No7

 

【絶対に赦しません…】

目の前でマスターが殴られた…私はマスターを守るといったのに、それな
のにマスターは私の目の前で傷ついてしまった…
私は! 私はマスターを護りたいのに!!
パキン……
何かが割れるような音がした…薄い壁のようなものが…それと同時に心
が氷のように冷たくなってゆく、マスターを護りたいと思う心とマスターを傷
つけたものに対する怒りがその氷の中で激しく燃えている、熱さを内包し
た氷…矛盾した私の状態が私を変えていく。
私達を狙う男の命令にしたがって、彼女(ドローン)がマスターにとどめを
指そうとするのが見える。
「それ以上はさせない!!」
マスターを護るために彼女を破壊する、私と同じバディであるが何の躊躇
いも無く彼女に一撃を当てる。
ボギン!! という音と共に彼女の腰は砕け活動が停止する。
そんな事にかまわず私はマスターのもとに駆け寄る。
「マスター、大丈夫ですか?」
私は悔しさと悲しさに涙をにじませる、どうしてマスターがこんな目にあわ
なければならないの? どうして私が狙われなければならないの? どうして
マスターが私のために傷つけられねばならないの?
どうして? どうして? どうして!!?
「はは…大丈夫、といいたいけど結構きつい…」
それなのに、マスターは私に微笑みかけてくれる…私を悲しませまいと無
理をしても微笑んでくれる。
あのときも、初めてマスターにあった日も私はマスターを傷つけてしまった。
そのときに笑って許してくれたマスターを私は護ろうと誓ったのに…それな
のに!!
「ゴホッ!」
マスターが咳き込む、さっきの一撃が内臓にもダメージを与えたのか咳き
込んだ呼気に血が混じっている、それを見たとき全身から血の気が引くよ
うな感覚が私を襲った。
そして、マスターをこんな目にあわせてたやつらに激しい怒りが湧いた。
私の心の氷がさらに冷たいものとなる。
「赦さない…」
マスターへの思いと、相手への思いが強くなるほど氷が熱を吸い取ってい
く、心に湧いてきた冷たい物が私の思いと混じっていく…
「貴方達を絶対に赦さない!!」
何かが切りかわる、体から力があふれてくる。
マスターを傷つけたやつらを赦さない、壊してやる…破壊してやる!!
私はやつらに向かって歩いてゆく、それこそ無造作に歩いてゆく。
今の私にはこんなやつらは敵ではなかった。
「な、ナンだ?! どうしてやつの体が光っているんだ??!」
男が鬱陶しく喚いている、あいつを『破壊』するのは1番最後、まずはマスタ
ーを傷つけた者達から。
だけど既に残りは一体になっている、けどそんな事は関係ない、ここにいる
連中がマスターを傷つけようとしたのだから…
足元に転がる物体の胸にマスターの刺したナイフが刺さっている、歩きな
がらそれを拾う。
そして相手に向かって一気に踏み込む、一瞬で間合いを詰め相手の右腕
のひじからさきを切り飛ばす、返す刃で左足の膝から下も切り落とす。
相手の体が左に傾いていく、まだ倒れさせはしない。
左の脇腹にナイフを突きたてる、あいた片手で左の肩を殴り砕き右の膝を
踏みく砕く。
相手の体を宙に支えているのは私の突き刺したナイフだけになった、何も
手を出す事の出来なくなった相手に私は何度も何度もこぶしを叩き込んだ。
何度も、何度も、相手の体が無残にひしゃげるまで…
どちゃっ!!
湿った音を立ててドローンだったモノが地面に落ちる、手を濡らす赤味のあ
る琥珀色の液体を振るい落す。
「まず、一つ…」
「く、くそっ!! 銃器の使用を許可する! やつの動きを止めろ!!」
男が仲間に向かって叫ぶ、男の仲間達はこっちに駆け寄りながら懐の銃を
取り出そうとする。
「遅い…」
銃の狙いをつけようとした男の仲間の目の前にダッシュする、銃を構えたと
きには私は仲間の一人の腕を掴んでいた。
そのまま腕を握り砕き銃を奪い取る、一瞬の出来事に連中は凍りついたよう
に動きを止める。
「二つめ…」
無造作に弾丸を目の前の男の顔に撃ち込む、血を噴出しながら男は倒れた。
倒れた男に何度も銃弾を撃ちこみ続ける…銃弾で男の体は何度もバウンドし
た。
カチッカチッ…
「…弾切れ」
弾のなくなった銃を投げ捨てる、そして残った連中を見まわす…
連中の間に恐怖が走り抜けるのがわかる、私はそんな連中を見て失笑を漏ら
す、だけどそれで終わらせはしない、あいつらはマスターを傷つけたらのだか
ら…だから…
「決めた、三つめは…」
私による一方的な虐殺が始まった…
また一つ、また一つ、破壊していく……残ったのは最初に声をかけたあの男だ
けになっていた。
男意外のものはみんな破壊した、ニ度と活動できないように、ニ度と動き出さな
いように…
「くそっ…何だってこんなことに…」
「貴方が…マスターを傷つけるからこんなことになった…」
男の頭を奪った銃でポイントする、男の顔に冷や汗がにじんでくるのがわかる、
トリガーにかかった指に力をこめる…ゆっくりと、絶対に狙いをはずさないように

『ホワイトリーダー! こちらレッドワン! 時間です、東の空より天使がきます』
「…こちらホワイトリーダー、全員撤収だ」
目の前にポイントされた銃口から目をそらさずに男がここにいない部下に指令
を出す。
『ホワイトリーダー、貴方は?』
「こっちは全滅だ、だから早く撤収を…」
『!! …了解しました…』
私はその会話をただ聞いていた…
「これで終わったと思うなよ、また同じ事がお前らには起こるんだからな」
男は震えながらもニヤリと笑った、ザマァ見ろとでもいいたいのだろうか?
「そう、なら何度でも貴方達と同じようにしてやるわ、マスターを傷つけるものは
私がみんな破壊するから…」
私の言葉に男は額に冷や汗を浮かべる、そして…
「そして、もう貴方には関係無くなる…」
「な、何故だ…」
「貴方はここで終わりだもの…私が貴方を破壊して、それで終わり…」
パン
あっけない音と共に男の頭を破壊した、そして弾丸が無くなるまで男の体に撃
ちこみ続ける。
連中の装備から使っていないマガジンと銃を全て抜き取る、マガジンを全て荷
物の中に放り込み銃を2丁同じように放り込む。
あとナイフも1本手に入れ、マスターの元に戻る。
「…マスター、ごめんなさい、私がついていながらこんな目に合わせてしまって
…」
マスターの側に座りこみ、マスターを抱きかかえようとするが私の両手は血に
染まりきっていた…
「こんな両手じゃ、マスターに触れる事が出来ない…」
自分の両手を見つめ、体を見つめる…
私の体は血に汚れきっていた…
「こんなに汚れてしまってはマスターに抱きしめてもらえない…」
涙が零れた。
マスターを護るためとはいえ私は人を殺したのだ、もう、マスターは私のことな
んか嫌いになってしまったかもしれない。
気を失っているのだから知らないが、知ってしまえばもう私はマスターの所には
いられない…
それでも、私はマスターの側を離れる事は出来なかった…
ずっと、ずっと…座りこんだままただ涙を流し続けながら…

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