No4

 

下着姿のような格好をしているルナと見詰め合っているのが恥ずかしくなり、
ルナに僕の服を着せた。
ルナが着替えている間に僕は逃げるようにキッチンで朝ご飯の準備をはじめる。
「今朝は…パンとサラダと…卵を…」
献立を考えながらてと身体を動かしていく、パンをトーストしサラダを作り
フライパンを温めてスクランブルエッグでも作ろうと準備していると…
「マスター、何をしているんですか?」
ひょっこりとキッチンに入ってきたルナが僕に話かける。
「朝ご飯を作っているんだよ」
暖めたフライパンに油を引きながら答える、ルナは僕のそばまできて料理をする
僕の手をのぞきこむ。
「朝ご飯ですか…」
じっと僕の手をのぞき込みながら好奇心のつまった声でつぶやく。
「お料理…か」
「やってみたいの?」
僕の言葉にパッと顔を上げるルナ。
「イエ! そんなつもりじゃ…」
口が否定の言葉を呟いてもその表情はその言葉を納得させてくれはしなかった。
「じゃ、このフライパンを持っててくれる? 熱いから気をつけてね?」
そんな彼女に微笑んでしまいながらフライパンを渡す、強火でフライパンを暖め
るように言って冷蔵庫から卵を出そうとしたときに、ふと…思い出した。
(あの人もルナみたいに僕を見ていたな…)
思い出に微笑を深くし卵を取り出してルナの方に顔をむける、十分に熱くなった
フライパンをじっと見つめながら、ルナは次の指示を待っていた。
「あ、そしたらこの卵をわって、ボールにといてくれないかな?」
「あ、ハイ! わかりました」
僕の言葉にしたがって卵に手を伸ばすルナ、1歩…僕の方に足を踏み出した瞬間
ズボンのすそを踏み、思いっきりつんのめってしまった。
フライパンを手に持ったまま。
「危ない!!」
僕はこけそうになったルナを抱き寄せ、ルナの手から宙に投げ出されたフライパ
ンから身を守るように手をかざす。
ジュッ!!
肉の焼け焦げるような音とともに左手に凄まじい熱さと痛みが襲う。
「あっ!!」
左手を振りフライパンを払おうとしても肉がフライパンにこびりついてしまった
のでなかなかはがれなかった。
「くそっ! んぎっ!」
ルナの身体を放し、右手でフライパンを無理やり引き剥がす。
ベリっ!! という音とともにフライパンは剥がれ、火傷から血が流れだした。
急いで蛇口をひねり、水で火傷を冷やし血を洗い流していると、やっとルナが顔
を上げた。
「ご、ごめんなさい、マスター…ご迷惑を… ? どうしました?」
水で左手を冷やしている僕を見て、さっきのように覗き込んでくる。
今度は僕の手を見て息をのんだ。
「!!! マスター! ま、まさか今ので?!」
「あ、つつ… 大丈夫かい? ルナ」
「私…私は大丈夫ですけど…それより…」
ルナは顔を青くしながら呟く、僕はルナに救急箱を取ってきてもらう。    
自分で手当てをしようとすると。
「わ、私がやります!!」
と、必死な顔でルナがいうのでとりあえず手当てをしてもらう。
軟膏を塗り、ガーゼをあて、包帯を巻く…
「……マスター?」
包帯を巻きながらルナが問い掛けてきた、その姿はまるで叱られることがわかっ
ている子犬のようにビクビクしている。
「私の事叱ったりしないんですか? 妬けど…私のせいなのに」
上目づかいに僕を見上げ、聞いてくる姿はとても可愛らしかった。
「それよりもルナの方は大丈夫かい?」
「わ、私のほうはなんともありません…ごめんなさい、私のせいで…」
包帯を巻いている左手を見つめながらルナが呟く。
「いいよ、それより手当てをしてくれてありがと」
礼を言うと、視線を左手から僕の顔に移し少しつらそうな表情をしてルナが話し
かける。
「どうして私に礼なんか言うんですか? この火傷、私のせいなのに…私はマスター
にとって送られてきたばかりの思い入れの無いただの人形なんですよ?」
僕はルナの言葉にぽかんとした表情になる。
「だから…私のこと捨てようと考えてもいいんですよ? それなのに…どうして?」
「捨てようなんて…できないよ、それに人形だなんて…確かに君達バディは人形
として造られているのかもしれないけど…その、僕はそう思うことができなくて…
俗に言う変人になるのかな? 君達が一般的にどう思われているか知らないんだ…」
右手で頬をかきながら苦笑する、しかもなんか照れてきた。
包帯を巻いてもらっている左手に添えられたルナの手を何故か意識してしまい明後
日の方をむく。
「それにほら、最初から何でもできる人なんていないんだし、それは君らだってそ
うだろ?」
「でも!! データをインストールしておけば!」
一瞬フラッシュバックするように過去の思い出が浮かび上がる。
あの人との思い出…容姿は全然似ていないのに何故かルナがあの人と重なる。
僕の言葉に詰め寄せるように顔を近づけていたルナに微笑んでしまう。
「それでもインストール前は何も知らないのと同じだろ? だったらやっぱり同じ」
左手に目を向けると包帯は巻き終わっていた、少し不器用だけどしっかりと丁寧に
巻かれた包帯…
それを確認して僕は礼を言って立ちあがる。
「ありがとう、包帯を巻いてくれて。さ、ご飯にしよう」
そういってルナに背を向ける。
姿形が似ているわけじゃない、話し方だって…それでも、それでも何故か
「ルナはあの人に似ている気がする…」
僕の呟きはルナには聞こえていなかった。


戻る