No12

 

【身の回りの事】

 あれから2週間たった。怪我もまぁ良くなり大学にも相変わらず通っている…まぁ、あの日下宿
に帰った後藤木君やダイちゃん(同じ下宿に住んでいる友人、大学の同じ科にも所属している
まぁ、同級生)が驚いていた。
 昼頃、帰ってくるとまず藤木君と顔を合わせた。すると…
「うぉっ! どしたん! 何痛がってるん!?」
 一晩明けて帰ってきた僕にルナとの関係1歩前進したなとからかい彼が胸をドンと突いた。そ
したら僕が胸を押さえて悶絶してしまったので藤木君は物凄く焦った。サナが彼に僕の怪我を
説明しようとしたら…
「ぬぁっ?! る、ルナさんが二人っ?」
 まぁ…部屋の前でコントをしてしまった。その後は何事も泣く時間が過ぎて行き夕飯を食べよ
うとデリバリーでピザを頼むことにした。藤木君とダイちゃんも誘って皆で夕飯を食べることにし、
二人が僕の部屋にくる。
「おぅ?! ルナさんがふたりっ!?」
部屋に来たダイちゃんがサナを見たとき、やはり藤木君と同じ反応をして僕や藤木君、ルナ達
は笑ってしまった。
 笑ってしまったら怪我に響き僕はうめいてしまうとダイちゃんも藤木君もとても心配してくれた。
そんな二人の心遣いがとても嬉しくて、不覚にもちょっと涙が出そうになった。
 ここで話が終わればいい話で終わったのかもしれない、でもそうは問屋がおろさなかった。突
然アレックスさんが乱入してきた。
「半分だけでもいいからルナの妹を紹介させてくれないかい? そうでもしなければ私の身が持
たないよ」
 少し顔を青くしたアレックスさんの後ろにはきゃいきゃいとはしゃいでいる15人のルナの妹達
がいた。
「ちょっと待って! 僕の部屋はそんなに広くないんです(8畳一間、キッチン、ユニットバス付)!
 そんな大人数入りきれませんよ!」
 と言う訳で近くのお好み焼き屋さんを貸切ることになった。突然の出来事に藤木君とダイちゃ
んは唖然としていたけどね。
 最初は戸惑っていたダイちゃんと藤木君だけどアレックスさんが三人で話し始めたんだ、僕の
方はルナの妹達の自己紹介で三人と話できる状態じゃなかったから。
 気がつくと三人はお酒を飲んでいて出来上がっちゃってた……。頭をふらふらさせながら世間
話をしている三人を見ているのはかなり面白いものを見た気になった。そのうち藤木君とダイチ
ャンがアレックスさんに愚痴を言い始めた。
 内容はわが下宿について。管理人はすごくいい人なのに大家がすごく悪い人、僕も途中から
その話に参加していかにその大家がむかつくお馬鹿か身振り手振りを交えて説明してしまった。
 最初は苦笑して聞いていたアレックスさんだったけど段々僕らと同じようにその大家に対して
怒りを感じてきたようで……。
「よし! そんな大家なんて首にしちゃいましょう! というかその下宿、私が買い取ります!!」
 と言ってどこかに携帯をかけ始めちゃった。ある意味洗脳しちゃったかな? と後日思ったん
だけどこのときは皆酔ってたからヤンヤヤンヤとアレックスさんのことを煽っちゃってたんだ。
 そして何事もなくアレックスさんの電話が終わり僕達は楽しく美味しくご飯を食べ、お酒を飲み
その日は別れたんだ。結構早い時間に帰ったけど次の日が大学だからね。
 次の日はちょっと寝坊しちゃったけど僕らは普通に大学に行った。運が良い事に僕とダイちゃ
んの科と藤木君の科は午後が休講になったから三人でどこかに昼ご飯を食べに行こうとしたら
大学の正門のところにルナが居たんだ。他の生徒がルナの事をちらちら見ていてルナもちょっ
と居心地悪そうにしていたけど、僕を見つけたら嬉しそうに微笑みながら僕のところに来た。
 ちょっと回りの視線が痛かったね。
「どうしたの? こんな所にいて……」
 と僕が問い掛けると。
「アレックスさんがマスター達にここに来てくれって……」
 そう言って僕達三人を昨日のお好み焼き屋さんに連れて行くルナ、僕達が到着するとすでに
アレックスさんが来ていて美味しそうにお好み焼きを食べていた。どうやらいたく気に入ったらし
い。そしてアレックスさんは僕達が席につくのを見計らっていきなりとんでもないことを言ったん
だ。
「君達の下宿は私が買い取ったよ、それであの下宿改築……いや、建て直すからしばらく私の
用意した場所に住んでもらえないかな? 一週間くらいで終わると思うから」
 突然のことにうなずくことしかできない僕達はそのまま仮の住まいに連れて行かれることにな
った。
 後から聞いた話では管理人のおばちゃん(以後おばちゃん)もこのことには驚いたそうだ。いき
なり大家が変わって仕事場の改築、改築後は今までとおりの仕事でお給料がUpだったそうだ
から。
 さすがに仮の住居は大学からかなり遠いところにあったから車やスクーター、バイクを持たな
い僕達は送り迎えをしてもらって大学に通った。
 そして改築されたわれらが下宿は……。まるで新築のマンションのようになって僕達を迎えて
くれた。下宿生一同とおばちゃんはしばらく下宿を見上げたまま固まってしまった……。
 自分たちの部屋に入ってみると……見事なほどに広くなっていた。さらに驚いたことにアレッ
クスさんもしばらくここに住む事にしたらしい、部屋数も増えてたからどうしたのかと思えばルナ
の妹たちも一緒に住み始めたし……。
 新しい生活に慣れるまで……一週間くらいかかってしまった。


【休日と出会い】
 
 久しぶりの休日、僕は一人でちょっと下関に出かけることにした。
「じゃぁ行ってくるね、夕方には帰ってくるから」
「わかりました、気をつけてくださいね? マスター……」
 心配そうにルナが僕を見つめる、僕は心配ないよと笑顔を浮かべた後家を出た。喪よりの幡
生駅から一駅、下関に着き僕は買い物をする前に少しぶらつくことにした。全回の襲撃以来、
アレックスさんが周りに知らせずに僕だけに護衛をつけてくれるといっていたから僕は久しぶり
にこっちにこれるようになった。
「あ、あのすいません……ちょっといいですか?」
 人の多い道を選びながらぶらぶらしていると突然女性から声をかけられた。
「はい? 僕ですか? 道にでも迷いましたか?」
「いえ……その、ちょっと私とお茶でもいかがですか?」
「…………え?」
 女性の言葉に驚きまじまじと相手の顔を見つめてしまう、そこではじめて女性の顔をはっきり
と確認する。烏の濡れ羽のようなつややかな黒髪、腰までとどくその後ろ髪と瞳を隠すか隠さ
ない前髪、前髪の間からのぞく切れ長の眉、意思の強さを感じさせ、何かが揺らめいているよ
うな瞳、すらっとした顔の輪郭、どこかルナに似ているけど……とても綺麗な女の人だった。
「…………」
「あ、あの……どうかされました?」
「あ、いえ……知り合いに似ていたものですから、え、えと……もしかしてナンパですか?」
 女の人の顔を見つめたまま止まっていると心配そうな声で女の人が声をかけてきたのでつい
つい慌てて変なことを口走ってしまった。
 あ、気を悪くしちゃったかな……? と思っていると女の人はちょっぴり頬を染めながら。
「え、えぇ……ナンパになりますね」
 と微笑みながらいったので僕も何だか照れてしまった。
「それで、あの……お茶、ご一緒していただけますか?」
「え? あ、はい! ご一緒します! ……でも、僕なんかで良いんですか?」
 そういって少々拗ねた顔をした女の人の顔を見て僕は一もなく二もなくOKしてしまった。だっ
てあの顔見たらぐっときちゃって……。同じ男の人ならわかってくれ、と言いたくなるくらい可愛
い顔だったんです。
 でもどうして僕なんか誘ったんだろう?
「えぇ、一目見て貴方なら、と思いまして……。じゃぁ行きましょう? いいお店、知ってるんです」
 OKされたことが嬉しいのか、女の人はにっこりと微笑みながら僕の手を引いて駆け出す。僕
は女の人に手を引かれながら後を追っていく、女の人は駅のそばにある喫茶店へと僕の手を引
いて入っていった。
 その喫茶店は通りに面したほうがガラス張りになっていて外から中の様子が丸見えになって
いるので僕はちょっと安心した。女の人は窓際の席を取り僕の向かいに腰掛ける。
「でも良かった……。貴方がOKしてくれて、ナンパって初めてだったから……」
「え? 初めてだったんですか?」
「えぇ、ナンパしたのも初めてですしここに来たのも初めてなんです。あまり外に出してもらえな
いもので……」
 女の人の言葉に驚いた。初めての土地で初めてのナンパですか?
「そうなんですか〜、なら僕なんかよりもっと良い人がいっぱいいたんじゃないんですか?」
「え? ……いえ、貴方より良い人なんて滅多にいませんよ」
 今度は逆に女の人が僕の言葉で驚く、そして苦笑を浮かべながら変なことを言う。こんな僕な
んかよりいい男なんていっぱいいると思うんだけどな? 僕も苦笑しながら言葉を返す。
「そんな、担がないでくださいよ」
「…………気づいていないんですか? でも、だからこそかも……」
「はい?」
「い、いえ! 何でもないです。それで……私達お互いまだ自己紹介していませんよね? 私、
ディアといいます。よろしかったらお名前教えていただけませんか?」
 女の人、ディアさんが小声で何か言っていたので返事を返すとディアさんは誤魔化すように名
前を教えてくれる、それならと僕も自己紹介を返す。
「ディアさんですか……。僕は森河っていいます。よろしく」
「森河さんですか……。ところで森河さんは何で私についてきてくれたんです? もしかしてナン
パされるのに慣れているんですか?」
 僕の名前を聞いたディアさんが意地悪そうに微笑みながらとんでもないことを聞いてくる、僕は
その言葉に慌てて否定をする。
「そ、そんなことされたこともありませんよ! されたのはディアさんが初めてなんですから!!」
「本当ですか? それなら……恋人さんでもいらっしゃるんですか?」
 ディアさんに続けて質問されたとき、胸にちくっと痛みが走った。僕はまだ万葉のことを思い出
にできないでいる。思い出には今はまだできないけどルナが、今の僕にはルナが……。
「あ、ごめんなさい……失礼なこと聞いてしまったみたいで……」
 ディアさんが僕に謝る、あ、顔に出ちゃってたかな?
「え? あ、気にしないでくださいな。まぁ、こんな僕にもいろいろあるってことなんでしょう」
 僕はディアさんに笑って誤魔化しを入れる、せっかく楽しく話をしようとしているのにしんみりは
良くないから。
「でも、どうして僕なんかナンパしたんです? ディアさんほど綺麗なら逆にナンパしてくる人が
いっぱいいるでしょうし好きになってくれる人だって……」
 僕は雰囲気を変えるためにふと疑問に思っていることをディアさんに聞いてみた。
「私は誰かに選ばれるよりも自分で相手を選ぶほうが言いと思うんです。それにナンパしようと
する男の人たちって……」
 ディアさんはナンパされたときのことを思い出したのかちょっと怒りながら言う、でもディアさん
が言っていることもなんとなくわかるような気がする。自分で相手を選ぶ、か……。え?
「ちょ、ちょっと待ってくださいね? 自分で相手を選ぶって……」
「そ、そうですよ? 私は貴方が言いと思ったから誘ったんです。い、いけませんか?」
「い、いえ! そんなことはないです! 逆に光栄ですよ!」
う、あ……。ちょっと困った。顔をあかっくしながら拗ねたような上目使いをするディアさんはかな
り……いや、とても魅力的だ、で、でも僕には……ちょっと落ち着こう、コーヒーでも飲んで……。
「ひ、一目惚れって言ったら……軽蔑しますか?」
「ブバハッ!! ゲホッゲホッ!!」
「だ、大丈夫ですか?!」
 ……コーヒーが、汚いですが鼻から出てしまいました。しかも変に空気と混じって気管にも入
り痛いです……。
「だ、だい……う、うぐっ」
「す、すいません……突然変な事言ってしまって……」
 ディアさんが泣きそうな顔をしながらタオルで僕の顔を拭いてくれる、それで少し落ち着いたの
で言葉を返す。
「い、いえ……今まで言われたことのない類の言葉だったもので……」
 体を少し落ち着かせて水を飲む、ふぅ……びっくりしたぁ。人目惚れの上告白ですか……でも
なぁ。
「それで……あの、今すぐのお返事を伺おうとは思わないんで……また何回か会ってもらえま
すか?」
 ディアさんの手が震えている、この人は本気なんだな、本気で言っている……。なら僕はちゃ
んと答えなければいけない。
「ディアさん、正直驚きましたけど貴方のその気持ちは嬉しいです。でも……僕にはその気持
ちに応える事はできません……」
 しっかりと、ディアさんの目を見て僕は言う。そして認める、バディであるルナを僕は好きにな
っている。万葉と同じように……。気違いと思われても仕方がないがそれが僕の正直な気持ち
なのだから……。
「そう、ですか……。ありがとうございます。はっきりと言ってくれて……」
「本当にすみません、でもだめなんです……」
 ディアさんが泣きそうに、涙を零しそうになっているのを堪えている。だが無理やり微笑んで言
葉を続ける。
「で、でも……今だけ、私の相手をしてください……。お願いです」
「わかりました。友達として、ですけど……」
 僕の言葉に少し悲しげにもう一度微笑むディアさん。そして悲しげな雰囲気を押し込め、でき
るだけ明るく僕たちは話をはじめる。お互いのことを、どんな暮らしをしているか、どんなことが
好きでどんな趣味を持っているか……。いろいろな事をいっぱい話し合った。
 ディアさんなら、きっと僕より言い人を自分で探せるはずだから……何時か何処かでまた出会
ったときには今日のことを笑って話せるなってほしいな……。
 ちょっと悲しい、だけど楽しい時間はあっという間に流れ……。
「あ……そろそろ買い物をして帰らないと。すいません……」
「いえ、いいんですよ。いっぱいお話できましたから……」
 そう会話を締めくくり、代金を払って(割り勘で)喫茶店を出る。
「じゃあ……また何処かでお会いすることがあったらまたお話をしましょう」
 僕はそう言ってディアさんに微笑を向けながら握手をする。ディアさんもにっこりと微笑んで…
…。
「いいえ、また何処かで、ではなく今度は私から貴方に会いに行きます」
 そう言ってディアさんが僕の手を引っ張る、ぐいっとディアさんのほうに引き寄せられ。
「あきらめませんよ? 私は」
 いきなり唇を奪われた。突然の出来事と柔らかい唇の感触に僕は目を白黒させる。
「!!」
 ディアさんはさっと体を離し僕の目を見つめながら言葉を続ける。
「だって……私が選んだ最高の人ですから、絶対にあきらめませんよ」
 呆然としている僕にその言葉を残してディアさんは人ごみの中へと消えていった……。
「…………マジっすか?」
 十分ほどその場で僕は固まってしまっていた。
 その後、気がついたら僕は買い物を済ませ自分の家の前まで戻ってきていた。その間の記
憶はごっそり抜け落ちちゃっていたけど……。
「た、ただいま〜……」
「お帰りなさい、マスター。? どうしました?」
 扉を開けた僕をルナが笑顔で迎え入れてくれる……。くっまずいっ! だめだだめだめ!!
「ごめん! ちょっと僕藤木さんの部屋によってくるね! 何かあったら呼んで! じゃ!」
 脱兎の勢いで扉を閉め藤木さんの部屋に駆け込む。
「ど、どうしたん?! 森さん」
「ど、どうしよう藤木さん! 僕告白されちゃった!」
 突然部屋に入ってきた僕に何があったのか尋ねる藤木さん、僕は慌てて勢いよく答える。
「はぁ?!」
 僕の言葉に藤木さんも驚いている。僕の頭はパニックを起こしてどうしようどうしよう?! 身
の回りにいっぺんにいろいろなことがおこって頭がパンクしそうだよ!
「ま、まぁ……落ち着いて、詳しく教えてくれる? 何があったん?」
 持つべきものは良い友達、こんな良い友達が隣部屋に住んでいていて僕は幸せだよ、しか
ももう一人いるし、いや本当に。
 でも……これもこの後に続く出来事の始まりのひとつだと気づいたときには……もう何もかも
がわかったときだったんだよね……。

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