No9

 

【きっかけはこれかなぁ?】

そりゃ僕達だって最初から仲がよかったわけじゃない、きっかけがあったんだよ。
最初で最大のきっかけがこれだろうね、思い出すと恥かしいし笑っちゃうよ。
僕とお姉ちゃんが会ってから1週間がたった、だけどお姉ちゃんはいつも一人で
本を読んでるだけだったんだ。
「お姉ちゃん…」
だから僕は聞いてみることにした。
「…どうしたの?」
「本…面白い?」
「別に…」
やっぱり僕と一緒にいるのが、やなのかな?
「ごめんねお姉ちゃん、僕と一緒にいてもつまんないよね…」
「え?」
「いつもボーっとしている僕と一緒にいるより、他にやりたい事あるでしょ?」
保育園でもそうだったからね、いつもボーっとしているから誰も僕と遊ぼうとして
くれない。
「僕、一人でも大丈夫だからお姉ちゃんは好きなことしていいよ?」
いつも先生や他のみんなにいっている事をお姉ちゃんにも言う。
「ち、違うの…」
「え?」
がたっという音を立ててお姉ちゃんが立ちかけた、お姉ちゃんは怒ったような、
泣いてるような、困ってるような顔をしていた。
「そうじゃないの、君といてつまらないわけじゃなく、違うの、違うから…」
「どうしたの? お姉ちゃん…」
僕はただポカンとお姉ちゃんを見つめていた。
お姉ちゃんは必死に僕に話しかけてくる。
「君の事が嫌いなわけじゃないの、私、どうしたらいいのかわからなくて、戸惑
ってて…君が私の事を嫌っているんじゃないかって…とにかく、私は君のこと
嫌いじゃないの」
「よかったぁ.お姉ちゃん僕の事嫌いじゃなかったんだ」
僕はホッと溜息をついた。嫌われているのかなってずっと思ってたから…
「私、学校でもずっと一人ぼっちだったから、みんなから嫌われていたから…」
「僕、お姉ちゃんのこと好きだよ」
「えっ?」
僕の言葉にお姉ちゃんがビックリしている、気付いたらお姉ちゃんはいつのま
にか泣いていた。
「僕、お姉ちゃんが好きだからお姉ちゃんには泣いてほしくないよ」
「あ…」
「お姉ちゃん一人ぼっちは嫌なんでしょ? 僕、ずっと一緒にいてあげるからも
う泣かないで」
お姉ちゃんはビックリしたみたいな顔をした後僕をぎゅっとしてもっと泣いちゃ
った。
その日はお姉ちゃんは僕の家にお泊りしていて…次の日からお姉ちゃんは僕
とよくお話してくれるようになって、よく笑うようになったんだ。
これがきっかけだったんだろうね、ホント今になって思い出したりこうやって話
したりすると物凄く恥かしいんだよ。
…そんなこの時の自分に一言、「ませガキ」メ、苦笑してしまうよ、本当に。

【ビックリの2乗だよ、これは…】

「え?」
目の前にルナがいる、僕の腕の中にもルナがいる…
そして目の前のルナの背には翼が生えていた、白いのだけど太陽の光のよう
な黄金色の翼。
「え? え?? ルナが2人?」
「違いますよ、私はサナリエル、さなとお呼びください、ルナ姉さんはマスター
の腕の中にいるじゃありませんか」
金髪のルナが答える、ルナにそっくりなのだが性格や仕草が違う、その首を傾
げた仕草はかなり可愛かった。…何を考えている、僕…
「…サナ、さん?貴方どこから…ちょっと待って、今『マスター』って言わなかった?」
「はい、言いましたよ? 『マスター』って、それに何か問題でも?」
僕は頭を抱えた、僕がマスター? 何かの間違いじゃないのか?
「…どうして君のマスターが僕なんだい?」
「私達のマスターは貴方一人しかいないんです。そして、私達が目覚めたときか
らマスターは貴方でした。私にはそれ以上の事はわかりません」
どうやら彼女も何故かは知らないらしい、しかしどう見ても彼女はルナの同型機
だ。自分でも妹と言っていたし…待て、今彼女は何と言ってた?
「今『私達』って言わなかった?」
「そうですよ? それが何か?」
「………いや、なんでもないよ」
もう疲れた、ルナの変な荷物が届いて、襲われて、泣いて。、笑って…ルナが。
「あ、サナさん、悪いんだけどルナの様子がおかしいんだ」
僕の言葉にサナさんがルナを覗きこむ。
『サナでいいですよ、マスター。…姉さん、姉さん」
「………」
サナ、の言葉にルナはまったく反応を見せない。
「マスター、ちょっと姉さんを呼んで見てください」
「? ルナ、聞こえる? ルナ…」
「マスター、呼びましたか?」
僕の呼びかけにルナは機械的な返事を返す。
「…どうやら姉さん、マスターの言葉にしか反応しない、聞こえないようですね」
「ふぅ…ん、そう、なん…」
「マスター? ! ど、どうしました?!!」
サナが驚いた顔をして僕を見る、僕はじっとりとした脂汗をかいてしまっている。
ぶり返した原の痛みが限界まできている、気が抜けてしまったからだろうか?
喉のずっと奥、胃の中に血がたまっているのが感じられるような気がする。
ボディのあの一撃がそれほど強烈だったのだろうか?
「マスター!! アリエル! 早くきて!! マリエル!! 手配をお願い!! アレックスさんに
も連絡して!!」
意識はしっかりしている、だからこそこの痛みがつらい、サナが何度も僕を呼ぶ
、僕を抱きしめるルナの腕に少し力がこめられたような気がする、でもその表情
はまったく変わっていない。
空から天使が舞い降りてくる。サナがいっていたアリエルだろうか? やはりルナ
に似ている。
「どうかしたの? サナ姉さん」
「早くマスターを!! マスターが! マスターが!!」
サナがアリエルを急かす、アリエルが僕を見て顔色を変える。
「!! マスター!! サナ姉さん、とりあえず応急手当をするからルナ姉さんを!!」
僕からルナを引き離す、やめてくれ、と言いたかったが痛みで声が出ない。
「マスター、失礼します」
アリエルが僕を横に寝かしぺたぺた触ってくる。
「!!!」
胸骨のあたりに触れられたとき痛みが体を走る。
「…ひびがあるかもしれませんね、姉さん、救急車はあとどれくらいでこっちにつ
くの?」
アリエルの言葉にサナが答える。
「もうすぐ着くはずよ、アレックスさんも一緒に乗っているはずだから…」
「君はアリエルって言うのかい…?」
僕の言葉にアリエルはにっこりと微笑む。
「そうですよマスター、でもどうしたんですか? どうしてこんな怪我を?」
「…そこで死んでいる彼女に殴られたら…こうなったよ」
苦笑しながら答える。
「なんて無茶を!! ルナ姉さんもいたのにどうして…」
アリエルの言葉に疑問を持つ。
「…君達は…戦闘用のバディ…なのかい?」
「マスター、あまりしゃべらないでください、傷に障ります」
アリエルが手当てを続けながら僕を戒める、質問の答えはサナが教えてくれた。
「そうですよ、私達姉妹は戦闘用バディとして造られました」
「そう…なんだ……」
サナの言葉にこの現場の状況をもっとしっかりした情報として知る、ルナの言葉
の意味と共に…
「だから、か…」
フーーと長い溜息を吐き出す。アリエルが不思議そうな顔をして尋ねてくる。
「どうしました? マスター」
「気にしないで…」
頭の中に疑問が膨らんでいく、何故ルナに妹が? 何故ルナが戦闘用に作られ
ている? 何故ルナが狙われる? 何故? 何故? 何故?
遠くからサイレンの音が聞こえてくる、救急車であろう。
サナやアリエルがサイレンの元に向かっていく。
自分を見失っているルナと動く事の出来ない僕が残っている。
無表情に僕を見つめているルナを見ていると何か大きな物に巻き込まれた様な
気がしてくる。
とても大きな何かに…
サナとアリエルがもう二人妹らしいバディを連れてくる、その中に何故か人間の
男性も混じっていた。
その男性が僕の2度目の運命の転機である事を僕はまだ知らない…

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