Cold Water

 

Cold Water



 マードックの世話になって一ヶ月、意識は戻らなかったもののパーンの顔色は明らかに良くなっていたが、馬での旅にはまだまだ耐えられそうにはなかった。
 このまま療養を続ければ、体力的にはかなり回復するだろう。しかし、パーンの心の回復については未知数だ。

(意識さえ戻ってくれたら……)

 意識の無いパーンを連れて旅するには、少なくとも馬車が必要だし、道中の路銀もそれなりに用意する必要がある。
 無一文であったディードリットはその費用を稼ぐために街に立とうかと思案したが、マードックがそれを察して引き留めた。

「もう少し待ちなさい。必ず私が何とかするから」
「マードック……」

 あの日から、ディードリットは毎日のように彼と体を重ねた。それは礼の意味でもあったが、同時に自分の肉の渇きを治める為でもある。ロウルの館での暮らしが、ディードリットの肉体をそこまで蝕んでいたのだ。

「あと一月もすれば近くの港町に船が入る。小さな船だがライデンまで行く商船だ」
「船が……」
「砂漠の王国へは寄航しないが、ライデンまで行けばギルドと話がつけられるのだろう?」
「そう、そうね、ライデンまで行けば……」

 フレイムの関わるギルドとも連絡がつけられるだろうし、場合によってはフレイムの人間との接触も可能かもしれない。それに何より、船なら海が荒れさえしなければパーンへの負担が軽くなる。
 ただ、その船に乗るにしても金は必要だろう。

「大丈夫、君は何も心配しなくていい」
「あ……」

 ディードリットの考えを見透かしてか、マードックは優しくそう言った。
 自分達を匿ってくれた上に、船の手配までしてくれると言うマードックに、ディードリットはどう感謝しても感謝し足りない気がした。

「ありがとう、マードック。私、なんてお礼をしていいか……」
「フフフ、お礼ならもう充分に貰っているよ」

 マードックの言葉にディードリットの頬が赤く染まる。
 確かにディードリットが高級娼婦だった事を考えれば、もう充分な額を受け取ったのと同じ事だろう。ディードリット自身はそうは思わないのだが、マードックは心の底から満足している様子だった。

***

 そして更に一ヶ月が経過した。

「これを見せれば分かるはずだ、船長にはもう話を通してある」
「……ありがとう」

 そう言ってマードックはディードリットに一通の手紙を手渡した。
 厳重に封印がされたその中には、マードックの署名で二人をライデンまで運ぶように記されている。
 そして手紙とは別に、船長に渡す金と路銀の金貨が入った袋が渡された。

「こんなに……」
「多くて困ることは無いからね。持っていきなさい」

 差し出された袋はかなりの重さで、いくらマードックが商人だとしても簡単に用意できる額ではないのは間違いない。
 その袋を受け取るのを躊躇ったディードリットだったが、自分を真っ直ぐに見つめるマードックの目を見て、素直にそれを受け取ることにした。そしていつの日か必ず、再びマードックに会いに来ようと誓う。

「ありがとう、本当に……ありがとう」
「気をつけて行くんだよ」
「ええ」

 港がある町までは、マードックが馬車を手配してくれた。何もかも世話になり、改めて感謝の気持ちでいっぱいになる。
 マードックとの別れを終えると、ディードリットはパーンと共に馬車へと乗り込んだ。 そして町までたどり着くと、馬車にパーンを残して約束の船を探しに出る。港に入っている船は一隻しかなく、ディードリットはその船の船員へと声をかけた。

「ちょっといいかしら?」
「ああん? お……エルフの姉ちゃんかよ、珍しいな」
「船長さんはいるかしら?」

 少し柄の悪い船員だったが、素直に船長のもとへディードリットを案内した。
 商船とはいってもかなり小さな船で、荒波へ出るには少し不安がよぎる。しかし今更ほかに選ぶ道もなく、これ以上はマードックの世話になる訳にもいかない。

「船長、お客さんですぜ」

 そう言って船員が案内したのは、船の中央にある小さな船室だった。
 船長と呼ばれたのはかなり体格のいい中年の男で、たっぷりと髭を蓄えてなかなかの貫禄を見せていた。

「客?」
「これを」

 予定外の訪問に怪訝そうな顔をする船長に、すかさずディードリットはマードックからの手紙を手渡した。
 手紙を受け取った船長は短刀で封印を破り、中の手紙を広げて視線を落とす。暫く沈黙したまま手紙を見ていた船長は、全て読み終えると「ふむ」と小さく声を漏らしてディードリットへと向き直った。

「運ぶのは二人だな。金は前金で頼む」
「ええ、二人よ。お金はこれで……」

 用意していた金を取り出し、間にいた船員へと手渡す。船員はその重さに少し驚きながら船長へと渡した。
 受け取った船長は袋の口を開き軽く中身を確認すると、それを机の上にあった箱へとしまった。

「出航は明日の朝だ。遅れたら置いて行く」
「わかったわ」

 これで交渉は成立、あとは出航を待つだけである。
 まだ過酷な旅は続くのだが、ディードリットは少しだけ安堵を覚えていた。

(待っていてねパーン……私が必ずカシュー王のもとへ連れて行ってあげるから)

 カシュー王のもとへ行き、スレインやレイリアの力を借りることができれば、きっとパーンの精神を回復させることができるはずだ。
 もしも万が一、回復させることができなかったとしても、かの地であれば安心して療養を続けることができる。
 それに、スレインやレイリア、そしてカシュー王の力をもってしても回復が見こめない場合は、ロードス全土を駆け回ってでも必ず回復の手段を見つけるつもりだった。
 もちろんずっと傍にいて世話したい気持ちもあるが、フレイムであれば安心してパーンを任せることができる

(きっと……きっと私があなたを……)

 パーンを乗せた馬車へと戻りながら、改めて決意を固めるディードリットだった。



 翌朝、予定通り船は港を出発した。
 船はいわゆる帆船で、風の力を受けて海の上を進む。当然ながら風が無ければ進むことができない。
 幸いにして海の上は緩やかな風が吹いており、穏やかな波の上を順調に進んでいった。

(このままいってくれれば大丈夫ね)

 季節的に今はそれほど海が荒れることは無い。海獣類などの危険さえなければ、ライデンまでは安心して行けるはずだ。
 そのせいか船員たちもかなり気楽な様子で、何かしら理由をつけてはディードリットとパーンに用意された船室へと二人を見に来ていた。
 海の上での生活が長い船員ということもあって、エルフを見るのが物珍しいのかもしれない。船員達はディードリットを見ては、その美しさに溜息を漏らす。なかには明らかに不躾な視線を向ける者もいたが、ディードリットは気にしないことにした。
 船の上では陸上よりも言伝えやしきたり、それに縁起を担ぐことが多い。船員の印象を悪くしてしまうと、色々と面倒なことになる可能性があるのだ。とにかく無事にライデンまでたどり着くためには、できるだけ無用な争いは避けるに越したことが無い。
 そんなディードリットの苦心の甲斐もあってか、航海は順調に進んでいった。

「何かあったの船長?」
「ああ、ちょっと……な」

 順調に進んでいた航海だったが、三日目の夜にいきなり状況が一変する。帆が全て下ろされ、錨も下ろされて船は完全に停船していた。
 天候にも風にも問題は無いように見えるのだが、船員はまったく動こうとはしない。
 さすがに心配したディードリットが船長に尋ねるが、船長もはっきりした理由は答えずに船員達となにやら話しこんでいる。
 不安になるディードリットだったが、船のことは船員に任せるしかない。船を進めることができない理由があるのだとしたら、早くそれが解決することを祈るしかないのだ。

(……何があったのかしら)

 航海の再開を待ちながら、ディードリットは船室でパーンに寄り添っていた。

「ちょっといいか?」

 船長が二人の船室へと現れたのは、その日の夜になってからだった。

「まだ出発しないの?」
「ああ、そのことなんだがな……」

 少し苛立ちながら問いかけるディードに対して、船長の態度はどこか歯切れが悪い。明らかに何かを隠している、あるいは言い出しにくいことがあるといった様子だ。
 ディードリットとしてはできるだけ早くライデンへと向かいたかった。外敵に狙われる可能性は少なかったが、船上という環境は微妙な揺れもあってあまり好ましいとは思えない。

「実はな、連中があんたの連れのことが気になると言い出しやがって」
「私の連れって、彼のことが?」

 船に乗ってからパーンは船室から一度も出ていないし、乗り込む時も目深に外套を被っていて顔すら見えていなかったはずだ。そんなパーンのことを、どうして船員達が気になるというのだろう。それとも、隠していることで逆に彼らの注意を惹きつけてしまったのだろうか。

「そうなんだ。俺たち船乗りの間ではな、そのなんだ……頭のおかしくなった奴は船に乗せるなって言われてるんだ」
「頭のおかしくって……!」

 船長としては言葉を選んだつもりなのだろうが、それでもディードリットは憤る。
 確かに精神を司る精霊の力は弱まっているが、気がふれてしまった訳ではない。体力的な面では回復してきているし、しかるべき治療を施せば必ず元のように戻るはずなのだ。

「いやいや、悪気は無かったんだ……すまん」

 今にも腰の細刃の剣を抜きそうなディードリットの迫力に、船長は慌てて自分の非礼を詫びた。ディードリットも無駄に争いを起こすつもりはなく、そんな船長の態度を冷静に受け入れる。

「……それで、船員達はどうしたいって? 港に戻って私たちを降ろす?」
「それなんだがな、昔からこの地方の船乗りに伝わる儀式があってな、あんたにそれをやってもらえるなら……そのなんだ、連れのことも気にしないと言うんだ」
「儀式?」
「ああ。ある言い伝えがあってな、それに関係することなんだが……」

 そう言って船長は船乗りの間に伝わるという、その言い伝えを語り始めた。


 それは遥か昔、まだ神々が人々と共にあった時代。とある港町が嵐に襲われた。
 その港町はほぼ全ての家が漁で生計を立てており、嵐で船が出せないのは経済的な打撃へと直結する。しかもその嵐は一日二日では収まらず、三日、五日と続いた。
 そして十日が過ぎることになると、町の人々もこれがただならぬ嵐だということに気付き、呪い師を集めてその原因を探らせた。
 集められた呪い師はそれぞれ理由を上げていくが、そのどれを解決しても嵐が収まる気配はなかった。
 そして嵐は一ヶ月も続き、人々の中にはその町を離れる者まで現れた。いよいよこれは町の存亡に関わるとなったとき、ある呪い師の元に海を守る潮の神が言葉を使わした。
『花嫁をひとり捧げよ』
 もう他にすがるものもなくなっていた人々は、その呪い師の言葉に従って身寄りの無い娘を花嫁として差し出すことに決めた。
 そして娘に花嫁衣裳を着せ、荒れる海に突き出した岬の先端へ娘をひとり置き去りにする。すると翌朝、まるで嘘のように嵐は過ぎ去り、一ヶ月ぶりの青空が覗いていた。
 そして岬に置き去りにされた娘の姿は消え、その代わりに岬には大きな錨が残されていたという。


「それで、その言い伝え通りに私を花嫁にでもするつもりなの?」
「まあ、そういうことなんだが」
「本気で言ってるの?」

 ディードリットとしては、そんなくだらない儀式になど参加するつもりはない。ただ、それで船員が納得して航海を続けてくれるのであれば、仕方が無いかとも思う。

「儀式といってもな、たしいたものじゃないんだ」
「こんな船の上でやるんだもの、当然でしょう」
「とにかく、あとで呼びに来させるから頼むよ」
「……仕方ないわね」

 船長は申し訳無さそうに頭を下げると、ディードリットたちの船室から出て行った。

「儀式ね……」


 暫くすると、船員のひとりがディードリットを呼びに現れた。小柄で髭面のその男は、ニヤついた笑みを浮かべながらディードリットのことを見つめている。

「甲板へ行けばいいのね」
「へい」

 粘り気のある男の視線が体の上を這い回り、独特の嫌悪感がディードリットの背筋を駆け抜けていく。それは娼館やロウルの館で何度も感じた感覚だ。
 そんな男の視線に嫌なものを感じながらも、仕方なく後に続いて甲板へと上がっていく。
 狭い船室から久しぶりに顔を出すと、ひんやりとした潮風がディードリットの頬を撫でた。夜空には綺麗な月が昇り、海は波もなく実に穏やかだ。

(いい風ね……)

 甲板にはかがり火が焚かれ、何人かの船員が車座になって杯を傾けていた。船長はその輪の中にはおらず、ディードリットが周囲を見渡しているといきなり背後から声をかけられた。

「お手数をかけしますな」
「……手短に済ませてね」
「分かってますよ」

 ディードリットに儀式への参加を頼んだことを申し訳なく思っているのか、船長の態度もすっかり下出になっている。

「それで、私はどうすればいいの?」
「まず、あそこの男達を周って酒を注いでやってください。それから、輪の中心で踊りを」
「踊り? 私に躍れっていうの?」
「いや、簡単な踊りで結構ですから」

 そう言われても、いきなり男達の前で踊るというのも気の向かない話だ。酒を注ぐだけならまだしも、そこまでするのかと思うと気が重くなる。
 そんなディードリットの様子を感じ取ったのか、船長は卑屈な笑みを浮かべながら揉み手まで始めた。

「……それで終わりなのね?」
「ま、概ねそんな感じだと……。実は俺、あまり詳しくなくてね。分からないことがあれば、輪の中にいる爺さんに聞いてくださいよ」
「そう、分かったわ」

 どうしてもやらなければならないのであれば、早く終わらせてしまいたい。少しでも早く航海を再開させられれば、それだけ早くパーンをカシュー王の元へ連れて行けるのだ。
 やや諦めにも似た心境で、ディードリットは男達の輪の中へと歩いていった。


「どうぞ」
「おお、悪いなエルフの姉ちゃん」
「はい、お酒です」
「ははは、こんな美人に酌してもらえるとはな」

 男達の間を周りながら、皮袋から木製の粗雑な杯へと酒を注いでいく。
 船員達の杯を満たしていくのは、動物の乳から作った発酵酒だ。娼館やロウルの館で出されていた葡萄酒や蒸留酒などは、船員達の手が届く酒ではない。
 そして気が付くと、船長まで輪の中に加わってディードリットが周ってくるのを満面の笑みを浮かべて待っていた。

「……どうして船長までいるのよ」
「いやぁ、爺さんの話だと俺が『潮の神』の役どころらしいんですわ」
「どういうこと?」

 ディードリットの疑問に答えるように、船員の中で最も年かさの男が船長の話を引き継いだ。

「まずわぁ、花嫁が男衆の間を周って酒の相手をする───それからぁ、男衆の前で服を脱いでぇ、花嫁衣裳に着替えるんじゃぁ」

 もうすっかり酔っ払ってしまっている「爺さん」は、赤ら顔で思い出話でもするように言った。
 その「爺さん」の説明では、男達の前で花嫁衣裳に着替えた女は、潮の神である男のひとりと契りを交わして神族の席に加わるのだという。
 大人しく説明を聞いていたディードリットだったが、話し終えた爺さんが酒臭い息を吐き出すのと同時に、隣に座っていた船長へと怒りをぶつけた。

「ちょっと、どういうことなの!」
「い、いやぁ、まさかそんな儀式だとは……」
「こんな儀式、馬鹿げてるわ!」

 お酌して周る程度に思っていたものがそんな淫らな儀式だと知らされて、ディードリットは怒りのままに立ち上がって船長を睨みつけた。
 その鋭い視線に突き刺された船長は、あいかわらず卑屈な笑みを浮かべたままで、それまで普通に杯を傾けていた船員達は、舐めるような視線でディードリットを見つめていた。
 少し異様な雰囲気を感じ取って、そのまま甲板の上を後ずさりしていく。そして手探りで腰の剣を探すが、愛用している細剣は酒を注ぐのには邪魔だと外してあった。

「まあまあ、そんな怖い顔しなさんな、エルフのお姉ちゃんよぉ」
「……」
「でもなぁ、あんたが儀式をやってくれないとなると、代わりにお連れさんを潮の神に捧げないかんわなぁ……贄として」
「くっ……」

 男達は口元を歪めるようにして笑いながら、口々にディードリットを囃し立てる。船長はそんな船員達を諌めようともせず、何か衣装のようなものを用意していた。

「……本当に、それで船を動かしてくれるんでしょうね」
「それは大丈夫ですよ、船長の俺が責任もって言うことをきかせますから」
「よく言うわ」

 自分が潮の神の役どころを勤めるとあってか、船長は積極的に儀式を続けるつもりらしい。その目はもう欲望の色に染まり、ディードリットの体を舐めるように見つめている。
 そしてその手には、薄布を張り合わせただけのような衣装を持っていた。

「それが花嫁衣裳ね」
「はい。爺さん、これに着替えてもらえばいいんだよな?」
「ああ、そうじゃ。踊り子のように腰を振って脱いでもらって、それから着替えるのが習わしなんじゃ」

 酔った爺さんがどこまで本当のことを言っているのか分からないが、とにかく言う通りにするしかないということだけは分かる。
 船長から手渡された花嫁衣裳を見つめながら、ディードリットはどう行動すべきか悩んでいた。

(……本当にこの一度きりで終わるのかしら)

 船長や船員が根っからの悪人とは思えなかったが、外界とは隔絶された海の上で、周囲は男ばかりで女はディードリットただひとり。その状況を思えば、これから自分の身にどんなことが待ち受けているのかは自明の理だ。
 ライデンの港まで少なくともあと2日以上はかかる。その間だけ耐えれば済むことなのだからと、ディードリットは自分自身に言い聞かせた。

「わ、分かったわ……」
「おお、それじゃあ早速」

 船長は輪の中に戻ると、その輪の中心へとディードリットを招き入れた。
 取り囲む船員達は、期待に満ちた瞳でディードリットを見つめている。

「さあ、躍ってくださいよ」

 船長のその言葉を合図に、船員達は一斉に手にしていた杯で甲板を打ち鳴らし始めた。とても単純な音ではあったが、それだけに一定のリズムを刻まれると追い立てられているような気分になってくる。
 その音に急き立てられるようにして、ディードリットはゆっくりと体を動かし始めた。

「ぅ……」

 カン、カン、カン、と打ち鳴らされる杯の音。
 月明かりとかがり火に照らされながら、ディードリットの細くしなやかな指先が腰の紐を震えながら解いていく。
 男達の酔った視線が突き刺さり、体の奥に火種となって灯っていく。

「はぁ……はぁ……」

 腰の紐を外してしまい、袖から腕を抜くようにして貫頭衣を脱ぎ落とす。元々重い皮鎧は身に着けておらず、ディードリットは下腹部を覆う薄い白布一枚の姿になってしまった。
 それでも船員達は杯を打ち鳴らすのを止めず、最後に残った白布まで取るようにと急き立てた。

(これも……なのね……)

 諦めたように腰に手を伸ばし、その布を解いていく。
 そしてその白布が甲板へ落ちてしまうと、ディードリットの体を覆う物は何ひとつ無くなってしまった。
 すると男達は杯を打ち鳴らしていた手を止めて、静かに黙り込んでしまった。
 それでも視線は舐めるようにディードリットの体の上を這い回り、船員達が脳内で彼女のことを視姦しているのは明らかだ。

「くっ……はぁ……」

 そんな目で見られることには慣れているが、いままでに相手してきた男達とは違い、海での暮らしが長い男達の視線は遠慮というものがない。
 美しくもささやかな胸の膨らみや、下腹部を覆う淡い茂りへと視線は集中している。
 だが、儀式はその美しい裸身を晒して終わりという訳ではない。ディードリットは床に置いてあった花嫁衣裳を拾い上げ、自分を落ち着かせながら袖に手を通していった。
 それは衣装と呼ぶにはあまりに薄い布地で、どうしてこんなものが船の上にあるのかと思わせるほど繊細だった。

(まさか最初から……)

 そのつもりで用意していたのではないか、そう思ってしまうのも仕方が無いだろう。
 だが、今はそんなことを言っていても始まらない。腕と首を通したディードリットは、細い紐で花嫁衣裳の腰を縛った。

「これでいいかしら……」
「おお、こいつは別嬪さんだぁ」

 ほとんど寝かけていた爺さんが、ディードリットの声で思い出したかのように声をあげる。たしかに、簡素ではあるが薄い布地に身を包んだディードリットは、神族の花嫁に相応しいだけの美しさがあった。

「ほいたら、潮の神様とぉ……結ばれるんじゃぁ」
「僭越ながら、努めさせていただきます」
「よっ、いいぞ船長〜」
「羨ましいなぁ、カミさんに言いつけてやるべかぁ」

 喜色満面、ディードリットを抱ける喜びを隠そうともしない船長を、酔った船員達が囃し立てる。

「うるせぇっ! こいつは大事な儀式なんだからな!」

 顔を赤くした船長は船員達を一喝すると、ゆっくりとディードリットへと歩み寄った。

「すいませんね、お客さん」
「……いいから、早く済ませて」

 男達の視線で体の火照りを覚え始めていたディードリットは、呟くようにそう言うのが精一杯だった。
 その姿はまるで、嫁入りを恥らっている花嫁のように見えなくもない。船長はそんな可憐な花嫁の腰を抱き寄せると、いきなりその唇を奪った。

「んっ、んんっ……!」

 かなり大柄で背の高い男なせいか、ディードリットが爪先立ちになって上を向き、船長が腰を曲げてようやく唇が重ねられる。
 腰を抱かれているとはいえ、爪先立ちになっているディードリットは、次第のその脚が震え始めた。

「んく……ちゅ、ちゅぅ……ん……んふぅ……んちゅ……」

 船長はたっぷりとディードリットの唇を吸うと、そのまま唇を割り開くようにして舌を潜り込ませていった。
 色々な男達に抱かれる生活を続けてきたせいか、行為が始まってしまうとディードリットの中で何かが切り替わってしまう。ここがどんな場所で、相手が誰であろうとも、体が自然に男を喜ばせようとしてしまうのだ。
 口腔を船長の舌で刺激されると、体の奥から熱いものが溢れ出してくるのが分かる。自然に自分からも船長の背中へと腕を回し、熱心に舌を絡めていく。

「ん、んふ……ちゅる……ちゅ、ちゅぱ……ん……ん……」

 震える脚で爪先立ちになりながら、頬を染めて男の唇に吸い付くディードリット。その金色の細く美しい髪が潮風に揺れ、特徴的な耳の先が小さく震えるように跳ねる。
 船員達はその情熱的ともいえる口付けに見入ってしまい、中には呆然と口を開いて見ている者までいた。

「んふ……うぅん……ちゅ、ちゅ……あむ……んっ、んんっ……」

 船乗りらしい大きく硬い手に抱きしめられていると、その男らしさにディードリットの中の女の部分が刺激される。逞しい男に組み敷かれ、熱く潤んだ蜜壷をその剛直で貫かれたいと、雫が太股の柔肌の上を流れ落ちていくかのようだ。

「んんっ……んちゅ……はぁ……」
「さあ、これは脱ぎましょうか」
「ん……」

 ディードリットの薄い唇を思う存分に堪能した船長は、熱い口付けに呆けてしまったかのようなディードリットの腰紐を解いていく。

「ほら、手を上げて」

 船長の言葉のままに力なく手を上げると、透けるように薄い花嫁衣裳が脱がされていった。
 再び船員達の前で全裸になると、その火照った肌の上に遠慮の無い視線が突き刺さってくる。
 船長はそんなディードリットの腕を取ると、指の先から手の甲、そして腕から肩へと舌を這わせていく。背筋の震えるようなその刺激を味わうディードリットの瞳は、恍惚として揺れていた。

「はぁー……はぁー……はぁー……」
「ちゅぅぅ、れろぉ……れろぉ……ちゅ……」

 二本の腕を味わい尽くすと、今度は首筋から鎖骨へと舌を移動させ、そのまま胸元へと下りていく。両腕から胸元まで、なにかが這い回ったかのような唾液の後が続いていった。
 その舌の動きを恍惚とした表情で受け入れながら、ディードリットは熱い吐息を漏らして胸を上下させる。

「はぁー……はぁー……」

 そしてディードリットの乳房へと舌を這わせ始めた船長は、再び抱きしめるようにして甲板の上へと寝かせていった。
 仰向けになったディードリットへと覆いかぶさり、小振りな胸の膨らみを揉みながら丁寧に愛撫していく。桜色の小さな乳首は硬く尖り、船長の舌が触れるたびに甘美な刺激を生み出し、それを全身へと伝えていった。
 周囲の船員達は声も無く二人の姿を見つめ、次第に異様な雰囲気が甲板の上を包み込んでいく。
 情報を得る為に娼館では男達に体を売り、ロウルの館では性奴隷のような日々を過ごしてきた。パーンしか知らなかった体は、もう数え切れないほどの男達を受け入れてしまった。
 そんなディードリットでも、これだけの人数に見られながらというのは経験がない。
 見つめられながらの脱衣と着替え、そして船長との口付けから愛撫まで、常に男達の視線が火照った肌に突き刺さっていた。

「あっ……あんっ……んんっ……」

 船長は小さな乳首に吸い付いては、舌先で弄んだり甘噛みしたりとディードリットを高めていく。
 まだ上半身を愛撫されただけだというのに、ディードリットの体の芯はもう蕩けきってしまっている。覆いかぶさってきた船長の体の下で、切なげに太股を擦り合わせる。その奥で蠢く秘唇の間からは、発情した牝の匂いが漂っていた。
 そして船長もディードリットの神々しいまでに美しい肢体に興奮し、服の下では男性器を隆々とそそり立たせていた。覆いかぶさった船長の体が動くたびに、その膨らみがディードリットの体に触れる。

(あぁ、もうこんなに硬く……)

 牡の象徴だと言わんばかりに硬くなったその膨らみの逞しさに、切なく喘ぎながらそっと手を伸ばしていく。

「はぁ、はぁ、んっ……あっ、あぁんっ……んくっ……」
「あぅ……」
「こんなにして……んんっ……く、苦しそう……ね」

 ディードリットに軽く撫でられると、船長は少年のように喘ぎながら腰を引いた。触れられただけで射精してしまいそうなほどに、もう興奮が高まってしまっているのだろう。
 いかにも海の男といった風体の外見とは違い、どうやらあまり女性経験は無いようだ。
 ディードリットはそれが好ましく思え、船長に対して抱いていた印象が微妙に変化してくる。

「今度は……私がしてあげるわ」
「へ……」

 そう言って体を起こそうとするディードリットに、船長は戸惑ったような表情を浮かべる。ディードリットは構わずに体を起こしてしまうと、船長に服を脱ぐように言った。

「早く」
「は、はい」

 もう完全に主導権はディードリットへと移っていた。
 海の上での暮らしが長くあまり女を知らない船長と、経験豊富なディードリットとではそもそも対等にはいかないのだ。自然とディードリットがリードするようになってしまう。
 船長もそれは感じ取っている様子で、素直にディードリットの指示に従って服を脱いでいった。
 律儀に素っ裸になってしまうと、体格に見劣りしないだけの大きさのものが天を向くようにそそり立っていた。

(すごい……)

 その大きさだけなら、たぶんこれまでに見たどの男にも勝っているだろう。そしてなにより、禍々しいまでに笠の部分が大きく広がっていて、それがこれから自分の膣内を擦るのだと思うと、ディードリットもその大きさと形に見入ってしまう。

「……」
「あの……」
「あ、うん……こっち来て」

 彼女の視線に耐えかねた船長が声をかけると、我に帰ったディードリットは船長を招き寄せた。
 そして甲板へと腰を降ろしたまま、船長の男性器へと手を伸ばす。根元から両手で握ってもまだ余るほどで、小柄なディードリットの体には凶器ともなりかねない大きさだ。
 そんな逞しい男性器を両手でゆっくりと扱きながら、おもむろに顔を近づけていく。
 微かな吐息が先端部分に触れて船長が身小さな声を漏らした。

「ぅ……」

 顔を近づけたディードリットは、唇を軽く唾液で湿らせてから優しく口付けをした。

「ちゅ……」

 そして大きく笠を広げた先端部分の周囲を、唾液をまぶすようにして舌で舐めていく。一周、二週とディードリットの舌が舐めていくと、たちまち男性器の先端は唾液に濡れて光り始めた。
 船長は気恥ずかしそうな顔でディードリットを見下ろしながら、その奉仕に大人しく身を任せている。

「れろ、れろ、れろ……ちゅ、ちゅ……ぺろ……ちゅ……」

 優しく袋や玉までも揉みしだきながら、少しずつ舌が大胆に動き出す。裏側の筋や広がった笠の周囲などを、尖らせた舌先で巧みに刺激し始めた。
 船長達が買えるような港町の娼婦では、とても味わえないような奉仕が繰り広げられる。
 高級な娼館で覚えたその技巧もそうだが、なにより決定的に違っているのは奉仕するディードリットの心根だ。
 自分から望んだ関係ではないにも関わらず、奉仕をするとなれば相手がどんな男であれ愛情を込めた情熱的な奉仕をする。
 それは娼館で働く日々の中で必要に迫られて身に付けたものだったが、そんなことを知らない相手は、つい目の前のエルフが本気で自分を愛しているのではないかと錯覚してしまうほどだ。

「ぺろ……ちゅ、ちゅ……あむ……ん……ん……ん……」

 先端部分をたっぷりと唾液で濡らしてしまうと、今度はその薄く愛らしい唇が広がった笠の部分を咥えていく。赤い舌先を覗かせながら少しずつ深く咥えて、口全体を使って刺激していくのだ。
 口の中にたっぷりと唾液を溜め舌を絡ませながら吸い付いては、激しく音をたててしゃぶりあげる。
 その表情や口元から覗く舌使い、そして音に興奮をかきたてられた船員達は、誰もが股間を硬くさせて前のめりになっていた。

「んっ……ぢゅっ、ぢゅるっ、ぢゅぷっ……んぷ……んっ……んっ……んっ……」

 口を塞がれているために鼻で息を抜き、金色の髪を揺らしながら頭を前後させる。
 船長は蕩けたような表情で天を仰ぎ、その快感に身も心も夢中になっていた。

「んふぅ……んっ……んんっ、んくっ……ちゅぱ……あむ、んっ、ぢゅるぅぅっ」
「うぅ……くぅ……」

 必死になって射精を堪えているのだろう、船長は時折苦しそうな声を漏らす。
 ディードリットは素直に出してしまえばいいと思うのだが、男としてそうはいかない部分もある。なにより、この快感を味わい続けたいという思いも船長にはあった。
 だがその頑張りも、激しくなっていくディードリットの奉仕の前には無駄な抵抗でしかない。
 喉の奥まで咥え込むようにしてしゃぶられると、船長の我慢も海の藻屑となって消えてしまった。

「くっ……で、出るっ、出ますっ……!」
「んっ……!」

 そう言っていきなりディードリットの頭を掴むと、そのまま喉の奥へと勢いよく射精を始めた。
 ディードリットはそれを辛うじて受け止め、むせることなく口の中へと溜めていく。

「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ん……んん……」

 狭い口腔内で船長の男性器は勢いよく跳ね、大量の精液を放ち続ける。
 気を許せば溢れ出しそうなほどの量の精液を受け止め、ようやく船長の射精は終わった。

「んふ……ん……ごく、ごく、ごく……」

 口の中に溜まった精液を、射精の快感の余韻に浸る船長を上目使いに見上げながら飲み干していく。その淫蕩な光景だけで、射精したばかりの船長のものは再び天を向いてそそり立ってしまう。
 全て飲み下してしまったディードリットは、彼女の唾液や精液に濡れた男性器を手で扱きながら、その先端へと軽く唇を押し付けた。

「……ちゅっ」
「あぁ……」
「さあ、儀式はあと少し……これで花嫁をオンナにして終わりね」
「そ、そうです!」

 鼻息も荒く叫ぶ船長に微笑みながら、ディードリットは再び甲板の上で仰向けになった。そして太股を自らの手で抱えるようにして、両脚を左右に開いてみせる。
 開いていく脚に合わせて秘肉も左右に綻び、濡れた秘唇が桜色の姿を覗かせた。そこはもう充分な潤いを見せており、いつでも男性を受け入れられる状態になっている。

「……きて」

 その言葉を合図にして、船長はお預けを食らっていた犬のように、ディードリットの痩身へと飛び掛っていった。

「あんっ」
「くぅっ」

 そして勢いのままに挿入すると、堪えきれないといった様子で激しく腰を動かし始める。
 それは技巧といったものは一切感じられない、とても単調なものだった。しかし、海の男らしい逞しさがあり、その大きさと相まってディードリットへ強烈な快感をもたらした。

「んんっ、あっ、あぁんっ、あんっ、あんっ、あんっ……はぅんっ!」
「はっ、はっ、はっ……」

 餓えた野獣のように息を吐き出しながら、船長はひたすら腰を打ち付けていく。
 ディードリットが思っていた通り、大きく広がった笠の部分は濡れた膣襞を思い切り擦り上げ、膣内に溜まっていた蜜を外へと描き出している。
 そしてやはり小柄な体のディードリットには船長の男性器は大きかったとみえ、その挿入の圧迫感は尋常ではないものがあった。

「はぁっ、はぁっ……んんっ……い、いっぱい……いっぱいになってるっ……!」

 膣穴は限界まで広がって船長のものを受け止めているが、それが出し入れされるたびに悲鳴を上げる。
 だがそれもディードリットには快感でしかなく、船長が腰を打ち付けるたびに鋭い快感が背筋を駆け抜けていくのだ。

「あんっ、あっ、あっ、あっ、んんっ、くぅっ……はぁ、はぁ、はぁ……くふぅっ」
「こ、腰が止まらねぇっ!」

 彼女の口腔へと射精したばかりだというのに、船長は早くも切なげな声を漏らし始めている。
 それでも船長は熱心に腰を動かしディードリットの狭い膣内を責め立てていくが、いかんせん下は固い甲板だ、動きが激しくなるにつれディードリットの背中に痛みが走り始める。耐えられないほどの痛みではなかったが、その痛みのおかげで行為に没頭できなくなるのが辛い。
 ディードリットは我慢しきれずに船長の頭を引き寄せ、その耳元で囁いた。

「んっ……わ、私が上になるわ」
「は、はい」

 素直に従う船長の胸板を押すようにして上半身を起こすと、繋がったままの状態で器用に体勢を入れ替えていく。
 そしてそのまま船長を甲板の上に仰向けで寝かせると、その体を跨ぐようにしてディードリットが上になった。
 今度は船長の背中が痛むことになるが、ディードリットとは違い屈強な体だ、多少のことでは根を上げることはないだろう。それになにより、船長はディードリットとの甘美な行為に夢中でそれどころではない。

「はぁ……ん……やっぱりこの方が楽ね……んっ……」

 ディードリットは船長の熱い胸板に手を置いて体を支えると、その細身の体を弾ませるようにして腰を上下させ始めた。
 引き締まったお尻の下で、淫らに濡れた肉の棒が秘肉を巻き込むようにして激しく出入りする。月明かりとかがり火の下で見るその光景は、その淫らさで見ている者の欲望を鷲掴みにする。
 気が付くと周囲の船員達は身を乗り出して眺めながら、股間のものを取り出して思い思いに扱き始めていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……んっ、んんっ……あんっ……あっ、あっ……い、いい……」

 船長の力強い抽送も快感は大きかったが、やはりディードリット自身で動いた方が的確に快感の因子を捕らえることができる。
 ささやかな胸の膨らみを揺らしながら、淫らにくねる腰を上下に弾ませる。長く太い男性器に奥深くまで貫かれ、次第にその腰の動きは速さを増していく。

「ああっ、こいつは凄い……うぅ……」
「んっ……船長も……凄いわよ……んっ……こんなの……初めて……あんっ……」

 ディードリットの小さな膣穴では、その全てを納めることができないほどの大きさだ。これで船長にロウルのように巧みな性技があれば、女泣かせの船長として港ごとに美姫を囲うこともできただろう。
 だが、生憎とこの船長にはそこまでの甲斐性は無い。それどころか、娼館仕込みのディードリットの腰使いに、射精を堪えるだけで精一杯なのだ。

「あっ、あっ、あっ……くぅっ……はぁっ……うぅんっ……!」
「だ、駄目だ……もう出ちまうっ」
「もう少し、もう少しよ……私も……んっ、んっ、んっ、んんーっ……!」

 少しずつ積み重ねられた快感によって、ディードリットの絶頂もあと少しで手の届くところまで来ている。
 手馴れた男ならここでディードリットに合わせて自分からも動くところだが、船長は別に理由で自分からディードリットを突き上げ始めた。
 もう込み上げる射精感を堪えきれずに、より強い刺激が欲しくなったのだ。

「くぅっ!」
「あぁんっ! あっ、あっ! やぁんっ、こ、壊れちゃうぅっ!」

 その激しさに混ざり合った二人の体液が飛び散り、間近で見ようと顔を近づけていた船員の顔へと降りかかる。だが船員はそんなことには構いもせず、凝視し続けながら激しく股間のものを扱き続けていた。

「あんっ、あんっ、あんっ、あぁっ! だめっ、もうイッちゃう、イッちゃうの!」
「あぁっ……で、出るぅっ!」

 船長が限界を叫ぶのと同時に、周囲の男達もディードリットの体めがけて射精し始めた。

「くっ……」
「うぉっ……!」
「むぅ!」

 黄色く濁った精液が降り注ぎ、ディードリットの透き通るような肌を汚していく。
 しかしディードリットはそんなことを気にもせず、絶頂を目指して淫らに腰を動かし続けた。
 そしてまず前兆が限界を超え、激しい締め付けの中で膣内へと射精する。

「うぅっ……!」

 まるで噴火でもしたかのような強烈な射精で、膣内を駆け抜けた精液が一気に子宮を埋め尽くしていく。熱い体液に体の奥から温められて、体の体温が一気に上昇していくような錯覚すら覚える。
 そして最後に、ディードリットが船長の体の上で達した。

「んんっ……イ……イクッ……!」

 大きく仰け反るようにして天を仰ぎ、絶頂の中でその体を小さく震わせる。
 そしてその震えが止まると、まるで糸の切れた操り人形のように、船長の厚い胸板へと倒れこんでいった。

「はぁ……はぁ……はぁ……」




 儀式が終わると、ディードリットは貴重な飲み水で体を洗うことを許され、船員達はそれぞれの部署に戻って船を動かす準備を始めた。
 男達は意外なほどあっさりと儀式の終わりを受け入れ、ディードリットが拍子抜けしてしまうほどだ。

「これで……終わりなの?」
「ええ、連中も納得したようです」
「そう……」

 終わった直後はそのまま船員達に輪姦されるものだと思っていたが、船員達にとって儀式を終えた花嫁役の女は神聖なものらしく、誰ひとりとして手を出そうとする者はいなかった。それどころか、ディードリットを見る目はまるで女神を敬うかのようだ。
 その視線に妙な居心地の悪さを感じはしたものの、無事に航海が再開されたのであればディードリットとしては問題なかった。

「パーン……明日には港が見えるはずよ」
「……」

 相変わらず無反応なままのパーンに語りかけるディードリット。
 果たしてカシュー王の元へたどり着ければ、それでパーンの症状が改善するのであろうか。
 ひょっとしたら、一生このままで過ごさねばならないのではないか。そんな不安が消えないわけではない。
 それでもカシュー王の持つ権力、そしてレイリア達の力を借りれればと信じる他は無い。

「……待っててね、絶対に私が治してあげるから」

 目の前にいる彼女を見もしないパーンにそっと口付けし、ディードリットは彼を抱きしめるようにして毛布に包まった。

<つづく>