と共に、警備員の常駐している玄関ホールへと足を踏み入れる。床は大理石、エレベーターは共用のものとは別に、上層階用に専用のものが備え付けられている。男は迷わずそのエレベーターへと乗り込み、健二にも乗るようにと視線で促した。
 ここまで来て少し迷いの生じていた健二だったが、怖気づいたと思われるのが癪で同じようにエレベーターへと乗り込む。
 そして健二を迎え入れたエレベーターは静かに扉が閉まり、まるで止まっているかのような静かさで上昇し始めた。

「……どんな女なんだ?」
「なにがです?」
「しらばっくれるなよ、女が待ってるんだろう?」

 男はこれまで口にしてはいなかったが、美沙のことを思えば他に考えられない。

「もう黙っている必要もないか……ええ、女ですよ。それも、君のよく知っているね」
「俺の?」

 そう言われて健二の頭に浮かんだのは美沙だった。
 男は健二と会うなり、先日のことを「構わなかった」と言った。それを考えると、改めて美沙を自由にできるのかもしれない。
 そう考えると、あの日の美沙の肢体の記憶が鮮明に甦ってくる。思わず期待と興奮で健二の下半身が熱くなりかけるほど、鮮明な快感の記憶だ。

「まあ、お楽しみに、とだけ言っておきますよ」
「……」

 美沙のことは別に好きでもないが、あの体の魅力は忘れ難いものがある。それを自由にできるのであれば、男の誘いに乗ったのも悪い選択ではなかったようだ。
 通過していく階の表示を見つめながら、健二は次第に興奮が高まっていくのを感じていた。

「ここです」

 エレベーターが開くと、すぐ前に大きな玄関扉がひとつだけある。上層階は本当にワンフロアーを占有しているのだということを実感させた。
 男に促されてエレベーターから降りると、それを待っていたかのように玄関扉が開いて男が顔を出した。それはあの日、美沙との関係のあとに現れた山部と名乗る男だ。

「いらっしゃい、相原さん」
「貴様は……!」
「いやぁ、あのときは申し訳ありませんでした。相原社長のご子息だと知っていれば」

 男はそう言うってわざとらしく頭を下げる。その態度に健二は苛立ちを覚え、思わず拳を握り締めてしまった。

「こいつもああ言ってますし、穏便に願いますよ」
「くっ」

 健二の苛立ちを察した男に肩を掴まれ、握り締めていた拳を振り上げることなく開いた。山部の卑屈な態度に、多少は自尊心を保たれたことで怒りも収まっていく。
 それにこれから美沙を自由にできるのだと思うと、こんなところでエネルギーを浪費するのも馬鹿らしく思えた。

「フン、まあいいさ……」
「さあ、玄関先での立ち話のために来たわけじゃないでしょう? さあ、入って」
「そうだな」

 男に連れられて玄関へと足を踏み入れると、そこには女物の靴が何足か並んでいた。それが健二の期待を肯定しているようで、健二は生唾を飲み込んだ。
 そして長い廊下を通され扉の前に立たされる。

「ここですよ、どうそ入って下さい」
「あ、あぁ……」

 ごく普通のありふれた扉。その向こうに女が待っている。
 扉のノブを握る手が緊張で微かに震えてるのを隠すために、健二は勢いよくその扉を開いた。
 そして扉の向こうで待っていた女の姿に、何もかもが凍りついた。

「ま、舞……!?」
「相原……君……」

 早田の指示で客である老人の相手をし、その帰りに山部に火照った体を慰められた。そして戻ってきた舞がシャワーを浴び自室で休んでいると、いきなり早田に違う客の相手をするように告げられた。しかもこの部屋で。
 唯一、自分自身でいられるこの場所まで奪われるのかと早田を睨みつけた舞だったが、いまの舞が早田の命令に逆らえないことは自分自身がよく理解していた。
 仕方なく早田の命令に頷き、こうして身支度を整えて待っていたのだ。

 生成りのシャツに丈の短いプリーツスカート、そしてスカートの裾からは黒いストッキングに包まれた足が覗いている。
 シンプルな服装なだけに、舞のもつ魅力がより際立っているような感じがした。

「ど、どうして舞が……」
「……」

 すぐに状況を悟って視線を伏せた舞に対し、健二は間の前の現実に激しくうろたえている。美沙だとばかり思い込んでいた相手が、実は本気で焦がれていた舞だったのだ。健二が狼狽するのも無理は無いだろう。
 そんな健二の背中を男の手がそっと押した。

「驚いたようですな。まあ、無理も無いか」
「き、貴様……これはどういうことだ!」
「どういうことも何も、見た通りですよ。おや、この女ではご不満でしたか? ああ、美沙の方がよかったですか。それなら替えても構いませんが」
「なっ……!」

 男の言葉に怒りかけた健二が再び狼狽する。
 そんな二人の様子に、視線を落としていた舞が二人を見つめた。

「早田さん、それ……どういうことですか」
「話してなかったか? 相原さんとこのご子息に、美沙を摘み食いされてね」
「お、おい!」

 あっさりと事実を話してしまった男に、健二は慌てふためいて男の口を押さえようとするが、背後から山部に羽交い絞めにされてしまう。
 そして早田の言葉に、舞は悲しみに満ちた瞳で健二のことを見つめた。その視線の持つ力と自身の罪悪感に負けて、健二は力なく首を落としてしまった。
 舞のことは本気だっただけに、後ろめたい事実を知られてしまったことは健二にとって絶え難いショックだ。

「まあ、そのこと自体は別に構わなかったんだが……相原社長はお得意様だし、どうせならご子息の健二君も、と思ってな」
「そんな……」
「そういう訳だから、たっぷりとご奉仕して差し上げてくれ。まあ、健二君は美沙の方がお好みのようだから、別に断っても構わないが……どうする?」

 早田は舐めるような視線で舞を見つめ、答えの決まっているような問いかけをする。美沙のことを持ち出されては、舞が断れないのを分かった上での言葉だ。
 それが分かっているだけに、舞も早田に対する憎悪が込み上げてくる。しかも今回の相手は相原健二、舞もよく知っている相手なだけに尚更だ。
 しかしここで舞が嫌がれば、早田は言葉の通りに美沙を健二へとあてがうだろう。自分のために美沙が犠牲になることだけは避けたい。
 だからもう答えは決まっているのだ。

「……私にやらせて下さい」
「そうか。健二君、申し訳ないんだが、そういうことでこの女で我慢して欲しいんだが」
「……」
「ほら、お前からもお願いしないか。健二君はお前では駄目のようだぞ」
「っ……」

 もちろん健二にそんな意思は無いが、早田の言うことを素直に受け入れることもできない。
 すると舞は立ち上がり、ゆっくりと健二の前へと歩み寄った。それに合わせて山部も羽交い絞めしていた腕を解き、健二の体を自由にする。

「相原君……」

 舞が目の前に立っていても、健二はその顔を見ることができない。健二の視線が捕らえているのは、舞のつま先だけだ。

「お願い、美沙ちゃんのことは諦めて……私で我慢して」
「ま、舞……」
「相原君、お願い」

 強い意志の感じられる舞の言葉に、ようやく健二も視線を上げることができた。
 そして目の前に迫っていた舞の愛らしい顔が飛び込んできて、その愁いを帯びて揺れる瞳と濡れたように光る唇に、健二の心は鷲掴みにされてしまった。
 たぶん、これほど近くで舞の顔を見たのは健二も始めてだろう。染み一つない透明感のある白い肌、長い睫毛と潤んで揺れる瞳。健二の鼓動が高鳴っていく。

「ほら、舞もこう言っていることだし」
「し、しかし……」
「早田さんの言う通りですよ、健二さんもここは楽しんで下さいよ」

 早田に合わせるようにして、山部も卑屈な口調で囁きかけてくる。
 美沙だと思い込んでいた相手が実は舞だと知り、美沙との事実を暴露されて戸惑っていた健二も、次第に自分自身を取り戻し始める。

(そうだ……どうせ舞はもう手に入らないんだ、これは最後のチャンスかもしれない)

 いまの自分や舞の置かれている状況を思えば、健二が舞と結ばれる可能性は限りなくゼロに近いといえる。それならば、諦めて現実を受け入れてしまった方が得策かもしれない。
 それは計算というよりも、目の前にチラついた餌に跳び付くための言い訳のようなものだ。

「ほ、本当に……」

 改めて意識すると緊張が高まり、喉が渇いて唇が張り付く。制服や水着に包まれた体を意識しては、繰り返し視姦してきた舞を自由にできるのだ、緊張するなという方が無理だろう。そんな舞の体を身近に感じて、健二の中で邪な欲望が渦巻いていく。
 そして健二は緊張に包まれながらも、自分が激しく勃起していることを自覚していた。

「じゃあ、ごゆっくりと」

 複雑な気持ちで見詰め合う二人を残して、早田と山部は静かに退室していった。
 残された健二も舞も、そんなことにはもう関心がなく、ただお互いのことを見つめている。健二は興奮と戸惑いを胸に、舞は現実の無常さを噛み締めながら。
 舞が自室にあてがわれている部屋は、舞い自身がそれほど荷物を持ち込んでいないせいか実に質素なものだ。備え付けのクローゼットがあることもあり、洋服ダンスやチェストのようなものさえ置かれていない。あるのは小さな机と、不釣合いなほどに大きなベッド。しかしその大きなベッドが、健二に男女の営みを強く連想させた。
 どれくらい二人で見詰め合っていただろうか、不意に舞が視線を切るようにして俯いた。小さなリボンが揺れて、舞の頭頂部が健二の視界に入ってくる。

「……舞」
「ひとつだけ約束して欲しいの……」
「約束?」
「そう、お願い、美沙ちゃんにはもう……」

 舞がどうしてそこまで美沙を気にするのか分からなかったが、健二としては舞が手に入れられるのなら美沙に拘る理由はない。だが、素直に舞のお願いを受け入れるには、健二の中の邪な欲望が大きくなり過ぎていた。
 このまま舞を抱くことはできても、舞が別の男のものになっている事実は変えようが無い。だったら、思う存分欲望の限りをぶつけてしまっても構わないだろう。
 そんな黒い欲望のままに、健二は舞の両肩を掴んだ。

「約束するよ。その代わり、好きなようにさせてもらうからな」
「……はい」

 健二が美沙に手を出さないと約束してくれるのなら、舞は自分が何をされても構わなかった。自分以外の誰かが傷つけられる方が余程辛い。
 自分自身への仕打ちならいくらでも耐えられる。感情を押し殺し、偽りの自分を演じることにはもう慣れっこだ。例え相手がよく知った相原健二であっても、必要であれば娼婦を演じきるだけのこと。視線を落としたままの舞の目は、強い決意に満ちていた。

「良かったんですか、これで」
「ああ……」

 別室、舞の部屋を監視するカメラの映像を見つめながら、山部が少しだけ不満気な口調で早田に問いかけていた。
 ホテルでの行為だけでは飽き足らなかった山部としては、これからじっくりと自分自身が舞の体を開発してやるぐらいのつもりでいたのだ。それをいきなり相原健二の相手をさせると言われて、正直なところ早田の考えを図りかねていた。
 
「不満そうだな」
「いえ、別にそういうつもりじゃ……」

 返ってきた早田のあまりに冷たい声に、山部も自分の立場というものを再確認せずにはいられなかった。
 そもそも早田に見出された山部は、早田に逆らうことなどできはしないのだ。今までであれば、不満を漏らすことさえ許されなかっただろう。早田の機嫌を損ねるような真似をすれば、いつ捨てられるとも知れないのだ。
 自分が危うく自分の首を絞めかけていたことに気付いて、山部は背筋が凍るような感覚に陥った。
 そんな山部が思わず不満に思ってしまうほど、山部までもが舞の魅力に魅入られていたとも言えるだろう。

「それより、ちゃんと録画してあるんだろうな」
「それはもちろん、抜かりありません」
「ならいい」

 そう言うと早田は映し出される映像へと集中した。
 早田が舞と健二の行為を撮影して、それをどう使うのかは山部も知っている。そしてその結果、何かが大きく変わるであろうことも薄々と感じっていた。

 健二は舞に唇を差し出させると、躊躇い無くその唇を奪った。その体を抱きしめて唇を重ねていると、喜びと感動が健二の体を満たしていく。
 だが同時に、強い欲望も湧き上がってくる。抱きしめた舞を乱暴に押し倒し、思うままに蹂躙したいと。

「ん、んん……はぁ……相原……君……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「きゃっ」

 もう欲望を抑え切れなくなった健二は、舞の上着へと手を伸ばすと乱暴に脱がせてしまう。そしてあらわになる素肌と下着に、健二の中で何かが弾けた。
 そのままベッドへと舞を押し倒すと、スカートの中へと強引に手を潜り込ませる。突然のことに一瞬だけ驚いたように抵抗した舞だったが、すぐに健二のするがままに身を委ねた。
 欲望を抑え切れなくなった男に抵抗しても無駄なことは、これまでの経験で舞自身が身を持って学んでいたことだ。
 獣欲に火の点いてしまった男は、それを吐き出すまでは止まらない。抵抗すれば帰ってその欲望の炎に油を注ぐことにしかならない。
 だから舞は全く抵抗せず、健二のするがままになっていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 息を荒げながら引き千切るようにしてブラジャーを剥ぎ取り、ストッキングを力任せに引き裂いていく。自分の乱暴な行為によって興奮が高まっているのか、その目は血走っていて怖いくらいだ。
 そして健二は目の前に現れた舞の乳房に視線を奪われ、スカートの中に手を潜り込ませたまま固まってしまっていた。
 だがそれもつかの間、すぐにその乳房へとむしゃぶりついていく。

「あっ……あぁ……」

 乳房に舌を這わせ、乳首を口に含んで吸い上げる。そしてスカートの中へと潜り込ませた手で、ショーツの上から割れ目を指先で擦っていく。
 身に付けているものは股間の部分だけを破られたストッキングとスカート、そしてショーツだけになった舞は、その乱暴な愛撫にも健気に反応しようとしていた。
 健二を拒絶し無反応なままでもいられたが、それは美沙に手を出さないで欲しいという約束を自分から反故にしているようなものだ。獣欲に身を任せて健二を受け入れなければ、健二の手から美沙を守ることはできない。

「ん、んんっ……はぁ、はぁ……うぅんっ……」

 唾液でベトベトなるほど乳房をしゃぶり尽くし、ショーツが食い込むほどに指先で擦り続けられると、舞の体も素直に火照り始めてくる。
 無理して受け入れようとはしなくとも、男に抱かれることに慣れてしまった体が、自然に反応し始めるのだ。
 張りのある柔らかな乳房の上に控えめに乗った乳首は硬く尖り、ふっくらとした大陰唇に挟まれた秘裂の奥で蠢く膣穴からは愛液が染み出してくる。そんな体の反応は健二を喜ばせ、その愛撫をさらに激しくさせていく。

「はぁ、はぁ、あんっ、あっ、あっ……んくっ……」
「ま、舞……」

 愛撫を中断して舞の股間から手を抜いた健二は、もどかしげにズボンのベルトを外す。そして片手で器用に降ろしていくと、舞に覆いかぶさったままズボンを脱ぎ捨てた。
 トランクスの前はまるでテントを張ったかのように膨らみ、先走った液でその膨らみの先端は濡れている。
 それを見た舞は自然に手を伸ばし、トランクスの上から健二の勃起したものを優しく撫でるようにさすった。

「うっ……」

 すると健二は舞の体の上で自分の体の向きを変え、舞の顔を跨ぐようにして覆いかぶさる。そしてその状態でトランクスを降ろし、勃起したものを舞の目の前に突き出す。
 健二が何を求めているのかを知った舞は、先端を濡らしたものを目の前にして、覚悟を決めたかのように目を閉じた。
 そして再び目を開けた時、舞は手を伸ばして健二の勃起したものを両手で握っていた。それは両手で握っても先が余るくらいの大きさまで勃起し、握った手を圧し返そうとするかのように脈打っていた。
 健二は舞が自分のものを握るのを間って、彼女の太股を抱えるようにして股間へと顔を埋めていく。

「んっ……あぁっ……」

 濡れ始めたショーツの上から健二の下が這い、割れ目に沿うようにして擦るように舐めていく。その快感に熱い息を漏らしながら、舞もまた健二の勃起したものへと舌を伸ばしていった。

「ちゅ……れろ、れろ……」

 朝露のように濡れた亀頭へとキスしてから、舌でくすぐるように舐めていく。先端部分はすぐに先走りの液だけではなく、舞の唾液にも濡れて光り始めた。
 舞の舌が這う度に勃起したものはピクピクと震え、更なる刺激を要求するかのように健二は腰を突き出していく。すると舞は躊躇いがちにそれを咥えた。

「あむ……ん、んく……んっ、んっ……」

 首を持ち上げるようにしてしゃぶりながら、口腔内で舌を絡めていく。予想外に巧みなその舌使いに驚きながらも、健二はその唇や舌の感触を堪能しようと身を任せた。もちろん自分が舞の秘裂を下着越しに愛撫することも忘れない。

「んっ、ぢゅるっ、ぢゅっ……」

 健二の愛撫によって次第に高まっていく内なる欲望を感じながら、舞は熱心にフェラチオ奉仕を続ける。口の中に唾液をたっぷりと溜め、舌を絡めながらそれを啜るように音をたててしゃぶると、その快感に健二が思わず腰を引いてしまうほどだ。

「ぢゅるっ、ぢゅっ、ぢゅぅぅぅっ」
「くっ……」

 しかし健二も負けてはいまいと、ショーツの上から舞の秘裂へとしゃぶりつく。下着の生地越しに尖らせた舌を押し込み、硬く尖ったクリトリスを捜して舌を動かす。すると舞は切なげに腰を動かし、甘い吐息を鼻腔から漏らすのだ。

「ぢゅっ、ぢゅぅ……んっ、んふぅっ……」

 そうやって二人は互いの性器を己の唇や舌を駆使して愛撫し、お互いに高まり合っていった。
 暫くすると、健二は舞のショーツの底の生地を指先で押し退けた。下着越しでは物足りなくなったのだろう、今度はあらわになった秘裂へと舌を伸ばしていく。
 いきなり濡れた割れ目を舌で触れられて、その快感に舞が健二のものから口を離してしまう。

「はぅっ……あっ、あぁんっ」
「いやらしく濡れてるな……れろれろ……」
「あっ、あっ……んんっ、うぅんっ……はぁっ」

 まだフードのような包皮に包まれてはいるものの、クリトリスは硬く勃起している。すぐ下の秘裂の奥で息づく膣口からも、絶え間なく愛液が溢れ出し続けている。健二は抑え切れない興奮から、目の前の女性器にむしゃぶりついた。
 唇を押し付け音を立てて吸い、尖ったクリトリスを舌先で弄びながらしゃぶり上げる。その度に舞は切ない喘ぎを漏らしては、腰を淫らにくねらせた。

「あんっ、あっ……だ、だめ……んんっ……や、やぁんっ……!」

 舞の太股を抱えるようにして伸ばした手で、花弁を強引に左右に割り開く。そして現れた桜色の濡れた秘肉へと、健二は舌先を伸ばしていった。
 まずは舌先で陰唇の間をなぞるように刺激し、そのまま舌先で膣口の周辺をくすぐるように愛撫する。そしてその刺激で溢れ出した愛液を舌先ですくい取り、今度はその尖らせた舌先を膣口へと潜り込ませる。

「やっ、あぁんっ、あっ……し、舌が……きゃぅんっ!」

 健二は舌先を膣口から潜り込ませると、そのまま尖らせた舌で舞を犯していく。
 ぴったりと唇を押し付けるように吸い付き、舌を思い切り深くまで押し込んで膣内を描き回すと、舞は完全にその快感に夢中になってしまった。

「あっ、あっ……い、いいっ、いいのっ……だめ……感じちゃうっ……!」

 気が付くと両手で自分の乳房を揉みながら、腰を浮かせて健二の愛撫を求めてしまっている。そんな自分に呆れながらも、舞は高まる欲望を抑えることができなかった。
 ほぼ毎日のように男達に抱かれるなかで、心よりも先に体の方がその日常に馴染んでしまった。特に山部とは相性の良さもあってか、そのセックスに溺れてしまうことも度々ある。今日などは初めてお尻での快感までも教えられてしまった。
 早田や山部に全てを捧げたつもりはないが、少なくとも体は快感によって餌付けされてしまったも同然だ。
 以前ならそんな体になってしまった自分を悲しんだかもしれないが、今の舞にとってそれはもうどうでもいいことだった。
 桜木家そのものを抑えられてしまっている以上、どう足掻いた所で逃れられる術は無い。この状況から抜け出せないのであれば、せめて肉体の快感だけでも受け入れてしまわなければ、耐え難い恥辱の日々に心まで折れてしまうだろう。
 心さえ折れてしまわなければ、こんな日々でも耐えられるような気がしていた。ただ、耐えられたところで何があるのか分からなかったが。

「んんっ、んっ、んっ、あぁんっ!」

 健二の舌に犯されながら、舞は健二の唾液に濡れた乳房を乱暴に揉みしだく。柔らかな膨らみは舞のしなやかな指先によって形を変えるが、その瑞々しい弾力で震えるようにしてすぐに元通りの形になる。
 ツンと上を向いたお椀形の綺麗な乳房の頂点には、同じように健二の唾液に濡れた乳首が控えめに自己主張していた。
 その乳首を両手で摘み上げながら、指の腹で転がすように弄ぶ。それは最近覚えてしまったひとり遊びのときに見せる指使いだ。

「あっ、あっ、あっ……んんっ、くぅっ……はぁ、はぁ、はぁ……はぅっ!」

 健二の猛烈な愛撫によって、舞はもう絶頂寸前にまで高まっている。本当はもう愛撫ではなく、男性自身が欲しいと思っていた。しかし、相手が山部ならいざ知らず、よく知った相手である健二では舞もそうとは言い出せない。
 恥かしさと肉欲の狭間で揺れながら、舞はその快感に喘ぎ続けた。

「はぁぁ……んっ、んんっ……あんっ、あんっ、あっ……くぅんっ……!」

 膣内から溢れる愛液の量は加速度的に増し、溢れ出す度に健二はそれを啜るようにして飲み込んでいく。
 自分の股間から響く淫らな音に刺激されて、舞は自分の頭の奥が痺れていくような感覚を味わっていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、んっ……んくっ……はぅんっ!」

 そして健二の舌がより深く潜り込んだ瞬間、舞は口元を押さえて震えるように小さく達してしまった。

「んんっ……!」

 するとようやく健二が舞の股間から顔を上げた。その口元は自分の唾液と舞の愛液に濡れて、何本か恥毛まで付着している。

「はぁ、はぁ、はぁ……イッたな……」
「はぁー……はぁー……はい……」

 恥かしさを堪えながら、舞は健二のひとり言のような問いかけに対して素直に頷いた。
 健二はベッドの上で体を起こすと、口元を拭って再び舞の体へと覆いかぶさる。今度は最初と同じように、舞と同じ向きで。
 そして舞のスカートを脱がしてしまうと、愛撫していた時と同じようにショーツの底の生地を横にずらして挿入した。

「んくっ……はぁっ……」

 舌での愛撫で充分に蕩けていた膣穴は、健二の勃起したものを易々と咥え込んでいく。健二は根元までしっかりと挿入してしまうと、休む間もなく動き始める。
 破れかけたストッキングを穿いたままの両脚を抱えるようにして、一定のリズムを刻んで腰を打ち付けていく。単調ではあるが若さに溢れた力強い抽送は、舞が始めて体感するものだった。
 黒川のように丁寧ではなく、山部のように執拗でもない。若い欲望に満ちた力強い抽送に、舞の両脚は大きく開いて健二を受け入れていく。

「あんっ、あんっ、あんっ……」

 瑞々しい胸の膨らみを揺らしながら、健二の抽送に合わせて舞の口から喘ぎが漏れる。舌を覗かせて可愛らしく喘ぐその唇に引き寄せられ、健二は顔を近づけていった。
 健二の唇が舞の唇へと軽く触れ、そのまま再び距離を開ける。すると喘ぎながら舞は舌を突き出し、健二の舌と唇を求めた。

「んっ……んちゅ、ちゅ、んく……」

 舌を絡め合っていると、その舌を伝って健二の唾液が舞の口腔へと流れ落ちてくる。舞はそれを躊躇わずに飲み下し、自分から健二の舌をしゃぶっていった。

「ちゅる、ちゅ、ちゅぅ……れろ、れろ、れろぉ……んふぅ……はぁ」
「ふぅ……舞……舞っ……」

 相原建設の跡継ぎとして、何不自由のない生活を続けてきた。桜木家とは家族ぐるみでの付き合いがあり、いずれは舞とも婚約できると思い込んでいた。いや、事実そうなっていたはずなのだ。
 他の女との関係も卒業までには清算するつもりだったし、健二にとっての本命はあくまでも舞だった。
 そして桜木家の破綻から一度は諦めた舞が、こうして自分の体の下で喘いでいる。その事実に健二は充足感と優越感を味わいながら、舞の極上ともいえる体を思う存分に味わっていた。
 これまでに抱いたどの女よりも膣内は狭く、激しく締め付けてくる。それでいて愛液の量は潤沢で、スムーズに出し入れできるのだ。そして天井付近にはザラついた感触があり、抜き差しの度に勃起したものをそれが刺激してくる。

「んっ、んっ……あぁっ、いいっ……気持ちいいのっ……」

 舞も大きく広がった亀頭に膣内を擦られて、充分な快感に満たされていた。
 健二のひと突きごとに快感は高まり、膣内を突き上げてくる快感に腰が震えだしそうになる。舌での愛撫で小さく達していた体は、いよいよ激しい絶頂を迎えようとしていた。

「うぅんっ……あっ、あんっ……あ、相原……くんっ……私……私もうっ……!」
「イキそうなんだな、舞……またイクんだなっ……!」
「そ、そうです……イキそう、イキそうなのっ!」

 舞は健二の背中へと腕を回し、首を持ち上げてその胸元へと顔を埋めて叫んだ。強い絶頂を求めて、健二の更なる抽送を求める。
 すると健二は舞の背中を抱くようにして、そのまま舞の体を持ち上げた。そして胡坐をかくようにして座ると、その膝の上に小柄な舞の体を乗せてしまう。すると抱き合ったまま繋がる格好になり、舞の乳房が健二の胸板へと押し付けられた。

「なら、舞も自分で動くんだ」
「相原くん……ん……んちゅ……」

 目の前の健二へと唇を重ねながら、舞はゆっくりと自分から腰を上下させ始めた。もちろん健二もそれに合わせて、下から突き上げるようにして舞を貫いていく。

「ちゅ、ちゅぱ……んふぅ……はぁ……んんっ、んっ……!」

 胸を押し付けたまま動くことで乳首が擦れ、それもまた舞の快感を高める手伝いをする。
 激しく貫かれる快感は無かったが、それでも充分に舞を絶頂へと導いていく。それに自分が上になっているせいで、より深い部分まで突かれてしまうのだ。それまでは届かなかった子宮口まで先端で刺激され、舞は腰が蕩けるような快感に乱れていった。

「あ、あぁっ……相原くん、相原くんっ……イク、イッちゃうよっ」

 健二の体にしがみ付き、今にも絶頂に昇りつめてしまいそうな切なげな声を漏らす舞。そして健二も舞の膣内の締め付けの強さに、射精の瞬間を間近にしていた。
 勃起した男性器は膣内でその大きさを更に増して、舞に射精が近いことを知らせている。健二の射精が近いことを知った舞はその瞬間を想像して、得られるであろう快感に恍惚となりながら、淫らに腰を振って健二のものを膣壁で擦り上げていった。

「ま、舞……俺もっ」
「いいよっ、出していいよっ……私の膣内に出してっ」
「くっ……」

 舞は健二の首に抱きついて、その耳元で膣内への射精をねだる。その甘い誘いを拒めるはずもなく、健二は情けない声を漏らしながら舞の膣内へと射精した。

「あぁっ……で、出るぅっ」

 勢いよく噴出す精液が舞の子宮口を打ち付ける。熱い精液に膣内を満たされる快感に震えながら、舞も絶頂へと昇りつめていった。

「あぁっ、イ……イクッ、イッちゃうっ……んっ……んんっ……!」

 腰からお腹にかけてを波打つように震えさせながら、舞はつま先をピンと伸ばすようにして大きく仰け反った。
 白い喉があらわになり、柔らかな髪が大きく揺れる。
 そして絶頂の余韻の中での荒い呼吸に上下する胸は、健二の胸元で押し潰されて形を変えていた。

「はぁー……はぁー……はぁー……」
「はぁ……はぁ……ま、舞……」

 舞を膝の上で抱きしめたまま、健二は舞の唇を求めて頭を撫でる。舞は緩慢な動作で健二の求めに応じ、深く唇を重ねていった。

「あむ……ん、んちゅ……ん……んん……」

 普段相手にしている連中より遥かに若い健二は、そのキスだけで再び舞の膣内で力を取り戻し始める。

「ん、んふぅ……はぁ……相原くん……」
「一度ぐらいで終わると思うなよ」
「……はい」

「はは、元気な若造だな」

 その様子を見つめていた山部が、自分のことを棚に上げてそんな感想を漏らした。
 そして同じく映像を見ていた早田は立ち上がり、その山部へと新たな指示を出す。

「手はず通り、美沙と相原社長を迎えに行ってこい」
「分かりました」

 本当なら健二ではなく山部が相手をしているはずなのだが、それ以外は全て予め段取りを決めてあったことだ。
 全ては舞の心を手折り、黒川哲哉に現実を受け入れさせるために。

<つづく>

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