あかりの場合〜卒業〜

 

あかりの場合〜卒業〜

 壁際に掛けられた中学校の制服。卒業した今、それを着る機会はあかりには無い。
 そしてそれは間もなく、高校の制服に替るだろう。まだどんな制服になるかは分らないが。

 卒業式から一夜明け、その余韻も消えないうちから、あかりは机に向かっていた。
 時計の針は午前を少し過ぎた辺りを指し示し、ラジカセからはFM放送が控えめに流れている。
 公立高校の一般入試の受験日まで、もうそれほど日数は無い。
 一応、滑り止めとしての私立高校からは合格通知を貰ってはいるものの、やはり本命の公立高校に賭ける思いは強い。
 だからこそ、こうして卒業式の翌日から机に向かっているのだ。

 ヒカルが進学せずにプロ棋士としての人生を選ぶと知った時、自分が置いていかれてしまうような気がした。
 そして同時に、自分の中にあった気持ちを自覚した。ヒカルが好きなのだと。

 プロ棋士になるとは言っても、どこか遠くへ行ってしまう訳ではない。
 会おうと思えば会えるだろうし、いつだって連絡は取れるはずだ。
 しかし、社会人としての生活が始まるヒカルと、学生である自分とでは住む世界が異なるような気もしてしまうのだ。
 だからこそ、いつかヒカルと同じ世界に居られるように、ヒカルとの共通点である囲碁を続けようとあかりは思う。

 そんな少女の可憐な思いに、碁盤の上に心を置いた少年は気付かない。

「ヒカル……………」

 机の上に置かれた一枚の写真。卒業式の日に、話している姿を撮られた物だ。
 誰かが気を利かせて撮ったであろうその写真へと、指先をなぞらせながらそっと名前を呟いてみる。
 名前の後に続いた沈黙には、いったいどれほどの言葉が込められているのだろう。
 身近な存在だったからこそ言えなかった言葉達が、今になってあかりの胸を切なくしめつける。
 言ってしまえば楽になれたはずなのに、その言葉を胸の奥にしまい、ヒカルの背中を見つめる事を選んだのだ。
 囲碁に全てを賭けて歩もうとしているヒカルの背中を。

 まだ恋に恋する年頃であるというのに、ヒカルが選んだ道と同じように、厳しくも辛い道を選んだあかり。
 それでも後悔はしないはずだったのだ。
 たとえ想いを遂げられなくとも、羽ばたいてゆくヒカルの姿を見続けられれば、それで良いのだと思っていた。
 まだその面影に微かに幼さを残す少女の心は、自らの意思で重い鎖に縛られる事を選び、心を殺す。
 羽ばたいていく少年を、地上から見上げ続けるその為に。

「………」

 写真の中の二人は、自然な表情で言葉を交わしている。
 次にこうして話せるのは、いったい何時になるのだろうか。
 大人達の中で真剣勝負を繰り返すヒカルが、いつしか自分の事を忘れてしまうのではないか。
 そんな不安が急速に胸の中に広がり、締め付けられる胸の苦しさに堪えきれず、あかりの両眼に涙が浮かび上がる。
 溢れた涙は頬を伝い、雫となって机の上へと零れ落ちてゆく。
 写真を見つめ、指先で触れながら、あかりは声も無く泣き続けた。

 遠く離れてしまったかのように思える二人の距離に、あかりの幼い心は脆く崩れてゆく。
 固く心に誓った事など捨て去って、今すぐにでもヒカルに会いたい。その声を聴きたい。
 無理やりに抑え込んでいた恋心は、崩れた心の隙間から一気に溢れ出し、奔流となってあかりを押し流した。

「…ヒカル………好き………大好きだよ…………会いたいよ……ヒカル……」

 嗚咽と共に零れ落ちる、涙混じりの切ない言葉。
 その涙はほんの少しだけ、あかりを精神的に大人へと成長させるだろう。
 涙と溜息を乗り越えて、少女は大人になっていくのだ。

 だが、それよりも一足早く、大人への階段を上り始めている部分もある。

 いつしか嗚咽も消え入り、微かに鼻をすする音だけが響く中、あかりはそっと自分の身体を抱きしめた。
 両腕を伝って感じる体温は普段よりやや高く、腰の奥に不思議なむず痒さを感じる。
 それが何の兆候なのか、あかりにはよく分っていた。
 初めてそれを覚えたのは約二ヶ月程前。受験勉強が本格化する中で、知らず知らずのうちに溜まっていたストレスが原因だった。

 理由の無い苛立ちや、未来への不安や焦燥感。それら負の感情の全てを払い去ろうとして、あかりは自分自身の手で自らを慰める事を覚えた。
 それから二ヶ月、初めは拙かったその行為も、今では慣れた手つきで巧みに快感を紡ぎ出すまでになった。
 そんな自分を寂しく、そして悲しく思う事もあったが、ヒカルへの熱い想いを鎮めるには他に手段が思い浮かばない。
 何より、快楽を覚え初めてしまった身体が、今か今かとそれを待ちかねている。
 あかりは熱のこもった溜息を小さく漏らすと、部屋着にしているTシャツの裾へと手を伸ばした。

 指先に触れる柔らかな腹部の感触を確かめると、あかりの手の平は生地の下を奥へと進み、なだらかな二つの丘へとたどり着いた。
 下着は着けておらず、成長期の膨らみが直に指先に触れる。
 指先はその形を確かめるかのように円を描き、そして次第にその半径を狭めていくと、頂で微かに膨らみ始めている突起を捕らえた。

「…ふぁ……ン………」

 一瞬、電流のような快感が胸の先端から全身へと駆け抜け、あかりは鼻にかかった甘ったるい声を漏らしてしまう。
 あかりは空いていたもう一方の手でシャツの裾をたくし上げてしまうと、露になった胸元を見下ろしながら、両手で包み込むようにして乳房を揉みしだき始めた。
 著しい成長を見せているとはいえ、まだまだ未発達な乳房を手の平の中に収め、円を描くように揉みながら、慣れた手つきで頂の突起を指先で弄ぶ。
 瞬く間にあかりの頬は紅潮し、甘い溜息と共に、その表情は艶やかな輝きを放ってゆく。

「…ン………ハァ…………ヒカル………好き………」

 うわ言のようにその名前と想いを呟き、痛いほどに尖った突起を指先で挟み、痺れるような快感に太股を擦り合わせるあかり。
 草色のショートパンツから伸びた瑞々しい太股は、その内側がじっとりと汗ばんでいる。
 そのうち、乳房を揉みしだいていた手の一方が、太股の上へと滑り降り、僅かに開かれた両膝の間からその内側へと滑り込んでいった。
 熱く火照った太股の内側を手の平は進み、その付け根へと達すると、躊躇いながらもショートパンツの中心へと指先を這わせる。
 生地の縫い目の上から、その形をなぞるようにして指先は上下していたが、生地の厚さがもどかしく感じられたのか、あかりは腰を浮かせるとショートパンツを降ろしていった。
 そして太股の途中までショートパンツを降ろすと、手の平は控えめに飾られたショーツへと一目散に伸びていく。

「…熱い……こんなに…なってる……」

 ショーツの中心は僅かに愛液が染み出し、白いショーツの生地を微かに変色させている。
 あかりはその部分へとそっと指先を伸ばすと、生地の下に隠れた秘肉の割れ目をなぞるように、ゆっくりと指を上下させた。
 指先は何度も何度も行き来し、その度にショーツへと広がった染みが大きさを増す。
 広がった染みの部分には、濡れた秘肉の形が淫らに浮かび上がり、指先はその浮かび上がった柔らかな秘肉を更に擦り上げる。
 
「………ハァ………ハァ……ンンッ………痺れちゃう………はぅ……っ」

 椅子の背もたれに身体を預け、荒くなっていく呼吸に胸を大きく上下させるあかり。
 片方の手はTシャツの裾から潜り込むようにして、まだ発展途上であるが、それでも女性らしい膨らみを見せている乳房を優しく揉みしだき、もう一方の手は太股まで下ろされたショートパンツの下で、ショーツの上から秘唇を弄んでいる。
 込み上げる快感に耐えるかのように、足先は爪先立ちになって震え、そして甘美な刺激が駆け抜ける度に、その小柄な身体が小さく震えた。
 脳裏には数々の思い出と共にヒカルの姿がフラッシュバックのように浮かび上がり、あかりは夢中になって快感を紡ぎ出していく。

「……は……ぁ……ンッ……くふぅ……あっ……あっ、あぁっ……!」

 濡れた生地の上から最も敏感な突起を探り出し、染み出した愛液に濡れた指先がそれを捕らえる。
 包皮に包まれてはいるが、それでも敏感なクリトリスは与えられた刺激に反応し、更に充血しながら快感を全身へと巡らせる。
 ぴたりと閉じていた秘肉も既に綻び、濡れた秘唇が控えめに顔を覗かせていた。
 次々と生まれては全身へと広がっていく快感に、あかりは貪るように人差し指をクリトリスに絡め、残された指で秘唇を弄ぶ。
 巧みとは言えないまでも、慣れた手つきであかりは自分を慰め続けた。

 快楽という名の麻薬を与えられたあかりの身体は、その年齢とは不釣合いな程に貪欲さを見せ始める。
 既にその意味を為さなくなっているショーツの脇へと手を伸ばすと、腰を浮かせてショートパンツが止まっていた太股まで降ろし、合わせて一気に足首まで降ろしてしまう。
 露になった秘唇は、まるで息苦しさから開放されて荒く息を漏らすかのように、その奥から大量の愛液を溢れさせた。
 そして乳房を揉みしだいていた手も下腹部へと降ろすと、両手を使って快感を紡ぎ出していった。
 片方の手でクリトリスを重点的に愛撫しながら、もう一方の手は指先を秘唇の間へと沈めていく。
 指先に纏わり付いた愛液を塗すようにして、包皮から僅かに先端を覗かせているクリトリスを擦るように弄び、秘唇の間へと沈んだ指先は微かに震える膣口を探り出し、ゆっくりと指先が潜り込んでいった。

「……あぁ……んふぅ………あっ……ひぅっ!、………ハァ……ハァ……はぁんっ……!!」

 もちろん、まだ男性器を迎え入れた事のない膣内は、あかりの細い指先一本ですら異物としてその進入を拒んでくる。
 だが、ほんの僅かな痛みを堪えて指先を軽く潜り込ませると、瞬く間に新たな快感が泉のように湧き出し、あかりの火照った身体を更に熱くさせた。
 入り口付近で指先を小刻みに出し入れさせながら、残りの指で秘唇を挟むようにして刺激する。
 クリトリスへの刺激と合わせて、湧き上がる快感は最高潮へと達し、あかりは我を忘れて快感を貪っていった。

「あ…あぁっ!、ンッ………ダメぇ……指が……指が止まらないよぉっ…!!、あっ、あっ、あんっ、あぁんっ!!」

 ゾクゾクと震えるような快感が背筋を駆け抜け、全身を小刻みに震えさせ始めながらも、あかりは一心不乱に快感を求めて指先を動かし続ける。
 仰け反るようにして僅かに腰を浮かせながら、あかりは脳裏に浮かんでいたヒカルの姿が、白く眩い光の中に包まれていくのを感じていた。
 それは疑う事のない絶頂の瞬間。
 自分が絶頂へと昇りつめていくのを感じながら、あかりは膣内へと指先を突き立てていた。

「……ッ………イ…ク………………はぁぁぁぁぁんっ!!!」

 爪先も先端まで伸びきり、股間からは飛沫となった愛液を溢れさせながら、あかりは閃光のような絶頂へと飛び込んでいった。


「……ハァ………ハァ…………ハァ………」

 絶頂の余韻に浸りながら、荒いと吐息に胸を大きく揺らす。
 頬を上気させたその表情は、快感に酔ったかのように惚けてしまい、目元には薄っすらと涙が浮かんでいる。
 あかりは股間を抑えていた手を顔の前と持ってくると、愛液に濡れた指先を開いてみる。
 すると、指先に絡み付いていた愛液が糸を引き、そのまま滴となって零れ落ちた。
 羞恥に頬を赤らめながら、それを見つめていたあかりはそっと目を閉じ、溜まっていた涙が溢れて流れ落ちた。
 その涙の意味は、あかり自身ですら分らなかった。

END