「同級生」 桜木 舞

---螺鈿細工の月--- 第六話

同級生より。

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1.窓
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 激しく黒川と愛し合った日の翌朝。
 舞は黒川のベッドの上で目を覚ました。
 微かに残っていたアルコールが消えていく代わりに、昨夜の情事が鮮明な記憶となって甦っていた。
「あ………あぁ………」
 顔面は血の気を失って蒼白となり、身体が小刻みに震える。
(私……どうして………)
 戸惑いと深い後悔。
 しかし過去を消す事などできないのだ。黒川と愛し合った事実は変わらない。
 けして受け入れられるはずの無い相手を受け入れてしまい、自ら求めるような動きをしてしまった昨夜。
 記憶と共に甦る快感の残り香も舞を苦しめた。
 そして舞は寝息を立てる黒川を残し、静かにベッドを抜け出してシャワールームへと向かった。

 ザーーー………

 瞼を閉じて熱い湯の飛沫を全身に浴びる。まるで全てを洗い流すかのように。
「……………」
 飛沫の下で頭を振り、昨夜の出来事を振り払おうとするが、それは脳裏にこびり付いて離れない。
 自ら黒川の唇を求めて舌を絡ませ、淫らに腰を動かした現実。
 それらは振り払おうとすればする程、その鮮明さを増していくかのように思えた。
(所詮……私は女……という事……?)
 昨夜の事は全て覚えている。黒川の言葉の一つ一つ、黒川の細やかな手の動き、そして温もり。
 満たされた気がしたのも事実なのだ。
(受け入れてしまえば………楽になれるの………?)
 身体に残った黒川の唇の痕を指先でなぞりながら、舞は自らの心に問い掛ける。
 しかし、その問い掛けに対する答えは帰ってはこなかった。

 浴室から出ると大き目のタオルで髪を拭き、それを身体に巻き付けてリビングへ歩き出す。
 黒川はまだ目覚めてはおらず、舞は一人静かにリビングを通りすぎ、自分の部屋へと向かった。
 学校の支度を始めるには、まだ少し時間がある。
 舞は着替えを終えると、カーテンと窓を空けて部屋の空気を入れ替える。
 澄んだ朝の空気は、普段と変わりなく舞の頬を撫でた。

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2.揺らぐ気持ち
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 学校までの送りの車中。舞は普段と変わらない自分を演じていた。
 黒川とも一言も口を利かず、ただぼんやりと窓の外を眺め続ける。
 黒川も特に何も言葉を発しなかったが、車が正門の前に着いた時、ようやく口を開いた。
「お気をつけて」
「…………はい」
 車から降りると生徒達の視線が集中したが、もう慣れた事だった。
 また普段と変わらない一日が始まる。

 しかし、授業中も舞の頭からは黒川の事が、彼の言葉が離れなかった。
(私は演じている……)
 自分が黒川に身体を差し出したのは桜木家の為。
 父にとって、桜木家にとって良い娘であり続ける為の唯一の選択。
 けして望んで黒川に抱かれている訳では無いはずなのに、その行為によって少なからず快感を得、昨夜は遂に自らも求めてしまった。
 自分でも自分の気持ちが理解できず、舞は終わりの無い迷宮へと入り込んでしまったような気がした。
(楽に……なれるのかな……本当に……)
 黒川の言葉に揺らぐ舞の心。
 それが正しい手段で無い事は解っていた。
 しかしそれでも今の精神的重圧から開放されるのなら、例え逃げる行為であったとしても、全てを受け入れて楽になりたいと思う気持ちが湧き上がってくる。
(どうしたら…いいの………)
 気がつけば全ての授業の終わりを告げる鐘が響いていた。

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3.覚悟
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 いつもの様に食事を終え、珍しく舞が用意した珈琲を口にしながら、二人はリビングで向き合う。
 重苦しい空気がその空間を包み込むが、黒川は気にした様子も見せなかった。
 先に耐えかねたのは舞。
 重苦しい空気を払いのけるように、その口をゆっくりと開いた。
「本当に……楽になれるんでしょうか……」
 独り言にも似た問い掛け。
 暫しの沈黙の後、黒川は珈琲の入ったカップを手に呟くように答えた。
「貴女次第ですよ…舞お嬢様」
 意識して「お嬢様」の部分を強調して言う黒川。
 その意味を舞は正確に理解していた。
 黒川の言葉に対し、何かを訴えかけるような瞳で見つめ返す舞。
 口元だけの笑みでそれを受け止め、カップをテーブルの上に置くと、黒川は立ち上がって舞の背後へと立つ。
 そして椅子に座った舞を背後から手を伸ばして抱き締め、耳朶をくすぐるように耳元で囁いた。
「明日は休みです……時間はたっぷりとある……」
 指先で舞の頤を摘み上げて顔を向けさせると、黒川は唇を重ねていった。

「先にシャワーを…」
 舞の衣服へと手をかけた黒川に、恥ずかしげに舞が言った。
「なら…一緒に入りましょう」
 戸惑いに視線を泳がせる舞だったが、黒川に促されるままに浴室へと足を向けてしまう。
 黒川の言葉に秘められた力に操られてしまったかのように、今なら何を言われても逆らえない気がする舞。
 それが黒川を受け入れ始めた結果なのか、それ以外の何かが変わっていく過程なのかは、今はまだ解らなかった。
 舞の目の前で手早く衣類を脱ぎ捨てると、「先に入っていますよ」と告げて黒川は浴室へと入って行く。
 灯りの下で黒川に全てを見せるのは恥ずかしかったが、今更後戻りできるはずもなく、舞は覚悟を決めてスカートのホックへと手を伸ばした。

 片手で前を隠して浴室の扉を開くと、黒川は全身にシャワーの湯を浴びているところだった。
「そこへ座って」
 言われるがままに腰を下ろし、舞は恥ずかしげに身を縮める。
 黒川はシャワーの湯を止めると、ボディーソープのボトルを手にして舞の背後へと廻る。
「洗ってさしあげますよ…」
 そう言って手にボディーソープを取り、手の中で泡立てる黒川。
 その手が舞の脇の下を通って胸へと伸びる。
「あ………」
 泡立てたボディーソープを舞の乳房へと塗り付け、手の平全体で大きく揉みほぐし始めた。
 黒川の手の中で形を変える、張りと弾力の有る舞の乳房。
 その感触は何度味わっても色褪せることは無く、正面にある鏡に映る乳房を眺めながら、黒川は繰り返し揉みほぐした。
 柔らかで乳房に指先を食い込ませるかのように激しく揉みつつ、先端の突起も指先で摘むようにして弄んだ。
 指先で繰り返し弄ばれ続けるうちに、それは次第に固く尖っていく。
「あっ……ん……」
 舞の頬はほんのりと赤く染まり始め、背後の黒川に背中を預けるようにして甘い吐息を漏らし始めていた。
(身体が…熱い……)

 黒川の掌は舞の身体の上を滑り、身体の隅々までに泡立った液体を塗りこんでいく。
「脚を開いて…」
 太股の上を撫でるように手を動かしながら、背後から黒川が囁く。
 そして言葉に従うかのように、舞の両脚がゆっくりと開いていった。
 黒川は満足げに頷くと、太股を撫でていた手を進め、掌で淡い恥毛を撫で上げる。
 そしてまだ閉じられたままの舞の秘唇へと、泡立った指先を伸ばしていった。
「んぁっ………はぁんっ……」
 襞の間を擦るように指を動かしながら、乳房を大きく揉みほぐす。
 そして尖った乳首を指先で摘み上げると、舞の全身からは完全に力が抜けていった。

 背後の黒川に完全に身体を預け、身体の上を這う黒川の手に震える舞。
 黒川の手は巧みに動いて快感を紡ぎ出し、舞を乱れさせていく。
「あっ……やっ……はぁ……んんっ……!」
 全身を泡に包んだ舞が、自分の股間へと伸びている黒川の手を押さえる。
 黒川の指先は包皮から顔を覗かせているクリトリスを弄んでおり、その激しい刺激に耐えかねたのだろう。
「そこは………感じ過ぎちゃう………」
 その言葉は逆に黒川を刺激した。
 包皮を剥き上げてクリトリスを露にすると、泡立った液体を塗りつけて指先で摘み上げる。
「ひゃうんっ…!!、だ…だめぇ……あっ、あくぅっ…んはぁっ…!!」
 激しすぎる快感が全身を駆け抜け、舞は激しく頭を振る。
 そして一気に絶頂へと達した。
「駄目っ…やぁっ……イっちゃ……んぁぁぁっ!!」
 黒川の腕の中で、舞は小刻みに震えながら達した。

 ようやく黒川は舞を解放し、シャワーで全身の泡を洗い流してやる。
 湯の為か別の理由からか、舞の肌は全身が桜色に染まり、鼻腔をくすぐる甘い香りを放っていた。

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4.重ねて
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「おいで…」
 湯を張った大きめの湯船へと全身を沈めて、黒川は荒い吐息の舞を待つ。
 舞は黒川に促され、恥ずかしげに湯船へと入っていった。
 黒川の膝に乗るようにして湯に入り、黒川の胸板に手を添えて身体を支える。
 隆々とそそり立った物が腹部に当たり、その感触に舞は頬を染めた。
「入れますよ」
 そう囁くと、黒川は舞のお尻へと手を伸ばし、湯の浮力を利用して持ち上げると、湯船の中で下から挿入した。
「ふぁぁぁっ………!」
 黒川の首に両手を廻してしがみ付き、甘い叫びを漏らしながら挿入の快感に震える舞。
 先程の絶頂の余韻が残っていたのだろう、挿入されただけで舞は軽く達してしまったようだ。
 背中からお尻にかけてを撫でながら、黒川は舞が落ちつくのを待つ。
「はぁ……はぁ………ん……」
 痺れるようか快感の波から覚めた舞は、顔を上げて潤んだ瞳で黒川を見つめ、自分から唇を重ねていった。

 湯の中で軽くなった舞の身体を抱き締めるようにして持ち上げ、勢いを付けて貫く。
 弾力の有る乳房が揺れ、先端の突起は黒川の胸板で擦れる。
「あっ、やっ、はぁっ、んんっ!、凄いっ……駄目っ…!」
 自らも微妙に腰を動かして快感を貪りながら、舞は何度も何度も黒川の唇を求めた。
 可愛らしい舌で黒川の舌を求めて激しく絡ませ、揺れる乳房を黒川の胸板に押し付けるようにして抱きつく。
 満足げな表情でそんな舞の唇を受け止め、優しく抱き締める黒川。
 比較的大きめな湯船の中で、二人は激しく互いを求め合い続けた。

「はぁっ…あぁんっ……んくぅっ……はぅんっ…!」
 我慢できないといった様子で、舞は黒川に身体を密着させて黒川の動きに合わせて腰を動かす。
 黒川の物によって深く貫かれる度に、激しい快感が舞の全身を駆け抜ける。
 それを伝えるかのように何度も何度も自ら唇を重ねては、潤んだ瞳で黒川を見つめる。
 舞の膣内は淫らで複雑な動きで黒川の物を締め付け、気を許せば射精してしまいそうな程の快感に黒川は絶えつづけた。
 舞は全身の全てで黒川を求め、得られた快感に素直に反応して甘い声を浴室に響かせる。
「んんっ…あっ、あっ、あぁっ!!」
 黒川へとしがみ付いた舞の手に力が入る。
 激しい快感の嵐に涙まで流しながら、それでも舞は新たな快感を求め続けた。
 黒川もそれに応えて激しい抽送を繰り返し、舞の激しい締め付けに耐え続けた。
 しかしそれも終わりの時がやって来る。
「もう駄目です……んっ……私……私っ………」
 鼻にかかった甘い声で囁くように告げる舞。
 黒川の物を締め付ける膣内の動きも、同じようにそれを告げていた。
「イキそうなんですね」
 コクンと小さく頷き返し、頬を真っ赤に染める舞。
 黒川は両手で舞のお尻を抱えると、一気に抽送を加速させた。
 湯船の中で激しく出入りする黒川の物。それを淫らに受け止める舞の秘唇からは蜜が溢れ、お湯に溶けて交じり合っていった。
「やぁっ、凄いっ……激しすぎるっ……!、駄目っ…あぁんっ!、もう……もうっ………!」
 舞の指先が黒川の背中に爪痕を残すようにして食い込む。
 そして次の瞬間。舞の膣内が細かく痙攣するように震え、反響する浴室の中に甘い叫びを響かせて達した。
「はぁっ…………!!、…………イ……イクっ………!!!」
 舞の絶頂を確認して、ようやく黒川も耐える事を止めた。
 勢い良く舞の膣内へと黒川の精液が流れ込んでいく。
 そして温かな体液の感触に、再び舞は達した。
「いっぱい………っ!、イクっ……イっちゃうっ………!!」
 湯船の中で全身を震わせながら達した舞を満足げに見つめる黒川。
 だがその瞳は怪しげな光で輝いていた。

 

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