青いドレスの誘惑

 

青いドレスの誘惑

 控えめに大神の部屋の扉をノックする小さな音。
 シャノワールでの仕事を終えて帰宅し、そろそろ眠ろうかという頃。
 時計の針は午前1時を過ぎていた。
「誰だい?」
「……私だ」
 扉越しに聞こえて来たのは、聞き覚えの有る凛とした声。グリシーヌだ。
「どうしたんだい、こんな時間に…」
 扉を開けてグリシーヌを迎え入れようとした大神の視線に飛び込んで来たのは、レビューの時と同じように、瞳の色と同じ青いドレスを身にまとったグリシーヌだった。
 少しだけ俯きながら大神を見上げるグリシーヌ。
 その瞳は普段の彼女が見せる事の無い、弱々しい光りを宿していた。

 部屋の中へと招き入れた後も、グリシーヌの態度はどこか落ち着きが無く、大神と視線を合わせようとしない。
「……どうしたんだい?」
 努めて優しい声音で訊ねる大神に、グリシーヌは無言で応える。
 少し呆れたように肩をすくめると、大神はお茶を入れる為にキッチンへと歩き出した。
「た…隊長…」
「何だい?グリシーヌ」
「い、いや……何でも…ない…」
 キッチンへと向かおうとした大神を呼び止めたグリシーヌだったが、その後の言葉が続かない。
 そして振り向いた大神の視線を避けるように、沈んだ瞳を冷たい床へと落とした。
 薄々とでは有るが大神は気付いていた。
 日本に居た頃にも、こんな事が何度かあったのだ。
「そのドレス……」
「え……ああ…これか…」
「良く似合ってる。綺麗だよ…グリシーヌ」
 大神の言葉にグリシーヌの頬が一気に朱に染まっていく。
 それは大神の良そう通りの反応でもあった。
 キッチンへと向かっていた脚の向きを変え、恥じらいの表情で俯いているグリシーヌへと歩み寄る。
「それを見せに来てくれたんだろ?」
 黙って頷くグリシーヌ。
「こ、今度…舞踏会で着るのだが……最初に…貴公に見せておこうと…」
「嬉しいよ」
 その言葉だけで嬉しかった。それ以上を期待しない訳ではなかったが、自分の気持ちを解ってもらえただけでも、今のグリシーヌは天にも昇る気持ちだった。
 大神の言葉に視線を上げたグリシーヌの前に、優しく微笑む大神の顔がある。
 それはゆっくりと、しかし着実にグリシーヌへと近付いていく。
「隊長………」
「二人っきりの時ぐらい、名前で呼んでくれないかな?」
「…大神……いや…一郎…」
 大神の顔が目の前まで近付き、その手がグリシーヌの赤く染まった頬へと触れた。
 頬に感じる大神の指先の感触と体温に、グリシーヌの鼓動は一気に加速していく。
「可愛いよ…グリシーヌ…」
 雰囲気に流されるままに瞳を閉じ、軽く顎を上げて大神を待つ。
 暗闇の中でそっと唇に何かが触れる感触。
 大神の両手はグリシーヌの背中へと廻り、滑らかなドレスの生地ごとグリシーヌの身体を抱きしめる。
「……一郎……」
 唇が触れ合うだけのキス。
 それは甘い香を伴って、グリシーヌの身も心も蕩けさせていく。まるで魔法のように。

「いいんだね…?」
「私は……私よりも強く…逞しい男に捧げようと決めていた……隊……一郎に…私の全てを貰って欲しい…」
 並んで簡素なベッドに腰を下ろし、大神に肩を抱かれてしなだれかかるグリシーヌ。
 その瞳は微かに潤み、声もどこか虚ろ気に大神の耳へと届いた。
 美しく輝くその髪を指先に絡め取りながら、大神はそっとグリシーヌの頬に唇を寄せる。
「あ………ん……」
「望み通り…奪ってあげるよ…」
 耳元で囁かれる大神の言葉に、グリシーヌの細く長い睫毛が微かに震えた。
「グリシーヌ…ベッドに手をついてごらん」
「こ、こうか…」
 大神の姿が視界から消えるのは不安だったが、それでもグリシーヌは素直に大神の言葉に従う。
 その姿は自信に溢れた普段の姿からは想像できい、不安げでか弱く見えるものだった。
 腰を折り曲げてベッドに手をつくと、丁度お尻を突き出した格好になった。
 大神はその背後に立ち、ドレスの上からその柔らかな脹らみを撫で始める。
「い…一郎……」
「大丈夫。俺に任せておくんだ」
 心細げに大神の名を呼ぶグリシーヌに、大神は努めて優しい声音で応える。
 そして大神の手は次の段階へと進み、ゆっくりとドレスの裾を持ち上げていった。
 少しずつ外気に触れていく肌の感覚に合わせて、グリシーヌの頬が赤く染まっていく。
「可愛いね…」
 ドレスの裾を腰まで捲り上げ、露になったレースの装飾が施された純白のショーツに、思わず大神は感想を漏らした。
「……あまり…見ないで欲しい…」
 大神の部屋を訪れようと決めた時から、こんな展開を予想していたのかどうかは分からないが、それはグリシーヌが選び抜いたお気に入りの下着でもあった。
 そっと大神の指先がショーツに触れる。光沢を持った生地は滑らかで、その素材がシルクである事を伝えている。
 大きく円を描くように丸い脹らみを撫でた後、大神の指先はその中心部へと伸びていく。
「あっ………!」
 まだ誰にも触れさせた事の無い部分に触れられ、思わずグリシーヌの口から小さな叫びが漏れる。
 大神の指先はショーツに浮かび上がった肉の脹らみを、なぞるようにゆっくりと前後に擦る。
 微かな生地の擦れる音とグリシーヌの甘く切ない吐息が、大神の決して広くは無い部屋に響く。
「……んっ……はぅ……くぅ……んふぅ……」
 その間に大神の空いたもう一方の手は胸元へと伸び、大きく開いたドレスの胸元から中へと潜り込んでいる。
 肩の出たドレスでは下着を着けられなかったのだろう。大神の手に素肌が直接触れる。
 掌の中に乳房を収めて揉みほぐす大神。その勢いでドレスの胸元から二つの乳房が零れ落ちる。
「い、一郎っ……これ以上…切なく……させないで欲しい……んぁっ…!!」
 ショーツの上を行き来する大神の指先には、既に溢れ出した蜜が絡みついて光っていた。
 薄手の生地はその蜜によって透け始め、微かに綻び始めた肉の脹らみの形が浮かび上がっている。
「分かったよ…」
 自分の濡れた指先を一瞥し、大神は両手でゆっくりとショーツを下していった。
 大神の手が進むにつれ、二つの脹らみと柔らかそうな肉の脹らみが露になる。
 綻んだ裂け目から微かに秘唇を覗かせた脹らみは、溢れた蜜がショーツとの間に糸を引いていた。
「…………恥かしい…」
 グリシーヌの背後に膝をついて覗き込む大神。その視線の熱さにグリシーヌの身体が震えた。
 そこを食い入るように見つめていた大神が両手で脹らみを左右に割ると、中に溜まっていた蜜がトロリと零れ、太股の辺りで止まっているショーツへと滴り落ちた。
 大神の鼻腔をくすぐる甘い香。その香に誘われるがままに、大神はグリシーヌの秘唇へと唇を押し付けた。
「ふぁっ……一郎っ……!!」
 わざとグリシーヌの耳に届くように音を発てて蜜を吸い、舌先を尖らせて探り当てた膣口へと押し込んでいく大神。
 押し込まれた舌で激しく膣内を掻き回され、その激しい快感にグリシーヌの膝がガクガクと振るえる。
「あっ、あぁっ!、す…凄いっ……蕩けちゃうぅっ……!!」
 上半身を支えていた両腕が崩れ、グリシーヌの身体がベッドへと倒れ込む。
 しかし、同じく崩れそうになる両足は大神が支え、辛うじて立っていられる状態だ。
 震えるグリシーヌの両足を抱くように抱え、大神はその股間に顔を埋めて激しく舌を動かし続けた。
「はっ…はっ……んんーーーーっ!!」
 息も絶え絶えに悶え続けるグリシーヌ。微かに開いた瞳は熱く濡れて視点が定まらず、全身を襲う快感に翻弄されていた。
 勢いを増して溢れ出す蜜を全て吸い上げ、その舌先でグリシーヌを蹂躙し続ける大神。
 舌先を締め付ける膣内の感触から、大神もグリシーヌの限界が近い事を覚っていた。
「も…もう……ダメ……お願い…一郎……んっ……」
 これ以上責め続ければ失神しかねない程に、グリシーヌは大神の舌によって乱されていた。
 大神は無言でグリシーヌの股間から顔を離すと、濡れた口元を袖で拭う。
「…いくよ」
 その言葉が何を意味するのか、今更聞く必要は無かった。
 グリシーヌは背後の大神に向かって頷き、微かに表情を強張らせる。
「大丈夫……力を抜いて…」
 優しく声をかけながら、大神はズボンのベルトを外す。
 そそり立った物をグリシーヌが見れなかったのは幸いだったかもしれない。
 その大きさを見れば、経験の無いグリシーヌは怯えてしまっただろう。それ程までに大神の物は大きく反り返っていた。
 蜜に濡れて光る秘唇の間に狙いを定めると、大神はグリシーヌを気遣いながらゆっくりと挿入していった。
「…ん……んんっ………くはぁっ……!」
 溢れ出した蜜を纏わりつかせて進む大神の物に、グリシーヌは肺の中の空気を全て吐き出す。
 全身を貫く破瓜の痛みに耐えながら、グリシーヌは大神を受け入れていった。
 瞬く間に大神の物が全て埋没し、二人の身体が密着する。
「全部入ったよ…グリシーヌ」
「あぁ……熱いのが……私の中に……」
 繋がった喜びに涙を流すグリシーヌ。破瓜の痛みも愛する男と結ばれた事に比べれば、全く気にならない程だった。
 暫しそのままの態勢でグリシーヌが落ちつくのを待っていた大神が、ゆっくりと腰を引いていく。
 埋没していた物が引き抜かれていく感覚は、まるで愛する男が去っていくかのような気持ちにグリシーヌをさせる。
 しかし次の瞬間、それは激しい快感を伴ってグリシーヌの体内へと戻ってくる。
「んんっ…はぁぁっ…!!」
 両手でグリシーヌの細い腰を抱え、大神が抽送を開始した。
 比較的緩やかな抽送だったが、それでも時折に鋭く大神の物が膣内を抉る。
 大神はグリシーヌの反応を見ながら少しずつ動きを加速させ、巧みに変化を付けて貫いた。
「あっ、あっ、あっ、あんっ…深いっ…んんっ…!」
 送り込まれ続ける快感に、グリシーヌは我を忘れて甘く喘ぎ続ける。
 大神の抽送によって身体を前後に揺らし、その美しい髪も宙を舞うように波打っていた。
 溢れた蜜が飛沫となって飛び散る程に激しく突き上げられ、既に破瓜の痛みなど消え去ってしまっている。
「イイっ…イイのぉっ……!、…頭が…真っ白にっ……んんんっ…!!」
 しかし、高まっていくグリシーヌを突き放すかのように、不意に大神が動きを止めた。
「え……どうして……」
 不安げな表情で振り向くグリシーヌ。
「やっぱり…グリシーヌの顔を見ながらじゃないとね」
 大神はベッドに腰掛けると、その上に乗るようにとグリシーヌを誘った。
 頬を染めて躊躇いながらも、覚束ない足取りで立ちあがると大神に跨るグリシーヌ。
 ドレスの裾を持ち上げて跨ったグリシーヌに、下から狙いを定めた大神が頷く。
 ゆっくりと腰を降ろしていくグリシーヌ。
「んっ……入って…くる……はぁっ…!」
 全てを体内へと受け入れると、大神の首に両手を廻して身体を預ける。
 目の前に迫った二人の視線が絡み合い、そのまま引かれ合うかのように唇を重ねていった。

「んっ…んっ……あんっ…!、…奥まで……届いてるっ……一郎っ……!!」
 大神の下からの突き上げにタイミングを合わせ、グリシーヌ自らも腰を上下させる。
 ドレスのスカートに隔された繋がった部分からは、絶え間なく水音が二人の耳へと届いていた。
「…はっ……んっ…はっ……はっ……あぁっ……!」
 流れるような髪を揺らしながら、大神の上で跳ねるグリシーヌの身体。
 グリシーヌは腰を動かし続けたまま何度も唇を求め、大神もその全てに応えて何度も唇を重ねる。
 始めはただ動いているだけだったグリシーヌの腰も、次第に滑らかな動きへと変わり、巧みに快感を得ていく。
「んっ…あぁっ……一郎……私…もう……」
 露になった乳房を大神の目の前で弾ませながら、グリシーヌは絶頂が近い事を告げる。
 それは大神も同じだった。巧みになっていくグリシーヌの腰使いに、大神も同じように限界が近かった。
「俺もだよ……一緒にな…グリシーヌ」
 大神の言葉に嬉しそうに頷き返し、グリシーヌは更に激しく腰を動かし始めた。
 二人の表情が同時に苦悶に歪む。
「あっ、あっ、一郎っ…一郎っ……イクっ…イっちゃうっ……ふぁぁぁぁぁっ!!」
 達した瞬間、グリシーヌの腰の動きが止まり、膣内が断続的に大神の物を締め付ける。
 同時に、大神もグリシーヌの体内へと精を放っていた。
 流れ込む体液の感覚と、絶頂の余韻にグリシーヌの背中が震える。
「ふぁっ……中に……出てる………」
 次第に力を失っていく大神の物を体内に受け入れたまま、グリシーヌは幸せそうな笑顔で大神に唇を重ねた。

「…その………気持ち……良かったか……?」
 行為が終わり、衣服の乱れを整えたグリシーヌは、不安げな表情で大神に尋ねる。
 その言葉に大神は笑顔で応える。
「ああ……素敵だったよ、グリシーヌ」
 大神の言葉に安心したのか、不安げだった表情が一気に笑顔に染まる。
 しかし、次の瞬間にグリシーヌの口から放たれた言葉に、大神の表情が凍りついた。
「エリカ……よりもか?」