white dress

 

white dress

「フフフ……今日はお前の念願を叶えてやろう」
「………え?」

 ロウルにその正体を知られ、ピロテースと共に完全に囚われの身となったディード。
 ディードよりも激しく抵抗するピロテースは、ゴブリンやオークといった下級妖魔達に身体を弄ばれ、その精神もプライドもズタズタに切り裂かれていた。
 そんなピロテースの姿を見せ付けられては、ディードも抵抗する意思を失ってしまう。
 白と黒。背反する二人のエルフを毎夜のように弄び、ロウルは淫蕩な毎日を過ごしていた。
 透き通るような白い肌を持つディードも、闇を思わせるような褐色の肌を持つピロテースも、ロウルは何度味わっても飽きるという事を知らなかった。

 首輪の拘束力と、淫らな秘薬を持って二人は虜となり、それは永遠に続くかと思われた。

 そんなある日の事─────

 趣向を変えようと思い至ったロウルは、ディードへと先のような言葉を告げた。
 ディードはその言葉の真意を測り損ね、ただ黙って戸惑いの表情を見せた。
 ディードが望んでいる事と言えば一つしなかく、それをロウルが叶えるとは思えなかったのだ。
 しかしロウルは深夜になると密かにディードを伴い、厳重に警備された砦の地下牢へと足を運ぶ。
 与えられた白いカクテルドレスに身を包み、髪を結い上げて飾りつけたディーリットは、ロウルの後に続きながら、次第に冷えてゆく空気に小さく肩を震わせる。

(……本当に……まさか……)

 愚かだとは思いつつも、地下牢の冷え切った空気を肌に感じて、微かな期待を胸に抱いてしまうディード。
 一歩、また一歩と奥へと進む度に、その期待は次第に高まっていく。
 そしてその期待は裏切られる事なく、ディードの目の前に明らかな形となって現れた。

「……パーン!!」

 ロウルの傍らを離れ、壁に鎖で繋がれたパーンの元へと駆け寄るディード。
 しかし、二人の間には冷たく錆びた鉄格子が立ちはだかり、その身体に触れる事を許さなかった。

「パーン!、パーン!!」
「……やはりこの男を捜しに来たようだの……」

 錆び付いた鉄格子に組み付き、泣き叫ぶかのように愛しい男の名を叫ぶディード。
 しかし、パーンは身動き一つ見せず、ディードの胸に嫌な予感が過ぎった。
 うろたえた表情で、遅れてやって来たロウルを振り返るディード。

「心配するでない…起きていると暴れるのでな、薬で眠らせてある」

 ロウルの言葉に、ディードは見た目にも明らかな程に胸を撫で下ろす。
 そして改めて牢の奥に囚われたパーンを見つめ、静かに涙を流した。
 だが、そんなディードにロウルは冷たく突き刺さる言葉を投げつけた。

「だが、生かしておいても意味は無いでな……いや、生かしておけば後々の災いとなるやもしれん」
「そ、そんな……お、お願い殺さないで! ……い、命だけは……」

 口元を歪めて見つめるロウルの足元に跪き、すがりつくようにして懇願するディード。
 ロウルはディードを冷やかに見下ろしながら、肉付きの良い顎に手を当てて思案げな素振りを見せる。
 だがそれはディードを辱める為の演技でしかない。
 しかし、冷静さを失ったディードはそれに気付くこともできず、ただ涙を流しながら必死にパーンの助命を懇願し、潤んだ瞳でロウルを見上げる。

「そうだのう……お前が心の底から儂の物になると誓うのであれば……命だけは助けてやらんでもない」
「そ、それは……」

 一度は娼婦にまで身を窶し、数え切れない男達に身を委ねたディードだったが、パーンの目の前でそれを誓うのは死にも等しい責め苦であった。
 しかし、今は他にパーンを救う手立ては無く、パーンの命の期限がまさに切られようとしているのだ。
 逡巡するディードの返答を待つかのように、笑みを浮かべながら見下ろし続けるロウル。
 どれほどの時間が流れただろうか。ディードは無残に変わり果てたパーンの姿と、返答を待つロウルとの間を何度も視線を行き来させていた。
 そしてパーンが微かな呻き声を漏らした瞬間、ディードは意を決して小さく頷き返した。

「そうか、喜んで儂の物になるか……誓えるのだな?」
「…………はい……私、ディードリットは……身も心もロウル様に捧げます……」
「では、最愛の男の目の前で…心ゆくまで抱いてやるわ」

 意識を失ったままのパーンが囚われた牢の前で、ディードはその全てを差し出した。
 それは、パーンの意識が無かったからこそ出来た事かもしれない。
 愛するパーンの目の前で、そのパーンに惨たらしい仕打ちをした張本人に抱かれる。
 可能であるならば、今すぐにでも自ら命を絶ってしまいたい程に、ディードの心は引き裂かれ、激しく締め付けられた。

(必ず……必ず助けてみせる……だから今は、今だけは……)

 ロウルは早速ディードを跪かせると、萎えた男性器への奉仕を命じた。
 悲しみに満ちた心を必死に支え、ディードは命じられるままにロウルの物へと手を添え、その儚げな唇を近づけていった。
 薄く紅を引いた唇が開かれ、その奥から濡れた舌先が伸び出すと、それはロウルの男性器へと絡み付いていく。
 ディードは丹念に舌先を絡めながら、唇も合わせて駆使して奉仕していった。
 娼婦としての暮らしや、ロウルに飼われる日々で培った技術と、パーンの助命を願う切実な気持ちを、その唇と舌に込めて奉仕する。
 萎えていたロウルの男性器もその口淫によって次第にそそり立ち、ディードの口内で熱く脈打ち始めた。

「……はぁ……んっ……ちゅっ……ちゅっ……んん……」

 いつの間にかディードの表情は、ここ数ヶ月の間に身に付けた娼婦としてのそれへと変わり、逞しくそそり立ったロウルの男性器を、蕩けたような潤んだ瞳で見つめていた。
 肉欲に溺れてしまう自らの肉体を半ば蔑みながらも、次第に高まっていく情欲の炎にディードの理性は焼き尽くされていく。
 時折、頭上のロウルの顔を上目使いに覗いながら、丹念に唾液を塗しては舌を絡めてゆくディード。
 熱心に奉仕するその姿からは、かつてのような凛々しく気高い姿は想像できない。
 今ではその仕草の一つ一つに男への媚びが見え隠れし、その表情も淫蕩な美しさを秘めて輝いていた。

「しっかりと奉仕すれば、その分だけこいつが可愛がってくれるのだぞ」

 自らの欲望の象徴とも言うべき男性器を指して言いながら、ロウルは下卑た笑い声を漏らして、だらしなく緩んだ身体を揺らす。
 口内で激しく舌を絡みつかせ、白金のように輝く髪を揺らしながら激しく頭を前後に動かし、音を立てて激しく吸い上げる。
 醜く膨れ上がったロウルの男性器に、すがるようにして熱心に奉仕を続ける気高きハイエルフの娘。
 いつしか結い上げられていた髪は乱れ、まるで雪のように白く透き通った頬は朱に染まって仄かな色気を醸し出し、高貴さと艶やかさを併せ持つ美しさを彩っていた。

「相変わらず巧いのう……さあ、その口へと出してやるぞ…」

 言うが早いか、ロウルは高まって来る射精感を堪えようともせず、その怒張を弾むように震わせて、ディードの口腔へと射精した。
 勢い良く溢れ出す精液を舌を使って巧みに受け止め、それを口内へと溜めていく。
 ロウルが小さく腰を震わせて最後の一滴を搾り出すと、萎えかけた男性器から口を離したディードは、命じられるまでもなく、ロウルを見上げながら口内に溜まった精液を嚥下していった。
 大量に吐き出された為に、飲み切れなかったものが口の端から溢れ、白濁した雫となって零れ落ちる。
 そんな態度に満足したのか、ロウルはディードを立ち上がらせると、自らの手で汚れたディードの口元を拭う。

「ご主人様……」
「そうだ、儂がお前の主だ……身も心も、その全てが儂の物だ……」
「…………は……い」

 その言葉がパーンを救う為の偽りのものなのか、それとも別の感情によるものなのかは、当のディード自身すらよく分らなかった。
 心がパーンを慕い続けている事は間違いなかったが、ロウルから与えられる快楽に、身体だけではなく心の一部まで依存しつつあるのも事実だった。
 奉仕する事によって明らかに精神的な充足を感じ、隷属しているという事実に震えるような興奮を覚える。 

「……見せてみよ」
「はい……」

 ロウルの言葉が何を指しての事かは聞くまでもない。ディードはカクテルドレスの裾を持ち上げていくと、装飾の施された下着を露にさせた。
 ドレスと同じ絹製の下着には、奉仕の最中から溢れ続けていた蜜が大きな染みを広げている。
 ロウルは手を伸ばして指先にその湿り気を確かめると、表情を崩して笑みを浮かべた。
 そしてディードにパーンが捕われている牢の鉄格子に掴まるように言うと、更に自分に向けて尻を大きく突き出させた。
 身も心もその手に納める為に、最後は愛するパーンの姿を見せながら犯そうと言うのだ。

「あ、あのっ……」
「淫らに喘ぎ乱れる姿を、存分に眺めてもらうがよいわ……ククク……」
「そんなっ……あぁ………」

 床に届きそうなドレスの裾を持ち上げ、既に役目を果たしていない下着を一気に降ろすと、ロウルは有無を言わさず背後から貫いた。
 気を失っているとは言え、パーンの姿を目の前にして犯される事に狼狽していたディードだが、ロウルの剛直が柔肉を貫いた瞬間、全身を鮮烈な快感が駆け抜けていた。
 そしてそれが合図であったかのように、体内で燃え始めていた肉欲という名の炎が、堰を切ったように一気に燃え盛る。

「あっ、あぁっ!! す……凄いっ……あ、あ、あ、あぁーっ!!」

 人間の女性と比べて比較的狭く小振りな膣内を、こちらは平均的な人間の男性より大きな男性器が掻き乱していく。
 潤沢に溢れ出した愛液の助けが無ければ入る事さえ難しく思えるような狭い中を、激しく前後に行き来する怒張。
 いつも以上に強烈な快感が、ドレスに包まれたディードの身体を容赦なく襲う。

「いいぞ、もっと乱れるのだ……全てを忘れて……儂の物となれっ……!!」

 浅黒く焼けた額に汗を浮かべて、力強くディードを貫き犯すロウル。
 普段とは違い特に技巧を凝らす事のない、ただ力任せなだけの抽送だったが、それ故に激しい快感をディードに与えている。
 同時に、目の前にパーンが居るという状況がディードを刺激しているのだが、彼女自身はそれに気付いていない。

「んっ……んくぅ……! あっ、あんっ、あんっ、はぁっ……!!」

 必死に錆びた鉄格子に掴まりながら、背後からの強烈な貫きに全身を揺らす。
 うっすらと開けた瞳は熱く潤み、滲んだような視界の先に、鎖に繋がれて力なく頭を垂れたパーンの姿がある。
 目の前にしながら助ける事のできないもどかしさと、愛する男の目の前で、別の男に抱かれる背徳感に苛まれる心。
 それでも敏感に感じてしまい、快感の叫びを漏らす自分自身を嫌悪するが、燃え上がった官能の炎を消す事はできない。
 そして次第にそんな嫌悪感も霧散していき、ただ背徳感によって増幅された快感だけが全身を包み、心までも支配しようと染み込んでくる。
 身も心も快楽という名の悪夢に蝕まれながら、ディードは一匹の雌へと姿を変えていった。



「はぁ……はぁ……はぁ…………んんっ…!!」

 純白のカクテルドレスは床に脱ぎ散らかされ、2匹の獣がその上で汗に濡れた体を絡ませていた。
 ディードが胡座をかいたロウルへ跨ぐようにして繋がり、桜色に染まった肢体を預けている。両腕はロウルの背中に回され、男を抱き寄せようと狂おしげに蠢いている。
 ロウルは蕾のように可憐なディードの唇を貪りながら、緩やかに身体を動かしてディードを突き上げている。
 その動きに合わせるようにして自らも腰をくねらせつつ、ディードは求められるがままに唇を差し出していた。

「んっ……んっ………はふ………ちゅ……」

 緩やかな動きに合わせたような、けして激しいとは言えない刺激ではあったが、それでも快感は着実に全身へと広がり、淫猥な空気がディードを包み込んでいく。
 結い上げられていた髪も完全に解けてしまい、その美しい輝きを背中へと流していた。
 透けるように白かった肌も、全体的に赤みを帯びて桜色に染まり、その上には薄っすらと汗の雫が浮かび上がっている。
 そしてその表情は恍惚とし、隷属を誓った事が本心であったかのように、ディードの口からはロウルを求める言葉が紡がれた。

「……はぁ………んふぅ………ご主人様ぁ………んんっ……」

 その声音には明らかな媚びが含まれ、その態度も男を求める娼婦の物へと変わっていた。
 パーンの消息を探す間に身に付けた物が現れているのか、それとも本心からロウルに媚び、求めているのか。
 重なり合う唇も、次第にその主導権はロウルからディードへと移り、積極的に唇を押し付けては、舌を潜り込ませていく。
 流れ込む唾液と共に舌を絡ませ合い、行為は更に熱を帯びていった。

「あっ、あんっ、んっ、んんっ……あっ、あぁぁっ! イ……イイっ!!」
「もう儂からは離れられんじゃろう…この身体、他の男では満足させられんわ」
「はぁっ、あっ、は……はいっ……ご主人様……だけです……んんっ……!」

 下から突き上げる動きも次第に激しさを増し、小振りなディードの乳房も激しく上下に揺れている。
 ロウルはディードの尻を抱えるようにして掴み、愛液の飛沫が音を立てて飛び散る程に、激しく腰を突き入れた。
 その激しさを全身で全て受け止め、巧みに快感へと転化させていくディード。

「あっ、あっ、イイのっ! ……あんっ、あんっ、あんっ、んぁっ!!」

 ロウルの首に両手を廻して身体を支え、その特徴的な長い耳を震わし、愛らしい唇からは絶え間なく喘ぎを漏らす。
 快感に震えて甘く切ない叫びを漏らすその姿は、隷属して抱かれる事を心の底から喜んでいるかのようだった。
 いや、明らかにその身体は与えられる快感を受け入れるだけでなく、自らも進んで快感を貪っている。
 すでに、心はパーンを思い続けていると信じてはいても、肉体の快楽に心が引きずられないとは言い切れなくなっていた。

「こんなに締め付けてきおって……そんなに儂のがいいのか?」
「あっ、あんっ……凄い……です……んっ……ご主人様のが……膣内で暴れて……んぁぁっ!!」

 羞恥に染まりながらも、ディードは問いかけに対して素直に快感を口にし、ロウルに対して媚びて見せる。
 それが偽りのものでない事は、男性器に絡みつき締め付けてくる肉襞の感触から明らかだった。
 熱く濡れた膣内はロウルの剛直を奥へ奥へと導くかのように蠢き、潤滑油たる蜜は次から次へと溢れ出し続ける。

「あぁ……ご主人様ぁ……はぁ……はぁ……ひゃぅっ…!!」
「いいぞぉ……乱れろ…もっと貪るのだ……!」
「はぅんっ!! んっ、んっ、んぁっ! ご主人様っ、ご主人様っ……わ……私……もう駄目ぇっ!!」

 髪を振り乱しながら大きく頭を左右に振り、擦りつけるように腰を動かしながらディードは最後の瞬間を迎えようとしていた。
 痙攣のような膣内の蠢きは一気に激しさを増し、それ自体が別の生き物であるかのように、激しくロウルの男性器を擦り上げる。
 一度ディードの口腔へと精を放っているとは言え、その強烈な刺激に流石のロウルも音を上げた。
 表情を歪めて射精感を必死に堪えながら、それでも快感には逆らえずに激しくディードを突き上げ続ける。

「……ぐぅ……いくぞ……あの男の前で……儂に犯されて達してみよ……!」
「あっ、やっ、はぁんっ! あ、あぁっ、イク………イクっ、イクっ………あっ、あっ、あっ、あぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「……うぉぉっ!!」

 ロウルが勢い良く最後の一撃を加えた瞬間、ディードはロウルに抱えられた腰だけを支えに仰け反りながら絶頂へと達し、膣内の最も深い場所では男性器が跳ねるように痙攣し、大量の白濁した体液を放った。
 大量に流れ込んだ精液は、狭い膣内に納まりきらずに結合部から溢れ出す。
 床に広がった白いドレスの上に、愛液と混ざり合った体液が零れ落ち、ゆっくりと染みを広げていった。

「はぁ……はぁ……はぁ…………」

 絶頂の余韻の中で荒い呼吸に大きく胸を上下させているディードを抱き寄せ、額に大量の汗を浮かべたロウルが顔を近づける。
 好色な色を浮かべた瞳で見つめるロウルに、ディードはただ黙って唇を差し出した。
 半ば無意識のうちの行動だったが、まるでロウルの全てを受け入れ、隷属する事を改めて誓っているかのようにも見える。

「……さて、戻ってピロテースも交えて楽しむとしようか……グァァッ……ガハッ……!!」

 ディードの目の前で、不意にロウルが首筋を掻き毟りながら、苦しげな呻き声を上げた。
 見れば、首筋には細い糸のような物が巻き付けられ、背後に立った何者かがそれを両手で掴み、ロウルの首を締め上げていた。

「……!!」
「フフフ……お楽しみの時間は終わりよ……調子に乗りすぎたわね」

 そこに立っていたのはピロテースだった。
 ロウルに与えられたドレスではなく、以前のような軽装に着替えており、その表情からは怒りと蔑みが激しく放たれている。

「ヒュゥ……ヒュゥ……」

 既にロウルは声を出す事すら出来ず、笛を吹くかのような音を立て、空気を求めて喉が鳴るだけだった。
 両手に更に力を込めて締め上げながら、ピロテースは満足げに死を目前にしたロウルに言い放つ。

「私を弄んだ報いは受けないとね…………死になさい!」

 その言葉を最後に、ロウルの全身から一気に力が失われた。
 完全に呼吸が止まった事を確認すると、ピロテースは横たわるロウルを乱暴に蹴り上げる。
 すると、懐にしまわれていたと思われる、小さな鍵の束が一つ零れ落ちた。
 それがパーンを捕らえている牢の鍵であるのは間違いない。ディードの顔に喜色が広がる。

「……始末しますか?」

 不意に聞こえたピロテース以外の声に、驚いて視線を戻したディードの前には、音も無くダークエルフの一団が現れていた。
 その手には黒く塗られた刃の短刀が握られており、冷たい目はディードを射抜くかのように見つめている。

「あ…あぁ………」

 自らの死と、それが意味するパーンの死が、鮮やかな光景となってディードの脳裏に広がった。
 だが、そのダークエルフの前にピロテースの手が伸び、その男を黙って下がらせる。
 そして全裸のままで、下腹部からはロウルが注いだ物を溢れさせているディードに向かって、静かに言った。

「その男を連れて……逃げられるものなら逃げてみなさい…………」

 それだけを言い終えると、もうここには用が無いとばかりに踵を返し、高らかに足音を響かせながら去っていく。
 ダークエルフの一団も無言のままそれに続き、瞬く間に地下牢には静寂が訪れた。
 暫くピロテースの去った方を力なく見つめていたディードだったが、我に返ると慌てて鍵の束を手に取り、パーンの待つ牢へと向き直った。

「パーン! パーン……パーン!!」

 牢を開き、鎖に繋がれたままのパーンへと駆け寄ると、ディードの背筋を冷たい物が流れ落ちる。
 全く身動き一つしないパーンに、最悪の事態が思い浮かんでしまう。

「……パーン………」

 恐る恐る呼びかけながら、薄汚れてしまったその身体にそっと手を伸ばす。
 指先には微かな温もりが伝わり、耳を澄ませば小さな呼吸音も聞き取れる。
 生きている。間違いなく生きている。そう確信すると、ディードは大粒の涙を流しながらパーンへとすがり付いた。

「……ディ……ド……」
「パーン……もう大丈夫よ……絶対……絶対に、私が連れて帰ってあげるわ……パーン………!」

 確かにピロテースの言う通り、ここからパーンを連れて逃げ出すのは難しい事だった。
 だがそれでもディードは誓うのだ、必ずパーンを連れて、皆の元へと帰るのだと。
 どんな思いをしようとも、パーンさえ取り戻せれば何も恐れる事は無い。
 ディードはパーンを鎖から解き放つと、痩せ細って軽くなってしまったその身体を抱きかかえ、困難を極めるであろうその一歩を踏み出した。

TRUE END