Nonfiction Ecstasy

 

Nonfiction Ecstasy

 気がつくと、ニースは寝台の上に太い麻縄で縛り付けられていた。手足を動かそうとしても、その麻縄が食い込むだけで微動だにしない。
 いったい自分の身になにが起こったのか、まだ半分ほど靄のかかった意識の中で、ニースは少しずつ記憶の糸を辿っていった。
 ノービス公ゲイロードの館へと招かれ、そのもてなしを受けた。そして旅の疲れからか、その夜はすこし早い時間に寝台へと潜り込んだ。
 暫くすると暗闇の中で扉の開く気配を感じ、浅い眠りから覚醒したニースは小剣を手に様子を探った。
 そしてそこで見たものは、赤い目を光らせたノービス公の姿だった。ノービス公はニースの制止の声を無視して近付き、その手を小剣を構えて警戒するニースへと向けた。
 次の瞬間、ニースの体へと鋭い衝撃が走り、そのままニースは気を失ってしまった。

「お目覚めですか」
「!?」

 いきなり声をかけられて、ニースは驚きと共にその声の主を探した。それは寝台の足元に立つ、ノービス公のものだった。

「ノービス公、これはいったい何のおつもりですか」
「さて、どういたしましょうか」

 その時になってもまだ、ニースは目の前の男がノービス公である事を疑ってはいなかった。しかし、その赤く輝くその目は明らかに人のものではない。

「貴方はいったい……」
「世間では”魔神”などと呼ばれております」
「……魔神」

 話にだけは聴いた事のあるドッペルゲンガーと呼ばれるその魔神は、対象者の脳を食らう事によって、その姿形や声だけではなく、持っていた記憶をも写し取る事ができる。そして脳を食われた者の強い思いや感情に影響を受け、時には魔神としての本質すら変えてしまう事もあると言う。

「私をどうしようと言うのですか」
「どうやらこの男は、貴女に対して並々ならぬ情欲を抱いていたようだ」
「ノービス公が……」

 それはニースも初対面の時から感じていた。夕食のもてなしを受けた時も、その視線は神官衣の上からニースの体の線をなぞっていた。たぶん、ノービス公の脳内では彼女は一糸纏わぬ姿にされ、思う存分に欲望の限りを尽くされていただろう。
 だが実際にそれを行動に移さなかったのは彼が理性的だったからではなく、ニースの力と存在の大きさを恐れたからだろう。彼女がだたの神官であったならば、ノービス公は間違いなくニースに言い寄っていたはずだ。

「だが、もう恐れる必要は無くなった」

 そう言って魔神となったノービス公は、口の端を歪めるようにして笑った。その唇は血で染められたように赤く、ニースの背筋をゾクリと冷たいものが走る。
 しかしそれを表に出せば魔神を喜ばせるだけだ。ニースは勤めて冷静であることを装い、ノービス公の言動を見極める事に集中した。

「では、お前はノービス公の欲望を成就させる気なのですか?」
「無論だ。だが、それはもうこの男だけの欲望ではない。私自身が欲している事なのだ」

 目の前の男はもう、魔神であって魔神ではなく、ノービス公の姿をしていてもノービス公ではない。ただ共通しているのは、ニースに対する情欲の念ただ一つ。
 ニースにとっては、それだけが不幸中の幸いだった。この男がニースに対して欲情しか抱いておらず、魔神が本来持っている殺意というものを全く感じないのだ。それならば、隙を覗っていればいずれ脱する機会が訪れるかもしれない。ニースは冷静にそう判断していた。
 かと言って、素直にこの身を捧げてしまう気など無い。乙女としての純潔は、いずれ結ばれるであろう伴侶に捧げるものなのだ。

「……お前の言いなりになどなりませんよ」
「それは構わないが、貴女が逆らうたびに私はこの館の人間を一人ずつ殺していくでしょう」
「ッ……卑劣な」
「それに、この男は色々と面白い物を持っておりまして」

 そう言った男の視線の先には、小さな香炉が置かれていた。いったいその中で何が焚かれているのか、香炉からは薄桃色の煙が立ち上り、ゆっくりと部屋の中に充満しつつあった。

「大陸から取り寄せたものらしいのですが、どんな効果があるのかは貴女が身をもって知る事になるでしょう」
「いったい何を……クッ……ケホッ、ケホッ……」

 少し甘い香りのする煙が鼻先をかすめ、思わず咳き込んだ拍子にニースは胸いっぱいにその煙を吸い込んでしまった。その瞬間、引き込まれるように意識が遠のきかけ、慌てて頭を振って意識を取り戻そうとする。だが逆にそれによって、ニースは完全に酩酊状態へ陥ってしまった。

「はぁー……はぁー……はぁー……」

 朦朧とした意識の中で、ニースは自分の置かれている状況や、目の前の男が何者なのか全く理解できなくなっていた。いやそれどころか、自分がいったい何者なのかという事すら、今のニースの意識の中からは消え失せてしまっていただろう。
 薄い布地に覆われた胸をゆっくりと上下させながら、ニースは虚ろな瞳を天井に向けていた。

「さて、そのままではお辛いでしょう。今、自由にして差し上げますよ」

 そう言って男は懐から短刀を取り出すと、ニースを拘束していた麻縄を一本ずつ切り離し、彼女を解放していった。
 自由になったニースは、縛られた痕の残った手首をさすりながら、寝台の上でゆっくりと体を起こす。しかしその姿からは、その場から逃げ出そうとする素振りも、ノービス公の姿をした魔神へと警戒する様子も見られない。

「体が……熱い……」
「それはいけない、私が鎮めてさしあげますよ」
「あ……あぁ……」

 呆けたように体の疼きを訴えるニースを、男はその腕を掴んで強引に引き寄せ、あっさりとその唇を奪ってしまう。男の腕の中で唇を奪われたニースは、体の奥から湧き上がるような疼きが、唇を吸われるだけで快感に変わっていくのを不思議に感じていた。
 そしてそのまま、つい先ほどまで縛り付けられていた寝台へと、ニースは組み敷かれるように押し倒されていった。

「いや……駄目……」
(何これ……体が言う事を利かない……)

 ノービス公ゲイロードの姿を奪った男は、押し倒したニースの体から薄い夜着と下着を剥ぎ取ると、シーツの上にその肢体を投げ出したニースへと覆い被さっていった。
 ニースは拒絶の言葉を口にしながらも、全く抵抗しようとはしない。

「なにが駄目なのか。体はもう私を求めているよだが?」
「ち、違う……それは……んっ……」
「まあ良いでしょう。答えは体に訊ねる事にします……」

 男は再びニースの唇を奪い、強引に舌をねじ込んでいく。ニースは無意識のうちにそれに応え、自らも舌を絡め初めていた。そして男の手はニースの乳房へと進み、その豊かな膨らみを手の平に収め、ゆっくりと感触を確かめるように揉み始める。

「ん……ちゅ……ちゅぅ……ん……」

 唇を塞がれて声は出せないが、胸を揉まれる快感に喘ぎ始めているのは間違いない。その証拠に、胸の中央にある突起は先程までよりも体積を増している。
 男はその突起を指先で軽く弾き、そして指の間に挟んで擦る様に刺激する。ニースの体がその快感に小さく震えた。

「んんっ……ちゅぅ……ちゅぅ……んっ……んっ……んっ……」
(あぁ……舌がとろけそう……いや、止めて……もうしないで……)

 息苦しそうに鼻で呼吸を繋ぎながら、ニースの手は何かに耐えるようにシーツを掻き毟る。肌は薄っすらと紅潮し、白磁のような肌が桜色に染まっていく。
 男の手は巧みにニースの乳房を愛撫し、胸の突起を弄ぶ。時には強烈な快感を与え、時には焦れるような微妙な快感を与える。男の手馴れた愛撫に、経験の無いニースは無残に翻弄される。

「くっ……ぷはぁ……はぁ、はぁ、はぁ……」

 ようやく唇を解放されたニースは、喘ぐように肺いっぱいに空気を吸い込んだ。すると、部屋にまだ残っていた煙を更に吸い込む結果となってしまった。

「はぁ……はぁ……だめ……何も考えられない……」
「考える必要などありませんよ。感じるだけでいい」
「感じる……だけで……んん……」

 頭の奥では男を拒絶しているのに、朦朧とした意識の中に男の言葉が染み込んでくる。感じろ、感じろとニースの頭の中でそれは囁き続けた。

「んっ……はぁ……はぁ……んっ……んっ……」
「指先に吸い付くようなこの肌……堪りませんな」
「あぁ……いや、胸……苛めないで……下さいっ……くはぁっ!」

 ノービス公と同じように笑みを浮かべながら、男は両手でニースの乳房を鷲掴みにして揉み始めた。男の指先が乳房に食い込み、思わずニースが苦しそうな声を上げる。しかしそんな事では男は容赦せず、胸の突起を押し潰すようにしながら乱暴に揉み続けた。
 その乱暴さにもニースの体はすぐに順応し、苦しさよりも快感の方が簡単に上回ってしまう。

「あんっ……んっ、んっ……あぁんっ……」
(感じて、感じてしまう……だめ……体が……体が……)

 快感に震えるニースの肩。そして太股が焦れたように擦り合わせられる。それを知った男の口元に、勝ち誇ったような笑みが浮かぶ。

「フフ……マーファの愛娘……聖女だともてはやされていても、所詮は女か」
「くっ…」

 男が放った侮蔑の言葉に、ニースが鋭い視線で睨みつける。

「ほほう、まだそんな目をする気力が残っているとは……前言を撤回せねばなりませんな。さすがは聖女様だ」

 男を睨みつけたニースだったが、しかしそれ以上はもう抵抗らしい抵抗を見せる事はできなかった。
 再開される男の愛撫に、再び切なげに瞳を伏せて喘ぎ始める。

「あっ……あぁんっ……くっ……あふぅ……」
(こんな……こんな男に……)

 そして男の手は、ニースの乳房からゆっくりと下りていく。乳房の下から脇、そして腹を経由して腰へとたどり着いた。程よくくびれた腰を抱いたその手は、更に下へと降りていった。

「んっ……あぁっ、だめっ……」

 男の両手はニースの太股を抱え、外側へと大きく押し開いた。そして体の位置を変え、ニースの下腹部へと顔を埋めていく。
 男の視線の下に晒されたその部分は、もう既に光を反射する程に濡れそぼっていた。

「なんと美しい……肉芽も控え目で、襞の形も崩れていない」
「あぁ……いや、いやよ……止めて……んっ、んふぅ……」

 男は更に顔を近づけ、鼻を鳴らすようにして匂いを嗅ぐ。

「っ……い、いやっ!」

 思わずニースの顔が羞恥に染まった。

「ふむ……少し匂いがキツイようですが……ま、仕方ありませんかな」
「あぁ……そんな……」

 恥ずかしさのあまり、ニースは両手で顔を覆ってしまう。
 男はそんなニースに構わず、泉のように愛液を溢れさせている秘所へと、おもむろに指先を伸ばしていった。
 濡れた秘唇を指先で広げ、その奥にある小さな入り口を男が探る。そしてそれはすぐに見つかった。

「あっ……ああっ……くっ……」

 指先の潜り込んでくる感触に、ニースは背中を反るようにして悶える。それはけして苦痛からではなく、明らかに快感からの動きだった。
 男は人差し指を根元まで潜り込ませると、膣内の感触を確かめるように動かしていく。そしてその感触がまた、ニースへと快感を与えていた。

「あっ……んっ、んっ……はぁ……はぁ……」
「いい感触だ……指によく絡み付いてくる」

 だが、男はあるべきはずの感触を指先に感じられず、いぶかしむように眉を寄せた。

「ふむ……どうやら生娘ではないようですな」
「くっ……」
「まあ、そんな事に私は拘ったりしませにんよ。なに、その方が楽しめるというものです……ククッ」

 男は喉を鳴らすように笑いながら、膣内へと潜り込ませていた指先を、ゆっくりと出し入れさせ始めた。そしてその指先の抽送は、次第に速度を上げてニースの膣内を掻き乱していく。

「あっ、あんっ、だ、駄目っ……そんなに……くっ……んんっ!」
「面白いように溢れてきますよ」

 男の言う通り、指が出入りするたびに淫らな水音が部屋に響いている。
 ニースはそんな自分の体の反応を恥じつつも、次第にその快感の渦へと飲み込まれ始めていた。

(どうしたら……どうしたら彼を救えるの……)

 ノービス公の脳を食らい、彼の人格に影響されてしまった魔神。言ってみれば魔神の体にニービス公が宿っているような状態だ。
 この男に、もう魔神としての感覚は無いのかもしれない。そうでなければ、とうにニースを殺しているはずなのだ。

(魔神である事を忘れてしまえば……それはもうノービス公と変わらないのではないの?)

 男の愛撫に悶えながらも、ニースはそんな事を考え始めていた。

「んくっ……はぁ、はぁ、はぁ……んっ……あっ、あんっ!」
「いい声だ……素晴らしい」
「やっ……もう……止めて……んっ……はぁっ!」

 男は濡れた指先を膣内から抜き取ると、それをニースの口元へと持ってく。

「ごらんなさい。これが貴女の本性ですよ」
「ち、違う……違うわ」
「何が違うと言うのですか? ほら、こんなにもはしたなく濡らしている」

 男はその指先をニースの唇に押し付け、そのまま口の中へと潜り込ませる。

「フフフ……どうですかお味は」
「んっ、んんっ……ぷはぁっ!」

 そして男はベッドから降り立ち、ニースを見下ろすようにしながら衣服を脱ぎ捨てていく。その肉体はけして逞しいとは言えなかったが、唯一、下腹部で隆々とそそり立つものだけは、並外れて逞しかった。

「あ……あぁ……」
「この男、これで随分と女性を虜にしていたようですよ」
「……(ごく)」

 思わずニースの喉が鳴った。
 男はそれを見せ付けるかのように、ニースの顔の方へ向けて手で擦り始める。ゆっくりと擦られていくうちに、それは更に体積を増し、腹へと当りそうな程に反り返っていった。

「さあ、これをたっぷりと味合わせて差し上げますよ」
「そんな……そんなの入れられたら私……」
「見せてもらいましょうか、貴女の乱れる姿を」

 にじり寄る男の前に、ニースは一歩も動けなかった。いや、それどころか、視線は男の男性器へと釘付けになったままだ。
 焚かれている香の影響下にあるニースは、沸きあがる性衝動を抑える事ができない。そんなニースにとって男の男性器は、堪らなく魅力的な存在だった。

(あぁ……欲しい……あれが欲しい……)

 湧き上がる渇望感、熱く疼く肉体、残っている僅かな理性など無視して、情欲の炎は熱く熱く燃え上がっていく。

「さあ、脚を開きなさい」
「う……うぅ……」
「さあ、早く!」

 男の強い口調に衝き動かされるように、ニースはノロノロとベッドの上で脚を開いていく。そして両手で顔を覆い、指の隙間から男の様子を眺めていた。
 そんなニースの両脚の間へと体を割り込ませ、男はニースを見下ろした。

「欲しいでしょう? これが欲しくて堪らないでしょう?」
「あぁ…………そ、そう……欲しいの……」

 堪えきれずニースの口から男を求める言葉が漏れる。
 男はその言葉に口元を歪めて満足げに笑うと、そそり立った男性器を上から押さえ付けるようにして、ニースの秘唇へと先端を当てた。
 そしてゆっくりと体重を乗せ、濡れた秘肉を押し開いていく。

「くぅっ……はっ……はっ……んんっ……あぁっ!」

 挿入の圧迫感に喘ぎながら、ニースの両手が男の方へと伸びる。男はその手を掴むと自分の背中へと導き、上半身をニースへと覆い被せていった。
 男の胸板に豊かな乳房が押し潰され、男の腰が更に進んで全てをニースの膣内に埋没させた。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 そしておもむろに男は抽送を始める。
 ニースの頭を抱え、抱きしめるようにしながらゆっくりと腰を前後させる。男の背中へと両手を回したニースは、男の体の下で甘く喘ぎ始めていた。

「あっ……あんっ……んっ……あぁっ、あんっ……あっ……」

 甘く切ないその音色に、男は次第に抽送を加速させていく。そしてニースは男の背中へと、幾本もの爪痕を走らせていた。

「あっ、あっ、あっ、あっ……んんっ……あぁんっ!」

 男は無言で腰を動かし続け、その逞しい男性器でニースの膣内を掻き乱す。そしてそこから生まれる快感は、ニースの全身を駆け抜けて甘い喘ぎとなって口から溢れる。
 気がつけばニースは両脚を男の腰に絡みつかせ、抽送に合わせて腰を揺らし始めていた。

「あっ、あんっ、だめっ……い、いいっ……んっ、んんっ……はぁっ!」

 そんなニースの反応に、男がニヤリと笑みを浮かべる。しかしその表情はもう、ニースの視界には入っていない。

「あんっ、あんっ、あぁっ! いいっ、いいのっ! あぁっ……き、きちゃうっ!!」

 ニースは男へとしがみ付き、その顔を男の胸板に押し付けるようにして叫んだ。それは拒絶の叫びではなく、喜びの叫びだ。
 目の前に迫ってきた絶頂感に、ニースはただ喘ぐ事しかできない。

「んっ、んっ、んぁっ! くるっ、くるのっ……あぁ……もうっ……駄目ぇっ!!」

 次の瞬間、ニースの膣内が痙攣するかのように小刻みに震えた。そして男の背中に爪を立て、そのまま絶頂の叫びを迸らせる。

「あぁっ! いくっ、いくぅっ! あっ、あっ、あっ……いっちゃうぅーっ!!」

 男の体の下でニースの体が跳ねる。

「くっ……!」

 絶頂で激しく締め付けてくる膣内の感触に、男もまた同じように果てていた。
 流れ込む精液の感触に、ニースは更に繰り返し絶頂へと登りつめる。

「あっ……あっ……だめ……いくっ……またいっちゃうっ……はぁぁぁっ!」

 脈打つように放たれる精液は、ニースの子宮を完全に満たす程の量だった。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 ニースの体が男から滴り落ちる汗を受け止める。その汗はニースの体の曲線をなぞるように滑り落ち、寝台へと流れていった。

「どうですか……ご感想は?」

 男は半萎えになったものを抜き出し、ニースの眼前へと持っていく。男の精液と自分の愛液に濡れて光る男性器を見つめていたニースは、何かを吹っ切るかのように目を閉じ、そして次に目を開けた時には、男性器へと舌を伸ばしていた。

「フフフ……」

 ニースの受難はまだ始まったばかりであった。

END