No11

 

【願い…】

「ねえ、るーくん」
私は七つ年下の彼に尋ねてみたいことがあった。
「何? 万葉姉さん」
「るーくんの願いってなぁに?」
彼の部屋で二人でゲームをしていた。私は彼の隣に座ってゲームをしながら
その質問をした。
「僕の願い? 万葉姉さんとずっと一緒にいる事だよ」
彼がさらりととんでもないことを言う、私は顔を真っ赤にして言葉を詰まらせる
彼はたまになんでもない事のように言う、私はそのたびに彼にからかわれて
しまう。彼は本当に小学生かとたまに疑うくらいに。
「そ、そういう願いなら私が生きている限り叶えてあげるからもっと別な願いは
ないの? るーくん」
「生きてる限りなんて言わないでよ…」
私の言葉に彼はちょっと怒ってしまったようだった。それでも彼はちゃんと答
えてくれる。
「なら…そうだね、天使に会いたい」
るーくんがやっていたゲームを止めて私のほうに顔を向ける、私の顔を見つ
める、私を見つめるるーくんの顔は歳相応の幼いものだった。
「天使? どうしてるーくんは天使に会いたいの?」
「んーーー…どうしてだろうね? 僕にもよくわからないんだよね、だけど翼に
こう…なんて言えばいいんだろう?」
腕を組んでいるるーくんはうんうんとうなりだしてしまった。そんなるーくんの
様子を見ているとるーくんにも理由はわからないけど本当に望んでいる事だ
と感じられるような気がする、それなら…
「いつか…るーくんのその願い、私が叶えてあげるね…」
それが 私の 終わりの 始まり
 るーくんの 2度目の 出会いの 始まり
  私の 2度目の 始まりへの 道
それを私は選択した、それがるーくんを悲しませる事とは知らずに…
「万葉姉さんが叶えてくれるの?」
るーくんが私に無邪気に聞き返してくる、とても嬉しそうに私に笑顔を見せて
くれる、私はそんなるーくんの笑顔を見ると心が温かくなるような気がする。
「えぇ、私が必ずるーくんの願いを叶えてあげる」
私はるー君の笑顔を失いたくないと思った。るー君とずっと一緒にいたいと
思った。
「なんか、今日の万葉姉さん変。何かあったの?」
るーくんがイジワルな笑顔を浮かべて私にそう言う、歳相応子供らしい笑顔
を浮かべて…まだるーくんは幼い、私がずっと一緒にいたいと言っても大き
くなる頃には忘れているかもしれない、私やるーくんの両親に言ってもわか
ってくれないかもしれない。
「変って何よー?!  そんなこと言うとこうしてやるー!!」
「ちょっ!! 万葉姉さん! やメッいヒャヒャヒャ…く、くすぐったいよ!! やめて
って僕が悪かったから! ひっひひひ…ごめんってばー!」
それでも私はるーくんとずっと一緒にいたい、るーくんが私を拒絶しても、私
はるーくんとずっと一緒にいたい…
ぎゅっ……
「……? どうしたの? 万葉姉さん…」
「るーくん、ずっとずっと一緒にいようね…大好きだよ…」
死が私とるーくんを分かつ事になっても、ずっと一緒に…
「? なんて言ったの? 聞こえないよ、万葉姉さん」
「なんでもないよ! さ、下におりてお茶でもしよッ!!」
「あ、待ってよ万葉姉さん…」
るーくんとずっと一緒に……それが、私の 願い…

【私 私 私…】

私がいる、マスターの隣に私がいる、私はマスターによりかかっている私と
マスターのまわりに4人のバディがいる、みんな私に似ている、一人は私に
そっくりだった。
4人もマスターの隣にいたいような気がする、でも今、隣には私がいる。
私がマスターの隣にいる、ずっとこうしていたい。
誰かがまた一人現れる。
「…アレックスさん」
マスターがその人の名を呼ぶ、その人は私達をここまで運んでくれた人だ
った。
「怪我のほうは大丈夫かい?」
その人、アレックスさんがマスターに身体の具合を聞く、私はそれを聞いて
悲しくなった。マスターを護れなかったと……でも私の体はそれを表わして
はくれない…
「えぇ、何回か通院するようですけど、明日には退院できますよ」
マスターがアレックスさんの問いかけに答える曖昧な笑みを浮かべながら、
私はマスターのその表情を見て胸が苦しくなった、でも苦しいと思っただけ
で体はそれを表わしてくれない…
しばらくマスターとアレックスさんが会話を続ける、そしてマスターが立ちあ
がり私の隣からいなくなってしまう。
 いかないで!!
私はマスターに叫びかける、いかないで、私のそばにいて、と… それでも
私は何も言わずゆっくりと支えを失いぱたりとベッドに倒れる。
どうしてだろう? どうして私はこうなってしまったのだろう…? まるで私が2
人いるようだった、実際にそうなのかもしれない、本当の私はいつもの私の
中にある氷でできた檻の中にいるのだ。
その氷がほんの少しだけ溶けて本当の私といつもの私が一人になりかけ
たから、だから本当の私は混乱してるのだろう、本当の私は今まで氷の中
にいたのだから。私の見たこと、感じた事を一緒に見て感じていたとしても
氷の中にいる限りそれが何なのか考える必要はない、本当の私に必要な
事はマスターを失わない事、ずっと一緒にいることなのだから…
今の私にはそれがわかる、だって…私とワタシ、本当の私は繋がっている
のだから、ワタシを包むこの氷が溶けきるとき、それが私達が一つになる
時なのだから…それまではこのまま…
「う、あ…あれ? 私、どうして?」
はっと我に返り私は周りを見まわす、マスターはどこへ? それに何で私
によく似たバディが4人も、しかも一人は私にうりふたつな…
「あ、ルナ姉さん目が覚めた?」
私にうりふたつな金髪、紫眼の人が尋ねてくる。
「え? えぇ…目は覚めたけど……? 姉さん?」
「あぁ、自己紹介はまだだったわね、私はサナ、でこの髪の黒い娘がラズ、
スミレ色の髪の娘はマリ、ショートの娘がアーリー、私達4人はルナ姉さん
の妹、まぁこの場合は同型機って意味のなんだけどね。で、私は姉さんの
デッドコピー、人で言うなら双子の妹になるのかな?」
私の、妹? しかも…
「双子の妹なの? 貴方は…それにこの娘達も…?」
何か複雑な気分…私に妹がいたなんて…
「まぁ、後私達の他に26人の妹がいるから憶えておいてね、ルナ姉さん」
「に、26人??! じゃあ全部で30人も妹がいるの!!?」
眩暈がした、30人の妹? でもちょっと待って、私はバディだから同型機と
いう意味の妹はこれからも増えるんだから…落ちついて…
「まだまだきっと妹は増えるんだから…一番上のお姉さんの私がしっかり
しないと…」
「ルナ姉さん安心して、私達以上妹は増える事はないから」
アーリーと呼ばれた娘が苦笑しながら私に言う。
「? えっと…アーリー? それはどういうことなの?」
「はい、私がアーリですよ、ルナ姉さん。それでは説明しますね、えっと…
私達はルナ姉さんを再現するために試験的に部隊として造り出されたん
です。でも30体も造ってもルナ姉さんを再現する事は無理だったんでそれ
ぞれ8タイプのカスタムを施して私達は完成したんです。だからこれ以上
私達の妹達が造られる事はないですよ」
アーリーの言葉を聞いて私は不思議に思った。どうして私を際限しようと
したのだろうか?
「ねぇ、どうして私を再現しようとしたの?」
私はもう一度アーリーに問い掛けた。アーリーは「え?」という顔をしてそ
のまま悩みこんでしまった。アーリーはジュ文がどうして造られたかは知
っているけど、何故私を再現しなければならないかはわからないようだっ
た。
その質問に答えたのは黒い髪をしたラズと呼ばれた娘だった。
「それは私が説明しましょう、まぁ、教える事の出来ないこともあるので簡
単に言います。ルナ姉さん、貴方は気付いていないようだけど姉さんはと
ても高性能なの、だから姉さんをもう一度造り出せないかと試して造り出
されたのが私達なの」
教えられない事って…何? 私ってそんなに高性能で秘密にしなければな
らないような何かでも積んでいるわけ? マスターはそれを知って…と、マ
スターはどこ?
「あら? そういえばマスターはどこ? なんで私はここにいるの?」
「マスターですか? マスターはアレックスさんと一緒に喫煙所へ行きまし
たよ?」
マリと呼ばれた娘が首を傾げながら教えてくれる、こう…妹と言われただけ
で彼女達に愛情がわいてしまうのは私が単純だからだろうか? そんなだ
からマリが可愛く感じられ…? ちょっと待って、今マリは何て言ったの?
私が「マスターは?」って聞いたらマリも「マスター」って…
「……えっと、マリ? 貴方のマスターって私のマスター?」
「? そうですよ、ルナ姉さん。私達とルナ姉さんのマスターは同じ人、森河
流佳さんですよ」
にっこり笑ってマリが答えてくれる、私達?貴方達私の妹全員30人も私と
マスターが一緒なの?
「うぅ…マスターが私だけのマスターじゃなくなっちゃった……」
「くすっ…これからはマスターの一人占めはさせないからね、ルナ姉さん」
サナが意地悪に渡井ながら私にそう言ってくる、うぅ、どうして? マスターと
初めてのデート(と私は思っている)をして、服まで買ってもらって、これから
マスターと2人っきりでラブラブまっしぐらだと思ったのに…
私にいきなり30人も妹ができて、全員マスターが私と同じ人でみんなライバ
ルになっちゃうなんて…
「うぅ…う〜!! マスター!!」
「あ、ルナ姉さん! どこに行くのよ!! アーリー! ルナ姉さんを!」
「ルナ姉さん、いきなりどうしたの?! ごめんなさいサナ姉さん! 捕まえられ
なかった!! ラズ姉さん! ルナ姉さんを捕まえて!!」
「こら!! ルナ姉さん! 急にいろいろなことがあって混乱したからって暴走し
なくてもいいでしょう?! マリ! 挟み撃ちよ!」
「ずるいですよ! 一人でマスターの所に行こうとしてって…あっゴメン! ラ
ズねえさん逃げられちゃった!!」
私は妹達の手をすりぬけて一目散にマスターのところへと走っていった。マ
スターはすぐに見つかってそこに向かって走っていく、マスターは俯いて黙っ
てしまっていたし、そばに誰かいるようだけどそんな事を気にしてはいられな
かった。
「マスタァ〜!!」
私に声を聞いてマスターが顔を上げ、一緒にいる人と私を見る。
「ルナ……元に戻った…?」
そんなマスターの呟きも私の耳にはとどかず、私はマスターの胸に飛び込む。
「ちょっ!! ルナッまっ…!! ……あぐ!! は……!」
「おわぁ!! 大丈夫かいっ!! 流佳くん!」
「ふえ、ふえぇぇ〜〜〜ん……」
思いっきりマスターの胸に飛び込んで頭をぐりぐりこすりつけて私は泣いてし
まった。マスターはぐりぐりをするたびに体をびくっ! びくっ! と震わせてい
た。
「あ。あ〜〜〜…るな、流佳君を放してあげないと…彼、胸を怪我してるんだ
から…」
誰かの声が私の耳にはいる、そうだ…マスターはあの時! 私を護ろうとし
て!!
「あっ! ご、ごめんなさい!! 大丈夫ですか?! マスター!!」
「ぶっはぁ……だ、大丈夫だから…」
額から脂汗をたらしながらマスターは私にそう言ってくれた。
「で、でも…」
「ルナが元気になったんだから、それだけで今のことは許せるよ」
顔に脂汗は浮かべていたけどマスターは優しく微笑んでくれた。
「マスター…」
私は嬉しくなってまたマスターに抱きついた。でも今度は痛くないように気をつ
けて…
「少し妬けてしまうね…」
「あ、アレックスさん…」
アレックスさんが優しく見つめながら苦笑する、マスターは恥ずかしそうにして
いるようだった。なんともいい雰囲気になり、そのまま時間が流れるかと思っ
たとき…
「あぁ〜!! 見つけましたよ!! アーリー! ラズ! マリ! こっちよ!」
「え? え??」
突然の声にマスターが驚く。
「? サナ、どうした?」
アレックスさんも不思議そうな顔をする。
「姉さんずるい!! 私だってマスターに抱っこして欲しいのに!」
そう言ってサナが飛びつくようにマスターに抱きつく。
「……!!!」
さらにその後ろから妹達が…
「「「マスター!!!」」」
…3人も見事にマスターに飛びつき抱きついた。
「……………」
マスターは、痛みに顔を引きつらせている…妹達は幸せそうにマスターにぐり
ぐりをしている。
「お、オイオイ、君達、そのくらいにしておかないと…」
「「「「!!!?」」」」
アレックスさんはマスターのことを伝えようとしたら妹達に恐ろしい顔で睨まれ
た。
「……いや、何でもない…」
アレックスさん!! 逃げないでください!! 私は妹達に挟まれて言葉が出せない
でいる…
「ちょっと!! そこで何をしているんです!」
看護婦さんが私達を見て駆け寄ってくる、妹達は看護婦さんの声でマスター
から離れる。
「森河さん、こんなところで何をしているんです?」
「フ、フフフフフ…いてぇ」
マスターは怒こっているような笑っているような顔をしていた。
「ちょっと森河さん! 麻酔切れちゃってるじゃないですか! 貴方達! 何
をやってるの?! 貴方達のマスターでしょう!! それなのに…」
看護婦さんは私達を叱りつけながらマスターを介抱する。
「そこの貴方も!! なんでこうなる前で止めないんですか!!」
「ス、すみません…」
アレックスさんも怒られてしまった、そのまま私達を叱りながら看護婦さんは
マスターを病室へと運んでいってしまった…
マスターの退院はこのせいで半日遅れてしまった。

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