Last departure

 

Last departure

 ウォートからの連絡を受け取ったスレインは、すぐさま城内のディードリットへと使いを走らせた。その使いが向かった先は、当然のようにディードリットに与えられた部屋ではなくカシューの自室だ。
 スレインからパーンの治療方法を知らされたディードリットは、カシューの愛妾としての日常を過ごしながら、その連絡を待ち続けていた。
「連絡が来たのね!」
 カシューとの行為の最中であったディードリットは、何も身につけていない姿のまま、知らせをもたらした兵士の前に立つ。
「は、はい……」
 微かに朱を射したような雪のように白い素肌を目の前にして、若い兵士は頬を赤らめて視線を逸らした。
 ディードリットはそんな事は気にした様子もなく、早くもスレインの元へと駆け出そうとしている。
「ディード、そんな姿のままで行くの?」
 呆れたような声をかけたのは、同じくカシューの相手をしていたレイリアだった。こちらは落ち着いた様子で薄絹を身に着けていたが、充分に体の線が透けて見え、兵士は更に顔を赤くさせた。
 そしてレイリアは寝台で脚を投げ出しているカシューを振り返り、夫の元へ向かう了解を得る。
「陛下」
「ああ、構わんから行ってこい」
 行為を中断された事でやや不機嫌になってはいるものの、それを咎めたりはしない。既にディードリットの気持ちはスレインの元へと向かっている。そんな状態で行為を続けても、思うように楽しむことなどできないと分かっての返事だった。
 カシューの言葉を受けて、二人は急いで身なりを整えてスレインの待つ部屋へと向かう。


「やあ、早かったですね」
 二人が何をしていたのか知らない訳ではない。だが、その言葉に深い意味は無く、妻であるレイリアが女の匂いをさせていることさえ気にした様子は無かった。
「それでスレイン、ウォートはなんて?」
 連絡を受けた直後からは幾分か落ち着きを取り戻し、愛妾らしく生地の薄いドレスを身に纏ったディードリットが尋ねる。
 スレインはその言葉に頷き返すと、一通の書簡を取り出した。
「これを」
 差し出された書簡を受け取り、そこに書かれた文面へと視線を落とす。
「……」
 そこには魔術師らしく延々と遠回しな表現で”深遠の扉”が誕生した経緯について書かれていたが、ディードリットはあっさりとそれを読み飛ばす。そして文面の最後の一行、深遠の扉の使い方について書かれた部分を声に出して読み上げた。
「指にはめて、その相手と唇を重ねる……」
「これです」
 ディードリットが書簡を読み終えるのを待って、スレインが真鍮製らしい簡素な指輪を差し出す。
 表面はよく磨かれた真鍮にしか見えないが、内側にはびっしりとルーンが刻み込まれていた。
「これを指にはめて、パーンとキスをすればいいのね?」
「はい、そこに書かれている通りです」
 これでやっとパーンを救うことが出来る。
 追い求めていた希望を受け取ったディードリットは、それを大事そうに両手で包み込み、胸元に引き寄せて強く握り締める。
(これで……これでパーンを……!)
 溢れ出した涙が頬を伝い、握り締めた両手へと落ちていく。ディードリットの苦労と思いの深さを知る二人は、その姿を優しく見つめていた。
「パーン……」
 早速、深遠の扉を指にはめたディードリットは、その名を呟きながらそっと震える唇を重ねていった。
 その光景を息を呑んで見守るスレインやレイリア、そして後から現れたカシュー。
 そして唇を重ねたディードリットは、そのまま意識を失うように、パーンに寄り添いながら深い眠りへと落ちていった。
(ディード……全ては貴女次第です……)
 魔法の道具を使ったとしても、パーンの意識を蘇らせるのは容易ではない。それを知っているスレイン夫妻は、祈るような気持ちで二人を見つめている。
「あなた……」
「大丈夫、二人の思いの強さを信じましょう。思いというのは、苦難を乗り越える力となるものですよ」
 自分と妻との関係を思い、微笑を浮かべながら力強く言い切るスレイン。レイリアは夫の腕にそっと寄り添い、自分の罪深さを感じながら、夫の優しさに心を重ねた。



(ここは……)
 唇を重ねた直後、何かに吸い寄せられるように意識が遠退いた。そして気が付くと、光に包まれた靄のような中にディードリットは居た。
 直感的にここがパーンの精神世界なのだと、優れたシャーマンでもあるディードリットは気付く。
 周りの様子を覗いながら自分自身を確かめると、金属製の物が存在していない事を除けば、普段と全く変わり無い姿だった。
 若草色のチュニックに皮のベルト、そして鞣革の胸当て。これで腰に剣を下げていれば、パーンと出合った時と全く同じだ。
(どこかにパーンの意識があるはず……)
 足元さえ覚束ない精神世界で、ディードリットは迷うことなく足を踏み出した。


 どれくらい歩いただろうか、時間の概念の無い世界だったが、途方も無い距離を歩いたような気がする。
 しかし歩いても歩いても光の靄は消えず、本当に進んでいるのかすら確信が持てなかった。
(どこに居るの……パーン!)
 切ない声を胸の奥で響かせながら、不確かな光の上を歩き続ける。すると不意に靄の間から何かが見え始めた。
(あれは……)
 一縷望みをかけてディードリットは駆け出す。少しずつ近付いてくると、それが巨大な水晶球だという事が分かってきた。
 人の頭よりも遥に大きく、水晶球でありながら透き通ってはいない。ディードリットはその水晶球の中に何か見えたような気がして、恐る恐る顔を近付いていく。
(何か映ってる……?)
 更に顔を近づけて確かめていくと、そこに映し出されていたのは、ディードリットの記憶にある数々の痴態だった。
 ロウルを初めとして、カシューの愛妾となった日々まで、まるで実際に見ていたかのように克明に描かれている。
「なっ……ど、どうして……」
 パーンの意識下にこの光景があるという事は、パーン自身がそれらを知っているという事でもある。それに気付いたディードリットは、白磁のような顔から更に血の気を失っていった。
 恐怖に膝がガクガクと震え、毅然とした普段の姿はどこにも感じられない。
 全てはパーンの為と行った事ではあったが、それが他の男と体を重ねる理由にはならない。その事はディードリット自身が一番よく分かっていた。
(これを見ていたから……知っていたから、パーンは……)
 肉体的には癒えているはずのパーンが、その意識を甦らせない理由。心に与えた大きな傷の正体を知り、ディードリットはその場に膝から崩れ落ちた。
「ごめんなさい……ずっと貴方を傷付けていたのね……」
「それは違うよ、ディード」
「っ……!?」
 悔いる言葉を口にしたディードリットに、背後から聞きなれた声が掛けられる。
 慌てて振り返ったその先に立っていたのは、ディードリットの記憶の中に鮮明に残っているパーン。それは最近の彼の姿ではなく、出会ったばかりの若々しく、そして無鉄砲さに溢れていた頃のパーンの姿だった。
「パーン!」
 彼を裏切ってしまっていたという思いを引き摺りながら、それでもディードリットはその胸に飛び込んでいく。
 パーンの精神世界の中にあっても、その胸板や腕は逞しく、小柄なディードリットを易々と受け止めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
 まるで少女のように泣きじゃくりながら、何度も何度も謝り続けるディードリット。若い頃の姿のままのパーンは、そんなディードリットの髪や背中を優しく撫で続けていた。
 しかし、そのパーンの表情が不意に歪む。
 邪悪さと淫猥さに満ちた微笑を口元に浮かべ、その視線に好色な光が満ちていく。
 髪を撫でていた手が滑るように下りていき、丈の短い短衣の裾をたくし上げ、下着の上から尻を撫で回す。
「!?」
 異質な雰囲気を感じ取り、咄嗟にパーンから離れようとするディードリット。しかしパーンの手がしっかりとディードリットの手首を掴み逃さない。
「あ、貴方……誰なの!」
 鋭く詰問するディードリットの目の前で、一瞬前までパーンだった者の顔が歪む。
「あまりにも呆気ないので、つい油断したな」
 パーンの顔が溶けるように形を変え、新たな人物へと変わっていく。それが次第に輪郭を整えていくと、ディードリットのよく知る人物になっていた。
「へ……陛下……」
「ほう、この男がお前にとって最も求める存在か」
 顔だけではなく、その声までカシューと瓜二つ。いや、完全にカシューとしか思えない程、ディードリットの記憶と微塵も違いが感じられない。
(どういうこと……まさか……いや、そうとしか……)
 パーンの精神世界で自由にその姿を変えられ、しかも自らの意思を持ったように言葉を話す。ディードリットは目の前の存在に、一つだけ思い当たるものがあった。
「……夢魔」
「ほほう、我名を知るか。……なるほど、失われた種なのだな」
 自身の存在を言い当てられた事に驚きもせず、目の前の存在もディードリットがハイエルフである事を見抜いた。
(やはりインキュバス……でもどうして……)
 男性の姿をした夢魔をインキュバスという。睡眠中の女性を襲う妖魔であるインキュバスが、どうして同性であるパーンの精神世界に居るのか、ディードリットでなくとも不思議に思っただろう。
 疑念を募らせるディードリットを前にして、カシューの姿を模したインキュバスは、ひとり納得したように大きく頷いた。
「なるほどな、お前の存在が我を妨げていたか」
「何……?」
「この男の体を奪うつもりだったが、どうにも思い通りにゆかぬと思えば……」
 その言葉か全てを理解するのは難しかったが、少なくともインキュバスにパーンの体を奪う意思がある事だけは分かる。そしてディードリットにとってそれは、絶対に阻止しなければならない事だった。
「そんなこと絶対に許さない!」
「ほう、この世界で我に逆らうと?」
 カシューの顔をしたインキュバスが、ディードリットの手首を掴んだまま強引に引き寄せる。そして細い頤を手に捉え、強引に顔を自分の方へと向けさせた。
「くっ……!」
「我の目を見るがいい」
 反射的に危険を感じたディードリットだったが、目を反らす寸前で赤く光るインキュバスの目を見てしまった。
「あ……あぁ……」
 邪悪に燃える赤い瞳と目を合わせた瞬間から、見えない鎖に心が囚われてしまう。
「ハイエルフは我も初めてだな、味見してやろう」
 インキュバスが更に顔を近づけていくと、ディードリットは瞳を閉じて唇を差し出した。


「はぁ……あふ……ぅ……」
 インキュバスを目の前にして、ディードリットの欲望はどこまでも高まっていく。まだ触れられてさえいないのに、愛撫されているように全身が火照ってくる。
(あぁ……欲しい……この人に抱かれたい……)
 体の奥で女としての欲望が疼いて堪らない。立っているだけで膝が震え、熱い雫が膣奥から染み出してくる。
 ディードリットが身も心も囚われたのを確信すると、カシューの姿を模したインキュバスは、どこからともなく椅子を取り出して腰を降ろした。
 そして短く簡潔に命じる。
「脱げ」
 その言葉自体が魔力を持っているかのように、ディードリットは逆らおうという気持ちさえ抱かなかった。
 インキュバスの言葉に素直に頷くと、その目の前で胸当てを外し、皮ベルトを解いてチュニックを脱いでいく。そして躊躇うことなく下着まで脱ぎ捨てると、惜しげもなくその裸身を晒した。
 簡単に手折れそうな細身の体ながら、その胸は豊かに膨らんでいる。人間達との暮らしの長さが、その身体的特徴に変化を与えていた。
「広げて見せよ」
 インキュバスの言葉に黙って頷くと、ディードリットは軽く脚を開き、自らの指で秘唇を開いて見せた。
「ふぁ……」
 内側の秘肉は既に濡れて輝き、桜色の粘膜を更に赤く染めている。
「もう濡らしているな。存外に淫らな娘だったようだな」
「はい……ですから、お慈悲を下さいませ……私の淫らなここに……」
 ディードリットは広げた陰唇の間に指を伸ばすと、そのまま膣口へと埋めていった。
 そして中に溜まっていた愛液を掻き出すようにして、淫らにインキュバスを求めていく。
 椅子に腰を降ろしたインキュバスは、既に何も身に着けてはおらず、カシューと同じように逞しい男性器を隆々とそそり立たせていた。
 ディードリットの濡れた瞳はそこに釘付けになり、興奮した表情で何度も生唾を飲み込む。
「フフ、我慢も知らぬようだな……いいだろう、くれてやる」
「あぁ……ありがとうございます」
 インキュバスの言葉に歓喜の笑みを浮かべると、ディードリットは向かい合うようにして、インキュバスを跨いでいった。
 そしてカシューの物と瓜二つの男性器に手を添え、躊躇うことなく腰を落としていく。
「んっ……んくっ……ふぁぁっ……!」
 小振りな女性器には辛そうに見えたが、ディードリットの膣内は逞しい男性器を簡単に咥え込んでいった。
 ずぶずぶと音を立て、愛液を溢れさせながら男性器が膣内を満たしていく。
「あぁ……入って……くるぅ……!」
 ディードリットは切なげに細い眉を寄せ、挿入の圧力に長い睫毛を震えさせた。
「これがハイエルフか……フフ、楽しめそうだ」
 温かく包み込む感触と、その独特の締め付け具合にインキュバスの頬が緩む。そしてディードリットが腰を動かし始めると、カシューを模していたその顔の輪郭が歪み始めた。
 その顔が何人もの男達の姿に、立て続けに変化していく。それはディードリットの記憶の中にある、肌を合わせた男達の姿だった。
 過去の男達が現れては、ディードリットを激しく貫いていく。
「んんっ……んっ、んっ……んんぅっ……んはぁっ……!」
 情報と引き換えに体を与えた男。
 金で一夜を買った男。
 欲望のままに貪った男。
 僅かに心を通わせた男。
 その男達に共通していたのは、ディードリットと関係を持ち、精を注いだという一点だけだった。
 パーン以外の男達に抱かれた記憶を甦らせながら、インキュバスに抱き付くようにして体を支え、淫らに腰を上下させた。
 笠のように広がった雁首が入り口から膣奥まで、濡れた襞を擦り上げながら行き来する。そして先端が子宮口に当たると、腰が震え出しそうな程の快感がディードリットを襲った。
「あ、あぁっ……すごいっ……! 陛下……陛下っ……くぅんっ……!」
「フフフ……」
 様々に歪んでいた輪郭は再びカシューへと戻ったが、その表情は明らかに本物とは異なっていた。下卑た笑みに口元を歪め、淫猥なインキュバスそのものといった表情を浮かべている。
「これがハイエルフか、堪らんな」
 細身で小柄な為に女性器も小振りで、膣内は強く締め付けてくる。それでいて、カシューの巨大な男性器を受け入れるだけの柔軟さも持ち合わせていた。
「んくっ……ん、んんっ……はぁぁっ……!」
 次第に腰の動きに変化をつけ、その柳腰を捻るようにくねらせながら、快感を貪り続けるディードリット。その瞳からは理性の光は消え、インキュバスの手に堕ちた一匹の牝に成り果てていた。
「あっ、あっ、あっ、あぁんっ! だめっ……くるっ……!」
 理性を失って動き続けていたディードリットは、躊躇うことなく絶頂へと手を伸ばす。まだ悠然と余裕を見せているインキュバスとは対照的に、あまりにも呆気ない絶頂だった。
「ふぁぁぁっ! イク、イッちゃうっ! あっ、あっ、あっ、イクぅぅぅぅっ!!」
 激しく腰を弾ませながら、歓喜の叫びを漏らして達していく。
 その激しい絶頂に下腹部が波打つように痙攣し、膣襞がインキュバスの男性器を強く締め付けた。
「もう気をやるか……なら、ここからは俺が楽しませてやろう」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 脱力してインキュバスへと体を預け、絶頂の余韻に浸っているディードリット。インキュバスは独り言のように呟くと、繋がった状態のままその体を抱え上げた。
 すると座っていたはずの椅子が消え、代わりに綿毛のように真っ白な毛に覆われた寝台が現れる。インキュバスはその柔らかな寝台の上にディードリットを寝かせると、唇を奪いながら腰を動かし始めた。
「ん……んちゅ……ん、んん……んふ……」
 ディードリットは無意識のうちに舌を差し出して、インキュバスに応えてしまう。達したばかりの膣内は、軽く突かれただけで痺れるような快感を生む。
 快感を与えて生気を吸い取る。吸精魔とも呼ばれるインキュバスの本領が発揮されていた。
 舌が蕩けてしまいそうな甘いキスと同時に、太く硬い男性器が巧みに変化を付けながら膣内を擦り上げる。心を縛られ、理性を奪われてしまったディードリットは、その快感に深く溺れていく。
「ちゅ、ちゅぅ……んぷ……んぐ……んっ、んっ……ぷはぁっ……!」
 ここがパーンの精神世界だということも、もう頭には無い。愛妾となって以来そうしていたように、カシューとの濃密な情事に没頭している。
(あぁ……堪らない……何もかも溶けてしまいそう……!)
 火を灯された官能が熱く燃え広がり、ディードリットの精神を焦がしていく。
「そら、もっといい声で啼くがいい!」
 インキュバスは両手をディードリットの乳房へと伸ばしながら、思い切り強く腰を突き入れた。
「ひゃぅんっ! あっ、あっ、あっ……くはぁぁっ……!」
 そのまま始まった苛烈なまでの抽送に、秘唇は淫らに捲れ上がり、溢れ出した愛液が白く泡立っていく。
 硬く膨らんだ亀頭で何度も何度も膣口を叩かれ、ディードリットはその強烈な快感に切なく喘ぎ続けた。
「あぅぅっ……あっ、あっ、あんっ! いいっ……いいのっ……くふぅっ! んっ、んんっ、んはぁっ……!」
 白く透き通るような肌に赤く痕が残るほど、強く乳房を揉みしだくインキュバス。驚かされるのは、ハイエルフらしからぬ大きさ以上に、恐ろしく柔らかなその感触だった。
 インキュバスの指先の圧力から逃れるように、乳房は自在に形を変えていく。
「この体で何人の男を惑わせた? これではまるで、我同胞のようではないか」
 ディードリットを辱めるように、インキュバスは下卑た笑みを浮かべる。しかし、その言葉はもうディードリットの心には届いていなかった。
 乳房を荒々しく揉まれ、子宮を揺さぶるように貫かれる。その快感に淫らに喘ぐ姿は、確かにハイエルフとは思えないほど淫猥だった。
 白磁のような肌を桜色に染め、長い金色の髪を振り乱す。まるで芸術品のような姿をしているだけに、性に乱れていく様子は堪らなく卑猥でもある。
「はぁっ、はぁっ……あ、当たるっ……陛下のが当たるのぉっ……やっ……だめっ、だめぇっ……くぅんっ!」
 両脚をインキュバスの腰に絡み付かせ、抽送に合わせて自らも腰を揺らす。そして愛妾としての日々を感じさせるように、甘えるような声で射精をせがんだ。
「早く出して……陛下の精液が欲しいのっ……ああ……お願い早くぅっ……!」
「フフ、いいだろう……」
 身も心も手の中に堕ちたディードリットの様子に、インキュバスは圧し掛かるように倒れ込むと、それまで以上に激しく腰を動かした。
 ディードリットの華奢な体が悲鳴を上げそうなほど、勢いよく力強い出し入れに、快感は限界を超えたその先まで高まっていく。
 インキュバスはハイエルフの極上の体を味わい尽くしながら、膣奥へと魔力を帯びた精液を放った。
「出すぞ、ハイエルフの小娘!」
 狭い膣内で男性器が一気に膨れ上がり、それが弾けるように射精が始まる。叩きつけるような熱く激しい射精に、ディードリットは再び昇りつめていった。
「あああああっ! イク! イクイクイク! ふあぁぁぁぁぁーーーーっ!!」
 激しく射精を続ける男性器に、絶頂に震えた膣襞が絡み付く。子宮に収まりきらない程の精液を注いだインキュバスは、絡み付く膣襞を引き摺るようにして、ゆっくりと男性器を引き抜いた。
「さてと……お前の心を取り込ませてもらおうか」
 パーンの精神世界に存在しているディードリットは、言わば精神体のような存在だ。それが他の何かに取り込まれてしまえば、現実の肉体に心は戻らなくなる。
「お前を取り込めば、この男の心も抗うのを止めるだろう」
 それこそがインキュバスの最大の目的だった。
「あ……あぁ……ぅ……あ……」
 ディードリットの意識は半ば崩壊していたが、絶頂の余韻の中、インキュバスの声はしっかりと届いていた。
(私……消えるの……もう……パーンとは会えない……)
 存在の全てに絶望感が広がっていく。
 精神体としてのディードリットの命は、風前の灯と言ってもいい。もう逃げ出す事などできるとは思えなかった。


 その頃、現実世界でもある変化が起きていた。
「あなた……」
「……これは」
 パーンと折り重なるように眠っていたディードリット。その閉じた瞼の間から、一筋の涙が零れる。頬を伝って流れ落ちた涙は、そのままパーンの口元へと落ちた。
 その瞬間、これまで一度も反応を見せなかったパーンが、その腕を持ち上げた。
 筋力が衰え細くなった腕で、パーンがディードリットを抱き締める。
 それ以外には何の反応も見せず、言葉も発する事は無かったが、見つめていたレイリアは溢れる涙を堪え切れなかった。
 きっとディードリットはパーンを目覚めさせられる。それは、そう確信を持てるような光景だった。


「む……何だこれは……」
 いよいよディードリットを飲み込もうとしていたインキュバスが、違和感を感じて戸惑いの表情を浮かべる。
 目の前のディードリットとは別の力が、どこからともなく溢れ出してくるのを感じていた。
 ディードリットを組み敷いたまま、険しい表情で周りを覗うが、何も変った様子は無い。暫くは警戒していたインキュバスだったが、そのまま何も無いと分かると、改めてディードリットを取り込もうとする。
 だがその背後に、ゆらりと影のようなものが現れていた。
 インキュバスには全く気配を感じさせず、その影は瞬く間に輪郭を明瞭にさせていく。
「……」
 しかしインキュバスは全く気付くことなく、好色な笑みを浮かべながら、ディードリットへと手を伸ばした。
「いくぞ……」
 だがその手がディードリットに届く事は無かった。
 背後の影がいきなりその存在感を示し、インキュバスは慌てて背後を振り返る。そこに居たのは、錆びた剣を手にした若き騎士の姿だった。
「お前は……!」
 カシューを模したインキュバスの顔が、驚きで目を見開いた状態で固まる。そしてその首に赤い亀裂が入ったかと思うと、そのまま首だけが切断され落ちていった。
「……ディード……ディード」
 インキュバスを切断した剣を捨て、呆けたように目の焦点が合っていないディードリットの肩を揺さぶる。
(誰……誰が呼んでるの……)
 崩壊しかけた意識の中に、その声が届いていく。
 冷め切っていた心が温められ、全身に力が満ちていく中、ディードリットはゆっくりと我に返った。
「はぁ……パー……ン……」
「そうだよ、ディード」
「パーン……パーン……! パーン!」
 ここがパーンの精神世界だということも忘れ、ディードリットは喜びを溢れさせながら抱きついた。
 精神世界とはいえ再び言葉を交わせた喜びに、ディードリットは堪えようともせず、込み上げる感情のまま涙を溢れさせた。パーンは優しい光をその瞳に宿らせ、その美しい髪を撫でていた。


「そう……だったの……」
 ディードリットの昂ぶった感情が落ち着いてくると、パーンはゆっくりと話しはじめた。地下牢に居た時から、その意識の大半をインキュバスに囚われていた事。ディードリットを目の前で奪われる悔しさ、そして助ける事の出来ない自分への情けなさ。
 落ち着いた口調で全てを話すパーンに、ディードリットは胸を締め付けられていた。
 他の男達に抱かれた事実をパーンは知っている。例えそれがパーンを救う為だったとしても、深い悲しみを与えたのは事実だ。
 そして何より、今はカシューの愛妾ですらある。その激しい営みを、インキュバスが模していたカシューを相手にしてとはいえ、パーンの精神世界で見せてしまった。
「ごめんなさい……と言う資格も無いわね」
 自嘲気味にそう呟くディードリット。
 しかしパーンはディードリットを責めることなく、その強い思いは自分自身へと向けられた。
「絶対にディードを取り戻す、そう強く願っていた……でも、相手がカシュー陛下では……」
 パーンが唯一、実力でも器量でも敵わないと思っている人物、それがカシュー・アルナーグI世だ。
 もちろんパーンの周囲に居る人物には、別な意見を持っている者も多い。ディードリット自身も、だからこそカシューではなくパーンの傍に居たのだ。
 しかしパーンにとってカシューは大きな壁のような存在であり、絶対に越えられない物の象徴として、常にその心の中にあった。
「でもパーン……」
「もう何も言わないでくれ。俺も男なんだよ……ディード」
 奪われた者を取り戻すのは、自らの力でなければならない。下らない自尊心だと言ってしまえばそれまでだが、それが無ければ男として、騎士として剣を振るうことなどできない。
 その瞳の力強い光からパーンの意思が固いことを知ると、ディードリットも諦めたように小さく溜息を漏らした。
「ふぅ……昔からそうよね、貴方は言い出したら聞かないんだから」
「ディード……」
「私が本当にカシュー陛下の物になってしまう前に来ないと、手遅れになってしまうのよ?」
 そう言って微笑むディードリットの表情は、出合った頃と変わらずどこか悪戯っぽさを含んでいた。
「───ああ、分かってるさ」
 パーンもザクソンの村を出た頃と同じように、屈託の無い笑顔を浮かべてそれに答えた。




 そしてそれから数ヶ月の時が流れた───


「ハッ! ハッ!」
 城の中庭で熱心に剣を振るパーンの姿がある。筋力はまだ完全には戻ってはいなかったが、その振りは以前と遜色ないほど鋭さを取り戻している。
「そろそろ一休みしませんか? まだ病み上がりなのですから」
「ふう……そうだな、スレイン」
 声を掛けてきたスレインから手拭を受け取り、額に浮かんだ汗を心地良さそうに拭く。そして雲ひとつない青空を見上げ、眩しそうに目を細めた。
「陛下は今頃どの辺りなんだろうな」
「そうですね、もうハイランドに到着した頃でしょうか」
 パーンが永い眠りから目覚め、その体力を取り戻しつつあった頃、カシューは唐突に歴訪の度に出ると言い出した。側近たちが慌てふためく中、スレインとシャダム、そしてパーンに後事を任せると言い残し、まずはロードス全土を周ると言って飛び出してしまった。
 せめて同行をと追いかけた騎士団も一蹴し、身の回りの世話をする者として、女達だけを伴った気ままな旅。
 国中でカシューが王位を捨てたのではないかと噂されたが、パーン達は国王の帰国を心の底から信じていた。
 大陸から渡って以降、これまでのカシューは国造りの為に精力的に働いてきた。その気力が衰えた訳ではなかったが、そろそろ少し息を抜いてもいい頃合だ。
 女達との旅を十分に楽しめば、意外と早く戻ってくるかもしれない。カシューの気性を知るパーン達は、そんな風にさえ思っていた。
「でも、よろしかたったのですか?」
「はは、スレインこそ」
 残された男二人は、そう言って互いの顔を見合う。
 パーンの恋人であるディードリットも、スレインの妻であるレイリア、そして娘のニースも、カシューの旅に同行していた。
 それがどういう意味を持っているのか知らない二人ではない。それでも二人は彼女らを自分の元に縛り付けるのではなく、その意思に全てを委ねた。
 女達も最初は戸惑い、そして迷っていたが、男達の信頼する目に背中を押され、カシューの旅へ同行していった。
「まあ、戻ってきたら俺の方がいいと言わせてみせるさ」
 そう言って再び剣を降り始めるパーン。
 その横顔を見つめながら、スレインは心の中で呟いていた。
(素直じゃありませんね……まあ、それは私も同じですが)


 抜けるように青い空の下、カシューとその女達の旅はまだ始まったばかりだ。

<to be continued?>
 

楽しめたら押してね(´ー`)