「同級生」 桜木 舞

---螺鈿細工の月--- 第八話

同級生より。

 相変わらず笑顔の奥に翳りを見せる舞を、美沙は放課後の屋上へと連れ出した。
「私で良ければ相談に乗るからさ……ね、舞」
「うん……ありがとう…」
 しかし、どれだけ美沙が苦心して舞の心を開かせようとしても、舞は何も口にしようとはしなかった。
 いや、出来なかったと言うべきか。
 これが黒川の手に落ちた直後であれば、そのあまりの辛さに舞も美沙に何らかの形で打ち明けたかもしれなかったが、今の舞は心のどこかで黒川の事を受け入れ始めている。
 それは単に現実逃避であったのかもしれない。黒川を愛していると思い込む事によって、抱かれる事も「愛し合う行為」となる。
 最初は思い込みだった感情も、ありのままの自分を受け入れようと言う黒川に、舞は次第に本心から惹かれ始めていたのかもしれない。
 もう既に、黒川に対する自分の感情が本物なのか偽りの物なのか。舞自身にも解らない程に混濁していた。

 フェンス越しに校庭を眺めながら、二人の美少女は黙って並んでいる。
 舞の沈んだ横顔を視線の端で捕らえながら、美沙は込み上げる衝動を必死に押さえ込んでいた。
(舞……)
 できる事なら無理やりにでも聞き出して、舞の笑顔を取り戻してあげたい。
 だが、舞はそんな事を望まないだろうとも解っていた。
 そして突然、美沙の視界の端で舞の表情が強張った。
(……舞?)
 舞の視線の先。校庭の更に向こうには、黒塗りの車が停車していた。
 そして車から男が一人、運転手らしい男が開いたドアから降り立ち、正門から校庭を横切って校舎へと向かい歩き出していた。
「……どうして………」
 舞が漏らした小さな呟きを美沙は聞き逃さなかった。
「どうしたの?」
 しかし、美沙の問い掛けに答える事無く、舞は突然駆け出してしまった。
 慌てて美沙も舞を追って屋上を後にする。
「舞!、舞ってば!」
 背中に投げつけられる美沙の声を無視して、舞は勢い良く階段を降りていき、丁度、校舎に入ってきた黒川と鉢合わせになった。
「舞」
「ど、どうして…ここに…」
 二人が視線を交し合い、それを美沙が背後から見つめる中、新たな声が三人へと投げかけられた。
「黒川さん」



「え……校長先生……?」
 美沙が驚きの声を上げる。舞も同じく驚きの表情で見つめているが、校長は気にせずに黒川へと歩み寄る。
「この度は本当にありがとうございました」
「いえ…………桜木さんの通っている学校ですから」
 いったいどういう事なのか理解できないといった表情の舞と美沙。
 校長は二人を無視して更に言葉を続けた。
「いやしかし、黒川さんが桜木君の婚約者でしたとは。驚きましたよ」
「!!!」
「そ、そんなっ……!」
 意外な校長の言葉に、思わず声を上げてしまう舞。美沙は驚きに言葉を無くしてしまった。
 そして校長は、饒舌に黒川との関係を語り始めた。

 黒川は学園に多額の寄付をし、そして自分の身分を舞の婚約者と名乗っていたのだ。
 舞の知らないうちに黒川は校長と親密な関係になり、黒川が学園に訪れれば、こうして校長自らが出迎える程になっていた。

「それで黒川さん、今日はどういった?」
「いえ…少し桜木さんの様子を見に寄っただけですから」
「ほう、そうでしたか…それでは、桜木君に学園内でも案内してもらっては?」
 校長は意味ありげな笑みを黒川に見せながら言った。
「そうですね。よろしいですか?」
 校長の言葉を受けた黒川の言葉に、舞はただ黙って頷き返すだけだった。

「舞……」
「ごめんね美沙……」
 そう言う舞の表情は、暗に美沙に帰って欲しいと言っていた。
「………うん」
 美沙も舞の気持ちを理解してはいたが、黒川や校長の態度に憤りを覚えてもいた。
 舞の笑顔の翳りの原因が、この黒川という男にあるのは明白であったから。
 鋭い視線で黒川を睨み付け、美沙はその場から離れていく。
(ふん……生意気な目をした娘だ)
 この事が後々に自分自身を追い詰めるとは、今の美沙には気付きようも無いことであった。



 傾いた朱色の夕日が照らし出す無人の教室。
 沈黙が支配する空間で、黒川は舞を背後から抱き締めていた。
「どうして……婚約者だなんて……」
 黒川の腕から逃れようとはしなかったが、それでも身体を強張らせながら、同じく強張った声音で舞は呟く。
「いけませんか?……私は舞を愛してるんですよ」
「………」
 愛しているという言葉に、次の言葉を失ってしまう舞。
「舞の全てを手に入れたい。舞の存在する空間の全てに…私の存在を記しておきたい」
「……だからって…学校にまで…」
 自分に残されていた最後の自由な空間を奪われた気がして、舞は黒川に対して微かな怒りを覚えていた。
 しかし、それも黒川に囁かれているうちに、次第に霧散していってしまう。
「愛しているから…全てを奪い、拘束したくなる…」
 黒川の手が制服の胸元へと伸び、生地越しに柔らかな乳房をそっと揉み始める。
「ん………」
 舞は微かに身をくねらせて逃れようとしたが、黒川の腕がそれを許さない。
 背後から抱き締めていた黒川の手が、スカートの裾を捲くり上げて潜り込み、押さえようとする舞の手を振り切ってショーツへと達する。
 ショーツの上から軽く秘所を擦り上げられると、瞬く間に舞の両足から力が抜けていくのが明かだった。
「あぁ……嫌……」
 抵抗の声も弱々しく、細く長い睫毛は小刻みに震えていた。
 耳元から首筋にかけて唇を這わせながら、黒川は指先を小刻みに動かして舞を刺激していく。
 ショーツの上から秘肉の形に合わせて指先を滑らせ、まだ包皮に包まれているクリトリスを転がすように愛撫する。
 黒川の唇も舌も掌も指先も、舞の身体の弱い部分、敏感な部分を知り尽くしていた。
 背後から抱きすくめられ、巧みな愛撫によって舞の肉体は目を覚ます。
 秘唇とクリトリスは熱く充血して感度を増し、膣内からは粘性のある蜜が零れ始める。
「あ……駄目……そんなっ……くぅっ……」
 理性の全てを動員させても、肉体の目覚めを止める事は出来ない。黒川の手によって育まれた、舞の中に眠る獣がゆっくりと目覚めていく。
「素直に…ただ感じれば良いんですよ…舞」
 耳朶を甘噛みしながら、そう囁く黒川。
「こ、こんな場所じゃ……嫌です……はぅっ…!」
 そんな舞の言葉を無視して、黒川はショーツの薄い生地越しに指先でクリトリスを弄び、舞の首筋に唇を雨のように降らせた。
 どれだけ否定の言葉を並べてみても、舞の肉体は黒川の愛撫に敏感に反応している。
 溺れる程の快感を与えれば、今の舞はそれに逆らう事はできないのだ。
 その証拠に、黒川の手を受け入れるかのように両足は小さく開かれ、背後の黒川に体重を預けてしまっている。
(逆らえない……私の身体はもう………)
 無意識のうちの動きだったが、舞も自覚はしていた。
 自分の身体が、心の奥底の何かが黒川から与えられる快楽を望んでいる事を。



「そろそろ…欲しいんじゃないのですか?」
 染み出した愛液に濡れた指先を舞の眼前で広げて見せる黒川。
 舞は耳元まで羞恥で赤く染めながら、黙って小さく頷き返す。
「たっぷりと可愛がってあげようね…」
 
 両腕から解放し、舞に机に手を着くように命じると、黒川は舞のスカートを腰まで捲り上げた。
 白く滑らかで美しい肌の太股と、飾り気の少ないピンクとホワイトのストライプのショーツが露になる。
 既に中心に染みが広がり始めているショーツのサイドに指をかけると、ゆっくりと太股の中程辺りまで降ろしていく。
 まだ閉じられた舞の秘唇の間から、粘り気のある蜜がトロリと零れ落ち、ショーツへと糸を引くように流れた。
「こんなに濡らして……いやらしい娘ですね……舞」
 黒川の言葉に舞は羞恥に首筋まで赤く染めるが、それでも心の何処かで期待に胸を膨らませていた。
 微かに蠢く秘唇を指先で割り開き、零れ落ちる愛液を指先ですくい取ると、黒川はその指先を膣内へと潜り込ませる。
「んっ………」
 舞の背中が小さく跳ねる。黒川の指先を締め付ける、温かく湿った舞の膣内。
 中の襞の感触を指先で確かめつつ、ゆっくりと指を出し入れさせると、溢れ出る愛液の量が一気に増えた。
 太股まで滴る程の量の愛液を分泌させながら、黒川の指の動きにお尻を震わせて悶える舞。
 微かに開かれた口元からは次第に甘い吐息が漏れ始め、切なげに眉を寄せるその表情は、どう見ても歓びに満ちていた。
「はぁ……んふぅ……んぁっ……!」
 黒川は指で舞の膣内を犯しながら、手を伸ばして制服の上着の裾から潜り込ませる。そして掌を下着の中に潜り込ませると、荒々しく揉みほぐした。
「あっ、あっ、あっ、はんっ!、んくぅ……あっ、あぁっ!、やっ…すご…いっ……!!」
 愛液が飛び散る程の勢いで指を出し入れされながら、同時に乳房と突起を弄ばれ、舞はその快感に乱れ悶える。
 机にしがみ付きながら甘い喘ぎを漏らし、力の抜けていく両膝をガクガクと震わせる。
(狂っちゃうよぉっ……もう駄目っ……イク………っ!!)
 舞が全身を震わせながら達しようとした瞬間、黒川は舞の膣内から指を抜き取った。
 達する直前まで昇りつめていた舞は、思わず切なげな表情で黒川へと振り返る。
「あ………あの…………」
 薄っすらと笑みを浮かべて見つめている黒川に、舞は視線を泳がせながら言葉にならない声を発する。
 喉まで出かかった言葉を口に出せずに、再び飲み込んでは瞳の端に浮かんだ涙の量を増やしていく。
「欲しいですか?」
 黒川が救いの手を差し伸べる。いや、誘導していると言った方が正しいか。
 高まった欲望に突き動かされるように、切羽詰った表情で舞はその言葉に縋りついた。
「く……くだ……さい……」
 満足げな笑みを浮かべながら頷き、黒川は手早く自らのズボンを降ろした。



 机に手をついて待つ舞の背後に立ち、愛液を滴らせている秘所へと狙いを定める。
「…入れますよ」
 舞の腰を両手で抱え込むように押さえ、黒川はゆっくりと腰を進めていく。
 膣内に溜まっていた愛液を押し出すようにして、黒川の物は着実に舞の膣内へと収まっていった。
「んんんっ……!!」
 恥辱的な体位で犯される事の歓び。想像してもいなかった自分の性癖が、確かにそこに有った。
 誰も居ない放課後の教室。制服を着たまま背後から犯される。そして、それを受け入れている自分。それら全てが舞を高める要因となっている。
(これが…私なんだ……)
 奈落の底へと落とされたような衝撃を受けながらも、身体は挿入の快感に震えて喜んでいる。
 重なり合うことの無い、その二つへの戸惑いは、何度も抱かれた今となっても消える事が無い。
 

「あっ、あっ、あっ、あっ、あぁぁっ!!」
 背後から激しく抽送を送り込まれ、その身を前後に揺らしながら喘ぎ乱れる舞。
 初めての後背位は、舞に想像以上の快感を与えるものだった。
 獣のように犯されている自分の姿を想像し、その羞恥心を煽られる光景に舞の心も身体も普段以上に反応してしまう。
(何…この感じ………いつもより…感じるっ……!!)
 頭の奥まで痺れるような快感が断続的に襲いかかり、舞は呆気なく絶頂へと達してしまう。
「あぁっ!、イクっ!、イっちゃうっ……!!」
 膣内を激しく擦り上げられながら、手を着いていた机に突っ伏して身体を震わせる。
 しかし黒川の抽送が終わった訳ではなく、そのままの態勢で更に激しく抽送は続く。
 両手でしっかりと舞の腰を抱え込み、腰を打ち付けるようにして激しく舞を貫く黒川。
 繋がった部分から愛液の飛沫が飛び散るのと同時に、濡れた粘膜の擦れる音が無人の教室内に響き渡る。
 捲り上げた制服のスカートも艶かしく揺れ、滴った愛液は床まで零れ落ちていた。
「んんんーーっ!!、あっ、駄目ぇっ……!!」
 立て続けに舞へと襲いかかる絶頂感。そのあまりの激しさに我を忘れて叫びながら、舞は何度も何度も達し続けた。
「あぁんっ!、イクっ…またイっちゃうのぉっ…!!、駄目っ!、イクっ!、イクイクっ!!」
 口元からは涎が雫となって机へと零れ落ち、その表情は恍惚の色に染まっている。
「やぁ……もう…イカさないでぇ……あっ、ああぁっ!!、駄目駄目ぇっ!!」
 狂いそうな程の快感に襲われ、思わず口をついた言葉。しかし、それでも膣内は激しく蠢いて黒川の物を締め付け、更なる快感を求めて腰は自然に動いてしまう。
 淫らな一匹の雌と化し、貪欲に快感を求めてしまう舞。その姿を、淫らで美しいと感じながら黒川は見つめていた。
(もっと貪欲になれ…我を忘れて俺を求めろ……俺だけがお前の主だ……!)
 舞の身体を手に入れ、そして心の全てを望む。
 それが手に入ったとしても、黒川は満足する事が無いだろう。彼の心の闇はどこまでも深く限りが無い。
「ひっ、あっ、あっ、あぅんっ!!、イクよぉっ!、またイっちゃうよぉっ…!!」
 連続して絶頂の波が押し寄せる、俗に言う「イキっぱなし」の状態で舞は狂ったように頭を振って悶え続ける。
 そして黒川の絶頂も近づきつつあった。
 激しく蠢きながら絡みつき、そして締め付けてくる舞の膣内に、よくここまで持ったとも言えただろう。
 絶頂時の舞の膣内の感触というのは、経験の浅い男であれば、入れた瞬間に達してしまう程に刺激的なのだ。
「さあ舞…出すよ……っ」
「もう駄目ぇっ!!、来てっ!!……あっ、あああっ!、イっちゃうーーーっ!!!」
 舞の腰を強く引き寄せ、黒川は躊躇う事無く舞の膣内へと射精していた。
 流し込まれる大量の熱い体液に、舞は全身を震わせて歓喜の涙を流す。
「ひぃんっ……んっ……んぁ………」
「ふう……」
 腰を引き、自分の精液と舞の愛液の混ざり合った萎えた物を抜き出し、そのまま崩れるように背後の椅子に腰を下ろした。
 机の上に体を預けるように突っ伏した舞の露になった股間からは、たった今放ったばかりの黒川の精液が溢れ出していた。



 絶頂の余韻に震える舞と、それを見つめる黒川。
 ゆっくりと新たな歯車が動き始める。
 黒川の新たな欲望の歯車が……

第一章 終劇

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